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思えば、初めて会った時からそうだった。


まるでそれ自体が生きているかのように膨らみ、揺らめくもの。暗く、深く、濃い。彼に付き従う影であるのに、彼の意志とは別に動いているようだった。


「アルトゥールのカゲって、生きてるんですか?」


穏やかだった顔が、驚きに染まる。アルトゥールがじっと、私の目を見つめた。


ああ、まただ。影が揺れている。


そして、私を見るアルトゥールの青い瞳が、鮮やかな青が、深い海のように、虚のように。


いつか見たブルーホールも、こんな深い青だった。


「……私には、自分の影についてはよくわからないが、恐らく私の力がティアーナには影という形で見えているのだろう」


下を向いたアルトゥールにつられて、私も下を向く。今は何も無い、ただの影だ。


「アルトゥールの、力……」


頷いたアルトゥールが魔石を袋に入れている。いまいち理解できなかったけれど、この話はそれで終わりらしい。


「そろそろ山小屋に着く。今日はそこで休もう」

「わかりました」


到着した山小屋は、無人で規模も小さい建物だった。コテージと言うよりはバンガローという感じの、丸太小屋。設備は必要最低限で暖炉のみ。雨風をしのげて、体を冷やさなければそれでいいと言いたげな場所だ。


しばらく人が使った気配はないのに小綺麗なのは、魔術だろうか。保存魔術と呼ばれる、物をそのままの形で止めおく魔術は、父が家の鏡などにも使っていた。似たようなものだろう。


アルトゥールは慣れた手つきで暖炉に火を入れている。


建物の造りと比べて、暖炉は随分新しい。年に一人くらいは、入っているのだろう。


私ができることといえば、道中で魔物とは別に狩った野鳥の調理や、木の実などの処理くらい。


室内のことはアルトゥールに任せて、外でやっておこう。


少し離れた場所に、焚き火の跡がある。なるほど、寝る時だけは室内で、他を外で済ませるのか。山小屋を使ったことがないので、新鮮だ。


「ティアーナ、夕食は……………………それは、鳥かい?」

「はい! ごはんにちょうどいいとおもって!」


羽根をむしり終えた鳥を捌いて、内臓を取り出していく。そのへんに捨てるわけにはいかないけれど、好きじゃないので食べたくはない。この辺りに埋めていい場所はあるのだろうか。


「手馴れているな」

「森そだちなので」


内臓を抜き終えたら骨を外す。骨で出汁を取ってスープにしたら、明日の朝ごはんにも良いだろう。

美味しいご飯を想像して、るんるんで解体していると、アルトゥールが傍に水桶を置いてくれる。


「ありがとうございます!」

「こちらこそ、助かるよ。一応食料は持ってきたが、温存できるのに越したことはない。私も手伝おう」


焚き火跡に薪を組んで、魔法を使って火を灯す。魔法で生み出した棒を使い、トライポッドのようなものを組み立てて、網を吊るすまであっという間だった。アウトドアに長けた聖人様である。


私は網よりも大きめに肉を切り、アルトゥールの元へ持っていく。


「まずは火を通してしまおう。簡単にスープも作ろうか」

「はい! あっ、ほねでだしもとりましょう!」


網に肉を並べた後、アルトゥールの出した鍋に残った骨を入れる。出汁を取るには時間がかかるので、明日の朝ごはん用。屋内の暖炉にかけておけばいい。


今日の晩御飯は野鳥がメインで、木の実でスープを作ろう。父がよく作ってくれたものを思い出せば、何とかなるはず!




……と、思っていたのだ、けれど。


「なんか、ぱっとしないあじ」

「……少し手を加えても?」

「あい……」


父は、素材の味を活かした料理を作るのが得意だったのだが、私はそうじゃないらしい。不味いと言うほどではないけれど、美味しくはない、微妙なものになってしまった。

アルトゥールはそれを少し味見して、何やら調味料を足していく。


「ティアーナ、どうだい?」

「はい……んむ……んむむ!? おいしい!」


なんかすっごくおいしくなってる!


「それじゃあ、夕食にしよう」

「はーい!」


料理まで上手いとなると、アルトゥールは一体何ができないのだろう。


いつか見つけてみたいなと思いながら、美味しいご飯に舌鼓を打つのだった。


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