表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/38

16

結論から言うと、アルトゥールの大勝利だった。


後で聞いた話によると、到着次第すぐにワイバーンの群れを斬り伏せ、負傷者の治療を行い、横転した馬車を道から退けて、皆が路肩で休めるように整えてから馬車の修理を始めたらしい。


そのため、私が到着した頃には既に馬車の修理が終わっていた。お見事としか言いようがない。


「ティアーナ! ありがとう。馬を驚かせてしまったな……」

「だいじょうぶです。なんにもわかってなかったですよ」


軽口を叩いたら馬に小突かれた。この馬、言葉を理解している……!


周りを見渡す限り死者はいなそうだ。それどころか誰も怪我をしていない。着ている服は汚れたり破けたりしているし、馬車もボロボロだ。なのに、人だけが無傷で違和感を覚える。アルトゥールに視線を向けると、余程わかりやすい表情をしていたらしい、安心しろと言うように微笑まれた。


「私は治癒魔法が使えるんだ」

「なおすのはできるんですね」

「強度が違えど、構造は同じだからね」


なるほど……まったくわからない。


「先を急ぎたいだろうが、少し馬を休ませよう。彼らの馬が逃げてしまったらしいんだ」

「わかりました」


馬から降りて、手綱を近くの木に繋げる。


アルトゥールが出した桶に、アルトゥールが出した水を入れて馬の給水を行う。何も無い空間から物が出てくるのにも慣れた。収納魔法と言うらしく、正直私はそれが一番欲しい。


「あの、アルトゥール・セラフィ様。この度は本当にありがとうございます。して、そちらの方は?」

「アルトゥールでいい。彼女は……旅の同行者(パーティーメンバー)だ。きみたちの危機に気付いたのも彼女だよ」


代表者らしき男性が平身低頭してアルトゥールに近付きながら、私のことを見下していた。しかし、アルトゥールの「旅の同行者(パーティーメンバー)」という言葉で態度を変える。


パーティーはギルドの仕組みのひとつで、複数人の集まりを指す。同じパーティーに属するものは、パーティー内において平等だ。種族や階級における格差が存在しない。

つまりアルトゥールは、私を自身と対等であると暗に告げたのである。


パーティー外から見たらアルトゥールと私ではかなりの身分差だし、遅れて来た私を丁重に扱う理由は無い。しかし、アルトゥールが対等に扱っている人を、粗雑には扱えないのだろう。


「なるほど! お名前を伺っても?」

「……ティアーナです」


中肉中背の男性は、ステレオタイプな“権力者”や“富豪”という身なりではないが、上着ひとつとっても上等な物を使っているのは見て取れる。


右手にペンだこがあり、私を見る視線はどこか値踏みをするようだ。恐らくは商人だろう。彼以外の人たちは、使用人と護衛だろうか。街でよく見る服装、装備なので、羽振りはあまりよくないか、下の者にお金をかけないタイプか……


とにかく、エルフだとバレない方がいい。何が起きるかわからないのだから。


「アルトゥール。わたしはにげたウマをさがしてみます」

「わかった。あまり遠くへは行かないように」


頷いてその場を離れる。


軽く深呼吸。


警戒していると、緊張状態になるから疲れる。アルトゥールと居る時はそんなことないから、きっと、一緒にいると気が緩んでしまうのだ。良くはないけれど、アルトゥールが私に害をなすとも考えられない。今は良いだろう。


森の中に入り、よく耳を澄ませると色んな音が聞こえてくる。虫の羽音だけでなく、植物が成長する音ですら拾えるこの耳に、馬の足音が聞こえないわけがない。


どうやら、森に入り込んでしまったため、迷子になっているらしい。一頭、怪我をしている。脚だと少し困るな。運べなくはないだろうが、着いてきてくれるだろうか。


馬を連れて帰るのなら、行きの時間は短縮しなくてはならない。あまり音を立てないように留意しながら走ることにした。小さい体は小回りが効いて良い。


「みつ、けた……っ!」


少し開けた森の先、小さな……池? 沼? がある場所で馬が二頭、水を飲んでいた。怪我をしているのは背中のようだ。


辺りには見たことの無い草や花が生い茂っている。父の持つ植物図鑑をほとんど暗記している私が、知らない植物。興味はあれど、毒だった時に困る。見るだけに留めておこう。


馬を怖がらせないよう、慎重に近付いて傷を見る。幸い血は止まっており、傷は深くなさそうだ。

手持ちの薬草で処置をしていると、見たことがある植物に気付いた。確か父が「見かけたら取っておくといい」と言っていた物だ。


「すこし、いただきます」


声をかけて葉をちぎる。これを少量入れるだけで薬のランクが跳ね上がるほど、貴重な植物なのだとか。魔術が使えない代わりの知識も、案外役に立つのかもしれないな。ちぎった葉を一枚、馬の傷にもあてておく。


「さて、そろそろもどり――」


急に、視界が真っ白に塗り潰された。それが光だということに遅れて気付く。瞼を閉じても目が焼かれるような、強い光。黄金の輝きとは違う、降り注ぐ太陽みたいな、熱い光。


奪われた視界の代わりに、聴覚が鋭くなる。羽ばたく音が聞こえる。大きな音だ。それだけで、巨体なのだとわかる。きっと、あの蜘蛛の魔物より数倍は大きいだろう。


遭遇したら死ぬ。確実に。


けれど、体が動かない。


ただ、過ぎ去るのを祈って、ひたすらに待つ。


やがて視界が徐々に暗くなり、熱が引いていく。羽ばたく音も遠くなっていく。よかった。わたし、しんでない……


何度か瞬きをしている内に、徐々に戻る視界が安堵を呼ぶ。大きく息を吐いた。震えて倒れ込みそうになる足を叱咤して、必死に立っていると、馬が傍に寄ってくれた。優しい子たちだ。


二頭を撫でていると落ち着いてきた。どれくらい時間が経っただろう。早く戻らなきゃ。


あれだけ大きな鳥だ。後ろ姿でも見えないかと上を向いた私の視界に、きらきらと降ってくるものがある。


それは、ふわり……ふわり……と風に揺られながら、私のてのひらに舞い降りた。


馬の頭から尻尾までと大差ない大きさの羽根だ。微かに輝いている。尾羽だろうか。


自分の身に何が起きたのか、まだ理解できてはいないけれど、これは持っておくべきだろう。少し曲げつつ弓と一緒にマントの中へと仕舞いこんで、馬を先導する。


あとで、アルトゥールに聞いてみよう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