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7話 付与士を舐めるとどうなるか教えてやる

 

 いつものように寝癖バッチリで冒険者ギルドへと向かう。

 大勢が行き交う大通りに入れば、俺なんかにも気軽に声をかけてくる連中が現れる。


「よぉラックス、今日もギルドか」

「そうなんだよ。早く銀の護剣みたいに顔を出さずに依頼をもらいたいよ」

「そりゃあ気が早いってもんだ。地道にやれよ」


 靴屋の親父さんは今日も元気そうだ。

 昨日は嫁さんと喧嘩したって言ってたかな。あの様子だと仲直りできたみたいだな。


 鮮やかな野菜が並んでいる店のおばさんが「ラックス」と呼んだ。


「今日もしけたツラしてんね。依頼で失敗したのかい」

「してないから。こちとらS級だぞ。そっちは売れ行きどうなの」

「まぁまぁってかんじだね。すこしまけとくからあんたのところで買ってくんないかね」

「じゃあいつも通り紙袋一杯に野菜を適当に詰め込んでくれ。ホームに持っていってくれれば代金はフェリスが払ってくれるよ」

「毎度」


 野菜売りのおばさんはご機嫌となった。

 どうせ売り上げよりフェリスに会える方に喜んでいるに違いない。


 足下をガキ共がまとわりつく。


「ラックスじゃん。まだモテないのか」

「うるせぇ。どっか行ってろ」

「きゃははは! ラックスが怒った」


 ガキに舐められる俺って。

 はっ、どうせ俺はモテませんよ。二十三にもなって未だに独身ですからね。覚えてろクソガキ共。今に超絶美人の彼女を作って吠え面かかせてやる。


 市場を出ればすぐに冒険者ギルドの看板が視界に入る。

 ここまで来ればすれ違うのは冒険者が大半となる。ヒューマンだけでなく獣人もそこそこ見かける。エルフやドワーフは稀だ。ドラゴニュートも見かけたりするが、あいつらは流浪の民なので同じ場所に長くは留まらない。


 間もなくギルドというところで、顔見知りの熟練組冒険者に呼び止められた。


「これからギルドか?」

「ああ、何かあったみたいな顔だな」

「受付でいちゃもんをつけている奴らがいてな。どうやら外から来た連中らしい」

「で、注意もせず逃げてきたと」

「無茶言うなよ。子供も生まれてばかりでこれからって時なんだ。変なトラブルなんかに巻き込まれちゃ嫁と子供を泣かせちまう。ラックスなら上手く助けられるだろ?」

「俺は巻き込まれても良いのかよ!?」

「この町で二つしかないS級だろ。とにかく頼んだぞ」


 そいつは良い笑顔で肩ポンして逃げていった。


 S級パーティーを、都合の良い便利屋か何かと勘違いしていないだろうか。


 まぁでも様子くらいは見ておくかな。相手によってはギルド職員でも対応しきれない状況もあるから。

 それにアバンテールのギルドや冒険者達が、舐められるのも気持ちの良い話ではない。

 ここにはここのルールが存在する。

 外からドカドカやってきて横柄な態度を取れば、どうなるのかを身をもって教える必要がある。


 できるなら平穏に解決したいところだが。






「このギルドはどうなってやがる。無傷のスパイクラットだったはずだ。どうして銀貨五枚にしかならない。二十枚はくだらないはずだぞ」

「何度も申し上げたとおり、お渡しいただいた素材は傷だらけでひどい状態でした。保存状態も悪く最低の品質であったためこのような額となった次第です」

「傷だらけだと!? ふざけるな! ここに持ち込んだ時点では無傷だったはずだ! こいつらだってちゃんと見ている。騙して値切ろうって魂胆だな」

「そのようなことは決して」


 受付でいちゃもんをつける四人の男達。

 ギルド職員は対応に困っているようであった。


 俺は入ってすぐ壁際に移動し様子を窺う。


 たまにいるんだよなああいう奴ら。王都からやってきた連中かな。向こうは新人職員も多いしそもそも冒険者の総数が桁違いだから、手間や時間のロスを嫌ってギルドも色をつけてお帰り願うパターンが多い。そこで味を占めた連中が地方でも同じ手段で儲けられると勘違いしてやってくる。

