63話 俺を縛ってどうするつもりだ
――雷光を纏った一閃。
ルークの刃は、横薙ぎにガンズに直撃。
鎧の一部を砕き重い刃がその身に食い込いこむ。
「魔道具による属性付与か! 我が皮膚が焼かれる――!!」
「僕の本領はここからだ! はぁあああああああ!!」
ガンズの足が踏みとどまることができず後退する。
ルークの力は経過と共に増し、その間もほとばしる雷撃は敵を焼き続けていた。
「ゼロ距離重スラッシュ!!」
「なっ」
ゼロ距離からの強斬撃。
刃はガンズの脇腹を僅かに切った程度であったが、衝撃までもは耐えきれずダンジョン内の壁を突き破り、隣接した柱が並ぶ大空間へと転がり出た。
敵を追うべく穴の淵に足を掛けたルークは、ふと思い出したように足を止め振り返る。
「あれを倒したらすぐ駆けつけるよ。それまで耐えてくれ」
「悪魔かもしれない女を相手にしろって? ただの付与士に荷が重いと思わないか」
「君を普通の付与士とは思っちゃいないさ。頼んだよ」
「おい。くそっ、爽やかに難題を置いて行くんじゃねぇ」
ルークは白い歯を見せフレッシュな笑顔を浮かべると、穴の向こうへと飛び出して行く。残されたラックスとグリスは互いに視線を合わせ、示し合わせたように杖を構え合った。
ああ言ったけどそこまで追い詰められている感覚はない。
アークデーモンほどの脅威を目の前の女から感じないからだ。それに今の俺には、師匠から教えてもらった”奥の手”がある。決して楽観はできないが、あの時ほど絶望的でもない。ラックスはそう考えながら短杖をいつでも振るえるようスタンバイしていた。
対してグリスも、彼を敵ではないと考えているのか口元に薄ら笑いを浮かべていた。
「お姉さんもデーモンなのかな?」
「あんな化け物と一緒にしないで。私は正真正銘ただの人よ。ただし、凄腕の魔術師だけど。そうね、本格的に戦う前に自己紹介をしておこうかしら。貴方も自分を殺す相手の顔と名前くらい知っておきたいでしょ?」
グリスはフードを取りその顔をさらした。
癖のある長髪に切れ長な目。目元にはほくろがあり、薄い唇を舌なめずりするように舐める。耳には数個のリングがつけられていた。あふれ出る妖艶なオーラはラックスの脳を直撃した。
「おい、付与士。大丈夫なのか!? 相手はエロい女だぞ!?」
「問題ない」
「回復や解呪ならいつでも言って。私も手伝うから」
「助かるよ」
後ろでジンとエマも同様にいつでも戦えるよう武器を構えていた。
彼らに背を向けるラックスは、その顔に何の感情も浮かべず無表情でグリスを見つめる。
「あら、さすが名称未定のリーダーさんね。私の色香に一切反応しないなんて」
「これでもS級の看板背負っているんでね」
短杖を構えつつラックスは――内心で動揺しまくっていた。
(うわぁあああああああ!! どうしよう、どちゃくそ好みなんですけど!? 泣きぼくろとか反則じゃないですか!? ちくしょう、こんな場所じゃなく大人のお店で出会いたかった)
懸命に表情筋を殺すラックス。
ピクリとも表情を動かさない彼にグリスはその眼を細める。
「訊いていた噂と違うわね。ラックス・サードウッドはそこそこのクズ。女とみると見境がないって話だったけど。へぇ、実際は堅物なのね。所詮は噂ってことかしら」
「何者かまだ教えて貰っていない」
「うっかりしてたわ。まだ途中だったわね。私はグリス。『魔王神教』の緊縛のグリスよ」
「魔王神教?」
なんだそれ。まったく訊いたことがない。
ラックスは記憶にない名称に首をかしげる。対して過剰に反応した者がいた。
「魔王神教!? まさか最近よく噂になっている!?」
「エマは知っているのか?」
