61話 黄金の逆三角!!
――バリスタン地下迷宮。
アバンテール周辺にある初級向けのダンジョン。
死者の回廊と違い、ここは初心者でも最下層まで到達できるかなり難度の低い、所謂”お子様向けのダンジョン”として認知されている。
もちろんお子様ってのは、中堅組や上級が馬鹿にして言っているだけで、実際は大人でも油断すれば死んでしまう場所だ。
ダンジョンができた経緯は不明。年代は恐らく魔神がいた時代だ。
悪魔の作った物ではないとの調査結果が出ており、現在は隠し通路も全て発見され今後新たな発見はないと言われている。そういった背景があっても人がやってくるのは、まぁここが鍛えるのにちょうど良いってことだからだろう。
生息する魔物も種類が豊富で、稀にレアな個体も出現するそうだし。そこそこ安全に素材を集めたい奴らにとってもここは穴場だ。
難点はアバンテールから結構離れているのと一番近い村に宿が少ないことだ。
薄暗くほこり臭い石造りの通路を進み続ける。
通路は入り組んでおり、時折だが壁にぼんやりと光る照明があった。
響くのは足音と、どこから響く魔物の鳴き声。
「ここは暗いのぉ。まるでダンジョンみたいじゃ」
「みたいじゃなくてダンジョンだよ。ルーク」
眼がしわしわになったルークが、エマに手を引かれ俺達の後をついてくる。
身体は相変わらず筋肉が張った体なのに精神はよぼよぼのジジイだ。
ちなみに今回の依頼には、俺一人の参加となっている。
難易度の低いダンジョンで戦力もそれなりに揃っているしな。ただ、ルークをその中に含んでいいのかは微妙なラインだ。
ホームでは今頃、フェリスとノノンが仲良く買い物に出かけているころだろう。ザインは相変わらず引きこもり。シルクは未だに戻ってくる兆しはない、と。今もミルディアの書庫で本を漁っているのだろう。
「いいか、陣形はできるだけ崩すな。スイは攻撃をしつつサポート。マインは俺と攻撃だ。ルークさんとエマさんに良いところを見せるんだ。油断するなよ」
「任せて。頑張る」
「ウチの拳が唸るぜぇ!」
先頭を行くのは、新人パーティー『青狼の牙剣』の三人だ。
剣士のジン。
魔術師のスイ。
格闘家のマイン。
スイは黒の長い前髪で目元を隠している。
だぼっとしたローブを着ていて、身長の低さから長杖にやや重心を持って行かれふらつきがち。性別は不明。以後、”目隠れ君”と呼ぶことにする。
マインはブロンドをポニーテールにした勝ち気な印象の女の子。
格闘家らしく腕には手甲がはめられ、動きやすさを重視してか短パン姿である。その太ももは露出し足を閉じると綺麗な逆三角形が見える。まさしく黄金の逆三角形。素晴らしい。こっちは以後、”格闘ちゃん”と呼ぶつもりだ。
「なぁなぁ、なんで名称未定さんが来てんの? 予定やとエマさんにライザさんにブロンクさんが同行するって話やったやんか。ライザさんもブロンクさんもおらんしルークさん来てるし。どないなってんの?」
「それ、ボクも知りたかった。ジン君何か知ってる?」
「・・・・・・予定が変わって、名称未定のリーダーも指導するんだとよ。スイ、マイン、あのラックスとかいう付与士には気をつけろ」
「気をつけるって銀の護剣と同じS級やろ? 考えすぎとちゃうん?」
「だったらあの眼を見ろ。ずっとマインの太ももを凝視しているんだぞ」
「ほんまや。どエロい目でウチのこと見てる!」
「す、すごい。人の目も気にせず堂々と舐めるように。これがアバンテール最強の付与士。心が鋼でできている」
三人がこちらをチラチラ視線を向けつつささやきあっている。
ただ、ダンジョン内は反響するので丸聞こえだが。ところで目隠れ君、けなしているのか褒めているのかどっちかにしろ。
「ルーク流稲妻スラッシュ!」
青髪君の剣がスカルスパイダーを斬る。
微毒のある一メートルほどの蜘蛛は、真っ二つとなり石畳の上でぴくぴく痙攣した。
その技名いつも叫んでるの?
