60話 エマの胸は小ぶりのようだ
別室に移り俺達はソファに腰を下ろす。エマとルークも対面のソファに。
よく見るといつものルークだ。
なんだ目の錯覚か。あー、びっくりした。
「お茶が美味いのぉ」
「・・・・・・一週間ぐらい前からこんな感じで。三人で話し合った結果ひとまず活動休止にしようって」
茶を啜るルークを横目に、エマが疲れた様子で話を進める。
何がどうなってこうなった。あのルークが白い歯も見せず暢気に茶を啜っている。
まぁ休止にした理由はなんとなくわかった。パーティーの要であるこいつがこうなっては、続けたくても続けられないだろう。
「ひとまず依頼の詳細を」
「うん。まず名称未定に依頼を出した理由だけど、ルークのこうなった原因がラックスさんにあるから。ミルディアから戻ってきてから、ずっとラックスさんのことばかり話してて」
「依頼が上手くいかなかったことが、引っかかっているとかでしょうか?」
「ううん。そこはルークも含めた全員が納得している。純粋に力不足だった」
「では何が彼をこんなにも」
「彼、元々はとある魔術家系の三男なんだ。上の二人は優秀な魔術になれたんだけど、彼には才能がなかったらしいの。そんな彼が剣聖と出会い剣の道を志した。彼にとって特別な人でありきっとそれは何物にも代えがたい出会いだったんだと思う」
エマ曰くルークの父親は非常に厳しい人物だったそうだ。
魔術以外認めない性格だったらしく彼から幾度と剣を取り上げたそうだ。捨てられても捨てられても必ず見つけ出した。その執念に最後は父親も折れ、ルークは剣の道を突き進んだそうだ。言うまでもなくルークを形作っているのは鍛え続けた剣と積み上げたという自信。そして、剣聖への強い憧れ。
エマは話を続ける。
「ルークはS級になった時、自分にも誇れるものができたって喜んでいた。何もなかったあの頃の自分とはもう違うんだって。期待に応えられずただ泣いていた日々と決別できた。そんな風に言っていた。だけどあの日、同じS級であるはずの名称未定の圧倒的な力を目にして、ルークの自信が崩れたの。押し込めていたトラウマが再び顔を出した」
そっか、そんな過去があったのか。
ずっと順風満帆な人生を歩んでいると思っていた。人に歴史在りってのはよく聞くが、こいつなりに苦労してきたんだな。
茶を啜るルークは、時折外に眼を向け誰かを思い出しているかのようだった。
エマは俺に視線を向けた。
……俺?
「ルークの目には、なぜかラックスさんの姿と銀の剣聖が重なって見えたらしいの。その背中が恐ろしく遠く感じて愕然としたんだって。剣聖に追いつくことは彼の目標だったから。ラックスさんは剣聖じゃないよってツッコんだんだけどね。ほら、ルークって思い込んだら頑として聞かないし」
「つまり自信を喪失したってことでおけ?」
「簡単に言えばそう。パーティーとしても個人としても完全に敗北しちゃったんだよ。立ち直る原動力すら失っちゃったみたいで。気が付けばこうなってて」
「現実逃避かな。年老いて引退した夢でも見ているんだろう」
呆れつつも同情もする。
高名な魔術師の家系ってのは昔から才能のない奴には残酷だ。無能者は死んでも良いとすら考えている連中だからな。そんな中で剣を選ぶのはさぞ勇気がいったことだろう。
ひたすら剣聖の影を追いかけ続けてきただけあるな。
だからこそ俺の中にいる剣聖が見えたのだろう。いや、見えてしまったが正しいか。
「ようするにこいつに自信を取り戻させれば良いんだな」
「うん。正解」
しかしなぁ、言うのは簡単だけど実際には難しい。
雑魚を狩らせて、ハイ元通りって話でもないだろう。そうでなければこうなっていないだろ。俺に勝っても問題解決にはならないだろうし。
自分にも誇れるもの……その辺りで再び自信をつけさせるしかないか。
「はいはーい。でも休止中じゃ自信をつけさせるのも難しいっしょ。戦いで失った自信は戦いで取り戻すべきだけど、剣が振れないんじゃあーしらでも解決できないじゃん」
「そこは大丈夫。表向き活動休止にしてるけど、実は新人育成は継続中で――ところで気になってたんだけど君、誰かな?」
