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門から屋敷までは、かなりの距離がある。まだ半分くらいなのに、徒歩なら二十分はかかりそうだ。

栄えている街の領主って、すごい。


「久しいな。魔導鉄道の開通式典以来だろうか」

「ええ、殿下もお変わりないようで」

「非公式の場だ。かしこまらないでくれ。アルトゥールでいい」

「恐れ入りますわ、アルトゥール様。実はわたくし、今は家出中ですの。令嬢としてではなく、魔術師ローガとして扱っていただいても?」

「承知した。改めてよろしく、ローガ殿」


アルトゥールの言葉で空気が柔らかくなる。

お貴族様のかしこまった礼儀タイムから、気安い雰囲気になって、思わずほっと息を吐いた。


「では、そこの可憐なレディをご紹介いただけますか?」


突然話を振られて背筋が伸びる。


ええっと確か、この場合はアルトゥールが紹介してくれるまで喋っちゃいけないんだっけ? 貴族のマナーについては、父がかるーく教えてくれた気がするんだけど、上手く思い出せない。


「彼女はティアーナ。共に旅をしているエルフだ」

「ティアーナです」

「ボクはローガ。キミと出会えた幸運に感謝を!」


芝居がかった口調に、絵本から出てきた王子様みたいな美人。

歌劇団なら男役だろうか。……よく見ると線は細く柔らかいから、やるなら娘役かも?


まあそれはそれとして、長い金髪を後ろでひとつに結んでいる姿は、貴族の子息と言われたら納得できるものでもあった。絶妙なバランスで成立している男装だ。


「ティアーナ嬢。屋敷に着いたら、ボクとお茶でもいかがかな。アルトゥール様を伯父上に会わせるのは問題ないが、キミを同席させるのは難しいんだ。最近、暗殺騒ぎもあったからね」

「暗殺?」


驚いているのだろうけれど、アルトゥールは表情も声音も変わらない。多分、これが余所行きの姿なのだろう。

一緒に旅をしている間は、いつも表情豊かだったから見慣れない。思い返せば出会って最初の頃は微笑を絶やさない人だった気もする。


私はどうやら、アルトゥールにかなり心を許されているらしい。そう思ったら、なんだか落ち着かなくなってきた。


「ええ。貴族に対する不満を持った者たちが、施設の破壊や住民への加害、伯父上の暗殺計画などを行っているんです」

「もしや、魔導鉄道が止まったのも?」

「ああ……アルトゥール様もご存知なんですね。今、魔導鉄道が乗っ取られてて」


言った後に、あれ? これ言ってもいいんだっけ? などと首を傾げているローガさんは、もしかしたら天然ドジっ子さんなのかもしれない。麗しい王子様のような見た目でドジっ子というのは、一部に人気がありそうだ。


「それならやはり、ティアーナも同席させてほしい」


ローガさんは、いかにも困りましたというように、眉を下げて狼狽えている。


対するアルトゥールは隙がない。

穏やかな笑みを浮かべたまま、微動だにしない。けっこう怖い。私がローガさんの立場だったら、ちょっと泣きそうになってたかも。


「アルトゥール・セラフィは政治的な問題には介入できないんだ」

「ああ……ありましたね、そんな条約……」

「だが、ティアーナには無い。そして、彼女に何かあれば、私が動ける」

「ああ……そういう……」


アルトゥールが何をしようとしているのか。

ローガさんはどうして遠い目をしているのか。


よくわからないので、一旦考えるのをやめる。


とりあえず私は、アルトゥールに習ってにこにこしていよう。突っ込んだら負けだ。現実逃避しちゃお。


「ではティアーナ。英雄になってみようか」


……はい?


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