しかし、蜘蛛はまだいる。天井から壁をはい下りて来た蜘蛛を、目隠れ君が水の攻撃魔術でバラバラに吹き飛ばした。
「ふぅ、緊張した」
残り二匹の蜘蛛を格闘ちゃんが蹴散らす。
風を切るような後ろ回し蹴り。しなやかな筋肉が生み出す破壊力は固い甲殻をも砕く。それでいて残心を忘れず、即対応できるよう再び構える。
「はぁぁああ、ふぅううううう」
三人の戦いぶりはまるで優等生のようであった。
冒険をせず地道に地力を上げ続けているからこその安定感。銀の護剣のあり方と同様に、彼らにも焦らず積み上げていくことを教えているようであった。
まぁ成長度合いで言えば、がつがつ冒険する新人ちゃん達が上だろうが、育てるって意味じゃあこっちが正解なんだろうな。俺の視線は格闘ちゃんの太ももに固定されていた。
横から肘で突かれる。
つついたのはエマだった。
「そろそろ予定の場所だよ」
「だな。即対応できるよう準備はしておくさ」
「お願いルーク。元に戻って」
エマは祈るようにルークを見つめる。
この作戦が成功するかは五分五分だ。
ルークは誰もが認める正義大好きマン。銀の剣聖がそうだったように、こいつも弱者を守ることに命を賭けている。似ていたのか似たのかは俺にはわからない。とにかくそこを上手く利用し、正気に戻しつつ自信をとり戻すってのが今回の作戦だ。
すでに仕込みはできている。さぁ開始だ。
「なんやこの音?」
――通路の奥からがしゃがしゃと重い足音が響く。
足音は二つ。俺の魔力の網にも二つの反応があった。
「二人とも備えろ。何か来る」
「足取りからしてブロンクさんと同じ重装備。同業者だったりするのかな?」
「どんな相手でもウチは喜んで戦うで。いつかアバンテールのS級になるんやからな」
音で対象を予測できるのか。
冷静で判断も早い。練度が高い証拠だ。
「ゴァアアアアアア!」
「あらやだ。こんなところで人間と出会うなんて」
暗闇から現れたのは、二人組の何者かだった。
一人はフルプレートをつけた巨躯の男。
もう一人は、マントにフードを深くかぶった女だった。
異様な雰囲気の二人組に、新人三人は身構えた。
へぇ、ずいぶん雰囲気出てるな。ブロンクは盾じゃなく斧だし。ライザは怪しい女感が出てて正体を知っている俺まで身構えてしまいそうだ。
「ねぇねぇ、あの二人本当にブロンクとライザ?」
「事前の打ち合わせでは、正体を伏せて本気で新人を叩き伏せに行くって言ってたしな」
今回の作戦の詳細はこうだ。
変装したブロンクとライザが、新人達の前に突如現れボコボコにする。弟子の危機に眼を覚ましたルークが剣を取り勇ましく守るってのが流れだ。
さぁどうだルーク。愛弟子のピンチだぞ。立ち上がらなくていいのか。
「ブロンクとライザはどこかのぉ。エマさんや、お昼はまだかの」
「もう少しだけ待っててね」
だめだ。まだジジイだ。
そろそろイマジナリー孫と戯れそうだな。
危機感を募らせる青髪君達は、相手の得体の知れない雰囲気に後ずさりしていた。
「何者だ。なぜこんなところにいる」
「答える義務あるかしら? でも、そうね、そっちの坊やとお嬢ちゃんには用はあるかしら。運が良いわ。こんなところで銀の護剣に会えるなんて」
女の気配が強まる。
ひらりとマントがめくれ、その下から布面積の少ない、下着のようなどエロい服が俺の目に飛び込んだ。
な、んだと? いくら変装でもそれはいいのか?
サービスしすぎじゃないだろうか。だが、あえて言おう。ありがとう、と。
「ルークさんが狙いか! だったら俺達が相手だ!」
「ふぅん、邪魔するってわけ。しかたないわね。面倒だけど殺しましょ。ガンズ、貴方が相手しなさい」
「譲ってくれるのか?」
「どうぞお好きに。暇だったんでしょ?」
ガンズと呼ばれたフルアーマーの巨漢は、喉を鳴らすように笑い一歩前に出る。
纏う空気は異質。にじみ出る魔力はずいぶんな量と密度。
設定が凝ってるな。偽名まで使って。声まで魔術で変えてさ。あの禍々しい鎧どこで手に入れたんだろ。フルフェイスのデザインもカッコイイし、ノノンに見せたら絶対喜びそうだ。
「我が名はガンズ。デーモンのガンズだ」
「デ、デーモン!? くっ、ルークさんとエマさんを守るぞ!」
「「うん」」
三人は戦闘を開始する。
へぇ、デーモンの設定まであるのか。
あいつらがブロンク相手に何所までやれるのか楽しみだな。




