17
「ティアーナちゃんおいで〜」
「きゃー! かわいい!」
私の予想通り商人だという男には、三人の使用人と御者兼護衛が二人、その他使用人以下の雑用が三人という話だった。
馬車は二台あり、主人である男が乗る馬車と、使用人と荷物を乗せる幌馬車がある。私は使用人たちと幌馬車(要するに荷馬車だ)に乗っていた。
アルトゥールは荷馬車の後ろで怪我をした馬を引いている。
最初は男が同じ馬車に乗るように誘ったようだが、アルトゥールは有事の際に対応するためにと断ったようだ。
雑用たちは馬車には乗らず、横を歩いている。雑用と言えば聞こえはいいが、ほとんど奴隷のようなものだろう。それでも、必要最低限の待遇は受けているようだ。
使用人のうち一人は男性で、あとの二人は女性だった。
その女性たちは、私の髪を弄って遊んでいる。エルフの特徴である耳を、晒さないように髪を下ろしていたのに……もう意味が無い。
アルトゥールが「ただの子供よりも、エルフだとわかる方がいい」と言わなければ許さなかっただろう。
まあ確かに、最初にフードを被っていなかった時点で、ただの子供かエルフか、二つに一つだったのだ。ただの子供が聖人アルトゥールと二人旅というのは変だろう。普通に。
それにしてもだ。器用に私の髪をリボンと編み込んでいく手腕はシンプルにすごい。あっという間に編み込みツインテールが完成してしまった。
後ろから私たちを見ていたアルトゥールからは「すごいな……」という感嘆の声まで聞こえる。
「ねえ、ティアーナちゃん。うちの制服も着てみない?」
「制服だけは可愛いものねぇ」
「お給金は可愛くないけど!」
「「ふふふふふ」」
笑っているのに、目が笑っていない。こわい。
アルトゥールよりも年上だろうお姉さま方が着ているのは、いわゆる“メイド服”だった。私が馬を探している間に着替えたらしく、汚れもほつれも見えない。デザイン性が高く、フリルやレースがあしらわれており、確かに可愛い。パニエもしっかり入っていてこだわりを感じるけれど、布の質はそんなに高くないのが難点だ。
「でも、見たいのは使用人の服よりもドレスよねぇ?」
「ねぇ?」
ワイバーンに襲われて死にかけたというのに、二人とも驚くほど元気だ……
毛先をそうっと持ち上げてみる。鏡がないからどうなっているのか、よくわからないのだ。
「ティアーナ」
アルトゥールに呼ばれて振り返ると、何やら魔法を使っている。あっという間に宙へ浮かぶ鏡ができていた。便利だ!
「わあっ、すごい! すごいです!」
魔法で鏡を作るのも、起用にリボンを使って髪を編み込むのも、すごい! 私なんて一つ結びくらいしかまともにできないのに!
「今度、私が髪を結ってもいいかい?」
「はい! じつはわたし、そういうの、にがてで……」
「彼女たちほど上手くできるかは自身がないが……頑張るよ」
微笑むアルトゥールに両脇の使用人たちが色めき立つ。使用人としての知識と経験がある彼女たち並にできたら、逆に怖い。できなくて当然だから安心して欲しい。
毛先をいじりながら、両親は着飾ることに興味の無い人達だったなと思い出す。美しさよりも機能性を重視していた。それにしては弓や武器には装飾を施していたな……もしかしたら、なにか意味があるのかもしれない。
マントの下に隠れた弓と羽を指先で撫ぜながら、考える。
人々の営み、生活の匂いがする。もう少しで街に着くだろう。
そうしたら明日からは山を登って、山を越えたら鉄道へ。道のりはまだ半分以上あるけれど、少しずつ確実に進んでいる。もしかしたら、一ヶ月で到着できるかもしれない。
一緒にいるうちに気付いたのだが、アルトゥールよりも私の方が、接敵に気付くのが早い。更に私は弓使いだ。いち早く気付き、仕留められれば、有利に事が進む。速度を落とさずに山を登れるかもしれない。
もっと感覚を研ぎ澄まそう。せっかく、私はエルフなのだから。