「むしろ何で知らないの!? 魔物である魔王を崇める謎の新興宗教だよ。設立自体はかなり前みたいだけど、近年急激に勢力を拡大させ、各地で手段を選ばない方法で魔道具を集めてる集団だよ!」
いや、知らないな。あー、でも、ずいぶん前に、殺してでも魔道具を奪うダンジョン荒らしが出没しているから気をつけろってギルマスに言われたことがあるな。もしかしてこいつらのことか。しかし、魔王を崇める新興宗教ね。あんなものをありがたがるなんてどうかしてる。厄災しかもたらさないぞ。そんなことをラックスは考えた。
「半分は正解ね。訂正するとしたら魔王の部分。私達は魔王じゃなく魔王神を崇めているの。魔物は進化して魔王になる。だけど、その先を視た者は誰もいない。私達は自らの手で神を創り出そうとしているの。その為には魔道具が必要なのよ」
「魔王を超えた存在? そんなの本当にあるのか? ただ騙されてるとか」
「悪いけどこれ以上話すつもりはないわ。教団の極秘事項だもの。こうして私達がA級やS級を狙うのは魔道具集めの最大の障害だからよ。銀の護剣は近々潰すつもりだったから、ここで会えたのは僥倖だったわね。さぁおしゃべりは終わり。殺し合いを始めましょ」
グリスは詠唱短縮から魔術を発動する。
ほぼ同時にラックスも『嘔吐』のデバフを発動。しかし、付与はレジストされ、魔術によって生み出された石の礫が間を置かずラックスを襲う。石の弾丸を短杖でたたき落とした彼は、探りを入れることにした。
「土系統を得意とする魔術師ってところかな」
「土? 違う。私の得意な魔術は――」
ラックスの足下から、急速に草や蔓が伸び始める。
彼の足に絡みつき慌てて引きちぎって飛び下がった。その様子にグリスはクスリと笑った。
「植物魔術。草花系統とも呼ばれるこの魔術は、事前に用意した種を使って、相手を攻撃や状態異常に陥らせるの。貴方が砕いた礫には、私が魔術で加工した種が仕込まれていたのよ」
植物魔術――植物の神秘を調べる過程で生まれた特異な魔術である。
即座に使用できる火や水と違い、この魔術を攻撃に用いるには事前の準備が必須となり、尚且つ環境にも大きく左右される扱いの難しい魔術と言われている。
草花系統の他に樹木系統や菌糸系統などと多様であり、それらを全て含めて植物魔術とひとくくりとして呼ばれることも多い。
グリスは口角を上げて礫を無数に生み出した。
「さぁ、私の可愛い種入りの弾丸よ。精一杯防ぎなさい。目覚めた草花が貴方を捕まえて養分にしてくれるから」
「格好だけじゃなく使う魔術も癖強とは」
放たれた礫をラックスは、黙々と短杖で砕き続ける。
その様子に後方にいるジンが声を発した。
「なんで避けないんだよ。防げばあいつの魔術が」
「ウチらがおるからや。ラックスさんは攻撃がこっちに来へんよう壁になってくれるてるんや。悔しいけどウチらは、あの人の足手まとい。これがS級なんやな・・・・・・」
エマの腕を借りて立ち上がったマインは歯噛みする。
だが、一歩前に出たスイが杖を掲げた。
「アクアシールド!」
水の膜が四人を覆った。水系統における防御魔術の一つ。
ローブをはためかせながら魔術を発動し続ける彼にジンもマインも驚いた様子だった。
「ラックスさん、防御魔術を発動させました。後ろは気にしないでください」
「良い判断だ。助かるよ」
「褒められた・・・・・・」
振り返って微笑むラックス。
その足下では、彼を絡みとろうと棘の生えた蔓がみるみる伸びていた。
(不味いな。デバフをかけようにも茨が邪魔で文字を書く暇さえない。かといって強引に書こうとすれば礫が俺を襲う。狭い空間での戦いになれてるな)
ラックスの額から汗が滴り落ちた。




