62話 さ、最初から気づいていたから!
ガンズの振り下ろした斧が石畳を砕く。
攻撃を躱しつつ側面に回り込んだ青髪君の斬撃が相手の首を狙う。だがしかし、ガンズは斧を引き抜いたかと思えば、自ら剣に向かいフルフェイスではじき返した。
「なんて奴だ。俺よりも戦い慣れしてやがる」
青髪君は後ろに着地しながら舌打ちをした。
一方のガンズは、追い詰められた感じはなく未だ余裕があった。
「もっと血をたぎらせろ。もっと俺を興奮させろ。求めているのはギリギリの命のやりとり。勝利した後にその死体で作品を作るのだ。そう、俺はゲイジュツカなのだ」
「はぁぁ、またあんたの死体遊びに付き合わなくちゃいけないのね。仕事とは言えなんでこんなイカれた悪魔なんかと」
「そういうなグリス。俺だって貴様の最悪な趣味に付き合っているだろ」
「私の趣味は最高よ。幸せそうなカップルを完膚なきまでに叩き伏せ、女の前でそいつの彼氏を犯す。あの絶望する瞬間は最高。最後に殺す瞬間も本当に濡れるわ」
「やはり最悪だ」
ガンズとグリスと呼ばれた女が言葉を交わす。
その間に格闘ちゃんが距離を詰め、空中ひねりからの拳をたたき込んだ。
「ぬぅ」
「どうや! 少しは効いたやろ!」
石畳を滑るようにガンズが耐える。
寸前で腕を交差し防いだようだが、衝撃を逃がしきれず僅かに唸る。
しかし、腕を開いたガンズは平然と一歩踏み出した。
「なんでや!? ウチの渾身の拳が効いてないんか!?」
「今のは少し驚いたぞ。蜂に刺される程度にはな」
「それ、デーモンジョークやろ? 蜂に刺されたらかなり痛いけどなぁ」
「お前ら人間には、蚊に刺されたと言った方が伝わるか」
「てことは全然ってことやな。スイ、遠慮なく吹き飛ばしてええで」
格闘ちゃんが横にずれ、その後ろから詠唱を終えた目隠れ君が現れる。
発動するのは水系統魔術。
彼の胸元では、魔術学院の卒業の証であるネックレスが揺れていた。
「ウォーターショット!」
生み出された水の弾丸が放たれる。
「私をお忘れ? エアロショット」
「なっ」
グリスの放った風の弾丸が、水の弾丸を全て射ち落とす。
視認から詠唱短縮の行使。フルで詠唱をした目隠れ君とは、段違いの展開速度。にじみ出る魔力も彼よりも圧倒的に多い。
あれれ? ライザって無詠唱だった気が。
放出魔力はコントロールしているだろうから、今は少なめにしてるのかな。ブロンクといいライザといい二人とも演技派だな。まじで本物の敵みたいだ。じわじわ追い詰めてる感も緊迫感があっていい。どうだルーク。正気に戻れそうか?
「あの二人は誰なんじゃ? 助けなくていいのか?」
「わからない。予定だとブロンクとライザのはずなんだけど、なんだかすごく違和感がある。どうしよう退くべきかな」
んん? エマが焦っているような。
でも、このタイミングで相手が来たのならあの二人じゃないのか? 体格もそっくりだし。俺には別におかしくは映ってないけどな。
「ルーク流、稲妻スラッシュ!」
「ぬるい!」
「くそっ、まただ。また防がれた」
果敢に攻める青髪君の剣を、ガンズは斧で撃ち弾く。さらにスイッチした格闘ちゃんが、鳩尾に拳を撃ち込む。
そこから繰り出されるのは連撃だ。
拳と蹴りの怒濤の攻撃を当て続けた。
「はぁはぁ、嘘やろ、なんでまだ立っとるん?」
「効かんな」
息を荒げ手を止めた格闘ちゃんの腹部に、ガンズの拳がめり込む。
弾き飛ばされた彼女は、それでも床を滑るように足をつけた。が、直後に膝を突き血を吐き出す。
「なんやこのダメージ。おかしいやろ」
「無事かマイン!」
「かろうじてな。あいつらはアカン。このままやとルークさんやエマさんまでやられてしまう。ウチらで逃がすしかないやろな」
「本気か」
「ボクらで三人を?」
青髪君達がこそこそ話を始める。
さっきのブロンクの一撃はやり過ぎだったと思う。
演技に夢中になりすぎて力加減を間違えたか? まったくちゃんと手加減しろよな。絶対後で怒られるの俺なんだから。
三人は再び陣形を作り武器を構えた。
「ここは俺達に任せてルークさん達は逃げてください」
「ちょ、ジン!?」
「ルークさん、貴方は俺の希望です。魔物に襲われる村を目の前にしながら、何もできなかった俺の前に現れてくれたのが貴方だった。貴方は言ってくれた。君もいつかは誰かを守る日が来る。僕も目指しているんだ。あの人のように誰かを助け憧れてもらえる存在に。貴方は俺の憧れだ。だから俺が、ルークさんを!!」