ようやくエマがノノンの存在に意識が向く。
中の人とはこれが初対面だ。グランノーツとは思わなかったらしく予想通りの質問がされた。
ノノンが口を開こうとしたところで、ドアがばぁんと開け放たれた。
「ルークさん、さぁ行きましょう! 俺が必ず元に戻しますから!」
青髪の少年が突然部屋へ飛び込んできた。
歳は新人ちゃん達と同じほど。平均的な体格だが、しっかり鍛えているのか筋肉の付きはかなりいい。腰には剣があった。
「ジン! またノックもしないで!」
「エマさん、俺達に任せてください。銀の護剣の弟子としてルークさんを立ち直らせて見せます。ルークさんは俺の誇り。ルークさんこそ最強。ルークさんは王国の宝」
うるさくてめんどくさそうなのが来た。
新人ちゃんと良いこの歳の奴らってどいつも癖が強めなのかな。
不意に青髪の少年が俺に視線を向け、その目を睨むようにつり上げた。
「お前らは名称未定! どうしてここに!? そうか、さてはルークさんが弱っていると知って笑いに来たんだな!」
「ジン!」
「俺はこいつらを銀の護剣のライバルとは認めていません。どうせ卑怯な手でS級になったに違いないですからね。特にラックス・サードウッド。クズのくせにルークさんに馴れ馴れしいんだよ!」
青髪君は俺をにらみつけた。
銀の護剣ファンの中には執拗に名称未定を敵視する奴らがいる。
こいつもそういった連中の一人のようだ。
「この子はジン君。D級パーティーの『青狼の牙剣』のリーダーなんだ。今はこの子達のパーティーを育ててる最中かな」
「ぐるるるる」
紹介をしてくれるエマの横で、青髪君が番犬のように唸っていた。
今にも飛びかかってきそうな勢いだな。そうなればゲロの海で泳がせるけど。
「今はってことはこれまでも?」
「うん。まぁなんとなく言いたいことは分かるよ。一部の新人を直接指導するなんて不公平だよね。でもね、技術と知識をつけた先頭を切るパーティーがいないと結果的に全体の質が下がっちゃう。だから不評は承知で指導を続けているんだ」
申し訳なさそうに話すエマに俺は内心で感心していた。
こいつらはアバンテール全体のことを考えて手を打っているのか。逆に言えばS級にはそういった大きな視野も必要だと。これまでパーティーのことだけ考えてきたが、そろそろ立ち位置を再確認すべき時に来ているのかもしれない。
幸い新人教育にはごく最近だけど手をつけ始めた。最初は乗り気じゃなかったけどな。なんだかんだ新人共の成長は視ていて楽しいし頼もしくもある。やはり銀の護剣に色々相談するのはありだな。エマやライザの膨らみも視られて実に名案だ。
「こいつエマさんをエロい目で見てますよ!」
「だから落ち着いて。ラックスさんはそんなことしないよ」
目をつり上げがるると唸り始めたジン。
そんな彼をエマはなだめていた。
もちろん俺はエマの膨らみをじっと見つめる。
「話に戻りましょうか。それで新人教育がルークの自信を取り戻すことと関係が?」
「それなんだけどね。ちょうど明後日から彼らの指導をかねたダンジョン探索を行う予定なんだ。そこにルークも連れて行くつもりだよ」
フェリスの問いにエマが答える。
つまりは自信を取り戻すきっかけになる可能性が高いと。ルークを慕う新人もいるとなれば好条件だ。帰って策を練るか。
「俺は反対です。名称未定は得体の知れない奴ら。そんなのを連れて行けばどうなるか」
「誰が得体の知れないと?」
「黙って聞いてればあーしらに喧嘩売ってんじゃん?」
「ひっ」
あーあー、フェリスとノノンを怒らせちゃった。
血気盛んなのは良いが相手をよく見て発言しようね。青髪君。
「勘違いするなクソガキ。俺達はルークを立ち直らせる依頼を受けただけだ。割の良い仕事を奪っていく銀の護剣と好きで関わるわけないだろ。あー、さっさと終わらせてホームでゴロゴロしてなぁ」
「こいつ!」
俺は頭を掻きつつ立ち上がる。
「んじゃ今日のところは帰る。また明日予定を聞くよ」
「うん」
フェリスとノノンを引き連れ俺は、銀の護剣のホームを後にした。
視姦シーンがなかったので一部調整しました。