 田舎で活動するこっちとしては良い迷惑だ。


 さて、どうするかな。


「無傷ですって? 矢傷だらけだったじゃない」


 よく通る声を発したのは赤毛の女性剣士だった。

 歳は十五ほど。ぱっちりとした眼と、はつらつとした顔つきは愛嬌があって可愛らしい。


 確認するまでもなく昨日助けた剣士ちゃんだ。


「やめようよアカネ。この人達C級パーティーらしいよ」

「あんなの見過ごせるわけないでしょ。ベルは下がってていいから」

「リノアも、手伝う。ベルはどいてて。邪魔」

「邪魔!?」


 剣士ちゃんを止めようとする魔術師ちゃん。

 三つ編みにした緑色の髪に大人しそうな整った顔立ち。淵の広いとんがり帽子をかぶり、ローブを身につけ長い杖を持った姿はいかにもな魔術師スタイルであった。

 首から提げる青いネックレスは王立魔術学院の卒業生の証し。

 最近学院から出てきた駆け出し魔術師のようだ。


 もう一方のシーフちゃんは剣士ちゃんと同じく戦闘準備万端だ。

 短めの黒髪に常に周囲を観察するような半眼。無表情を貼り付けるその容姿は、百人いれば百人が美少女と評する秀麗な顔立ちであった。

 ただ、シーフという戦闘職だからなのか、気配が薄く注視しなければその美貌に気づけなさそうであった。


「なんだお前ら。もしかして駆け出しか? おい、はな垂れたガキ共が俺達に喧嘩売ってやがるぜ。さすが田舎のギルドだ。どいつもこいつも教育がなってねぇな」

「田舎だかなんだか知らないけど、あんた達のやってることはただの恐喝よ。ギルドを脅して金をむしり取ろうなんて言語道断。衛兵に突き出してやるわ」

「言いがかりだ。俺が出した素材は確かに無傷だった。騙そうとしてんのはギルドなんだよ。てか、そこまで言うのならてめぇらが補填してくれよ。なんならその身体で払ってくれてもいいんだぜ」

「お断りよ。このクズ」

「おお、やるか? C級パーティー『泥蛇(マッドスネーク)』に新人が勝てるとでも?」


 体格の良い男が剣を抜くと、他の男も武器を抜いた。

 対して剣士ちゃんとシーフちゃんも、ほぼ同時に剣とナイフを構える。


「まぁまぁ、お互い武器を収めて」

「誰だてめぇ」


 見かねて俺が間に割って入る。

 剣士ちゃん達は俺の正体に気が付いたらしく驚いたような表情をしていた。


「俺は名称未定(アンノウン)のリーダーだ」

「まさかS級の!?」

「この町のギルドは冒険者を騙すような仕事はしない。誰に聞いたってそう言うと思うよ。君達が受け取った査定額は正しい。もしこれ以上ごねるつもりなら俺が相手になる」


 俺がそう言うと男達は笑い始めた。


名称未定(アンノウン)のリーダーといえば付与士。攻撃手段のない付与しかできない戦闘職が俺達とやり合うだって? 笑わせてくれる」

「こいつをやれば有名になれるんじゃねぇか」

「S級だもんな」

「俺達でも勝てる! やっちまおうぜ!」


 男どもは臆するどころかより闘志を剥き出しにした。


「付与士ってのは魔術師になれなかった奴がなるもんだぜ。できることと言えば付与だけ。魔術師の下位互換がアタッカーに喧嘩を売ってどうなるか思い知らせてやるよ」

「戦いは避けられそうにないか。悪いがここでやってもかまわないか?」


 俺は彼らの奥にいるギルド職員へ許可を求めた。

 彼女は笑顔で『やっちゃってください』と無言の返事をした。


「どうせたまたまS級になれただけの幸運野郎だろ。いいぞやっちまえ」


 仲間と言うより手下の方が正しい三人の男が剣を抜く。

 男達が動き出す前に、俺は短杖で魔術文字を描く。


『頭痛』

『嘔吐』

『下痢』


 男達は武器を落とし床に倒れる。

 一人は頭を押さえて唸り、一人は口を押さえて動かなくなる、一人は顔を青くしてお腹を押さえた。


「なにをしている! やれ!」

「無理じゃないかな。動けば一生忘れられない汚点ができるからさ。俺の掛けた付与魔術は三つ。頭痛、嘔吐、下痢。対人戦にもってこいのデバフだ。下品すぎるとクレームが入るのが難点だけど」

「ばかな、あの一瞬でそれだけの付与を!? 魔術師に劣る戦闘職じゃなかったのか!?」

「勘違いしているみたいだから言っておくが、付与士は魔術師の下位互換じゃない。付与に特化したエキスパートだ。その効果は魔術師の施す付与を遙かに凌ぐ」

「なっ」


 瞬時に『麻痺(パラライズ)』の魔術文字を描き男に付与する。


「あぎっ!?」

麻痺(パラライズ)を付与した。馬鹿にした付与士に倒される気分はどうだ。C級の泥蛇(マッドスネーク)さん」


 全員まとめて麻痺でも良かったが、四人の中に魔術師がいたから口を閉じさせる必要があった。魔術師は口さえ動けば魔術を行使可能だ。


 あとは軽い運動もかねて。


 付与士にとって筆の速さは付与術の速度に直結する。

 仕事じゃなくてもこうして”ほぐし”を挟んでおかないと、いざって時にイメージ通りに動かないことがあるのだ。


「付与士ってこんなに強いの!?」


 声を上げたのは剣士ちゃんだった。

 魔術師ちゃんとシーフちゃんを伴った彼女は俺にキラキラした眼を向けた。

 よくみれば魔術師ちゃんもシーフちゃんも感動したような表情だ。


「ラックスさん、先日は助けていただきありがとうございましたっ!」

「ああ、うん」

「リノアが生きて戻れたのは、名称未定(アンノウン)のおかげ。感謝。付与も……すごかった」

「少し間があったね」


 三人とも十五歳くらいかな。

 可愛らしい少女達に囲まれ俺はタジタジとなる。


 あのさ、どうにかしてほしいんだけど。


 それとなくギルド職員に目を向けると、彼女はにこっと微笑むだけだった。



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