「ごちゃごちゃうるさいぞ小僧。ここらで死んでおけ」
ガンズが青髪君へ、斧を振り下ろそうとしていた。
それは彼にとって必死の一撃。迫る切れ味の鈍い分厚い刃に、青髪君の目が大きく見開かれた。
「――S級冒険者失格だな。愛弟子にここまでさせてしまうなんて」
「――やれやれやっと正気に戻ったか。苦労させる」
斧を受け止めたのはルークの大剣だった。
俺はガンズの脇腹に『速度低下』と『物理攻撃低下』の魔術文字を直書きしていた。
「貴様ら、あの一瞬で・・・・・・?」
動揺するガンズは、グリスのいる後方へと飛び下がった。
直後に青髪君が剣を床に落とす。その足は震え「あれ? 力が」と自分でもなぜ落としたのか理解していない様子であった。
「ジンもマインちゃんもスイ君も下がって。回復するから」
「三人は頼んだ。奴らは僕らで対処するよ」
「お帰りルーク」
「待たせたね」
エマとルークが視線を交わす。
やめろ。こんな場所でキラキラするな。だからこいつらは苦手なんだ。ところで問題は目の前の二人。予定と違うじゃないか。
「おいおい、ブロンクさんよ。どういうつもりだ。今のは本気で殺そうとしたよな?」
「いや、ラックス。この人達はブロンクとライザじゃないよ?」
「は? いやだって」
ふわりと再びグリスのマントがめくれる。
そこで俺は衝撃の事実に気が付いた。
胸が、小さい? ライザはもっと豊満で。
そうだ、なんか違和感があるなって思ってたんだよ。そうか胸か。ドスケベな衣装に気を取られ肝心の部分に意識が向いていなかった。
「こいつらは偽物だ!」
「うん。そうだね。しかも男の方は悪魔だ。彼女も同じなら厳しい戦いになる。パーティーは違うけど今だけは協力し合おう」
ルークの提案に俺は「支援するから思いっきり暴れろ」と応じてやる。
S級同士の共闘。どうしてこうなったのかはよく分からないが、提案に乗る以外に道はないと判断した。
しかし、デーモンとはね。ついこの間アークデーモンと戦ったばかりなんだが。
記憶が正しければ、デーモンって最も下位の悪魔だったよな。てことはあいつよりは戦いやすいってことか。それでも油断は禁物だ。下位でも悪魔。
マジで杖を新調してて良かった。剣は、ああ、ホームにおいてきちゃった。抜けそうなチャンスだったのに。俺の馬鹿。まぁいい。杖でなんとかするさ。
「グリス・・・・・・あの男はなんだ?」
「恐らく名称未定のリーダーね。存在感がなくて気が付かなかったわ」
「爵位持ちのアークデーモンをやったと噂の? 勝てるのか?」
「心配しないで。所詮は付与士、強力なアタッカーがいなければただの置物よ。あんたはルークを引きつけなさい。その間に私が始末する」
「ならばそうさせて貰おう」
ガンズはルークに狙いを定め斧を構える。
魔術師であろうグリスは、術式を構築し詠唱を開始する。
俺はルークを呼び寄せこそっと提案する。
「剣をこっちに出してくれ」
「剣を? 一体何を?」
「お前の魔道具に一時的に付与を施すんだ。この材質なら一時的な高出力にも耐えられるだろうさ。それから魔力の枯渇には注意しろよ。普段より馬鹿食いするからな」
「魔力量だけは自信があるんだ」
さすが魔術師の家柄。これで才能がないなんてもったいないな。
刀身に描くのは、刻印付与専用の魔術文字。
通常の付与と違い、効果時間は短いがその代わり性能を格段に上げられる。
魔力の文字で付与したのは『リミッター解除』と『属性強化』。
魔道具には、常に出力を制限するリミッターが儲けられており、これがないと魔道具自体が耐えられず崩壊してしまう。ルークの大剣の場合、素材が良いので解除してもしばらくはフルで性能を使える。
さらに彼に『速度強化』『魔力防御』『物理防御』の付与を施した。当然俺にも。
「これがラックスの付与か。悪魔相手でも勝てそうな気がするよ」
「いや、勝てよ。超一流付与士が支援しているんだ。それでも俺のライバルか」
「ライバル・・・・・・まだそう言ってくれるのかい?」
「面倒くさい奴だな。割の良い仕事を奪ってるお前は十分俺の宿敵だ」
「割の良い仕事、ぷっ、あはははっ、ラックスは本当に面白いな。だったら僕はこれからもライバルとして名称未定より儲けさせて貰うよ」
ちょ、おい。
ふざけんなって。
ルークの大剣から、目映い雷光がほとばしる。
蒼い稲妻が彼自身をも包み込んだ。
「雷撃のルーク、参る!!」




