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6話 相談です。訊いてください。

短めです。

 

 教会に呼び出しのベルが鳴る。

 クラリッサはいつものように懺悔室へと入室した。


 本日も迷える子羊が女神の加護を求め訪れた。その事実だけでクラリッサは、バターなしでパンを三本食べられそうであった。


「貴方の秘めた告白を聞きましょう。女神様は全て受け入れてくださいます」

「あの~、相談なのですが~」


 その声を耳にした瞬間、クラリッサの眉間に深い皺ができた。

 つい最近も聞いた声であったからだ。

 声の主が持ってきた奇妙な相談は、忘れようにも忘れられない。


 相手は彼女が応じる前に勝手に相談を始めていた。


「仲間に信頼してもらえるには相手の悩みを聞いて解決することだと思い至り、まずは悩みを知るところから始めようと面談を行いました」

「なるほど。それはずいぶんな進展ですね。貴方の成長が窺えます」

「面談をしたにもかかわらず何一つ分からず。むしろ謎が深まりました」

「前言撤回です。成長が何一つ感じられません」


 何をしているんだ。もっとしっかり悩みを聞き出せ。とクラリッサは内心で憤慨していた。

 苛立ちから自然と指が一定のリズムを刻む。


 壁の向こうの男はマイペースに話を続けていた。


「それでですね、四人全員を一度に調べようってのが、そもそも間違っているんじゃないかって気が付いたんです。一人づつ慎重に悩みを聞き出すべきじゃないかって」

「良い気づきです」

「仲間の一人に剣士がいるのですが、比較的距離も近く付き合いも一番長い、性別も判明している彼なら悩みも聞き出しやすく素顔や素性を明らかにするのも容易なのではと思い至ったのです」

「フェリスさんですね」

「違います」


 壁の向こうの男は即答したが、クラリッサの頭の中では仮面の美形が浮かんでいた。


 町一番のモテ男。白馬の貴公子。

 女性達は陰で、冒険好きの身分を隠したどこかの王子と噂していた。


 もちろんクラリッサは、モテ男や白馬の王子などに興味はない。非常に耳が良いのでどうしても女性達の立ち話が耳に入ってしまうのだ。一方であの顔は好みだなとクラリッサは納得するように頷いた。


「しばらく剣士といつもより近づいて会話を試みたのですが、なかなかそれらしい話が聞き出せず」

「コミュ障なのですか?」

「違います。普通です」

「なぜ悩みの一つも聞き出せないのですか」

「止めてくださいよ。俺に怒りをぶつけるの」


 だんっ、クラリッサは目の前の小さなテーブルを拳で叩いた。


 こいつ……無能だ。

 相談しておいてやる気がつゆほども感じられない。


 頭に血が上る自身を自覚した彼女は、ふーと息を吐いてなんとか微笑みを取り戻した。


 自身は女神の代理でここにいる。迷える子羊が幸せな人生を歩めるよう導くべくここにいいるのだ。一時の感情で言葉を吐くのは聖職者にはふさわしくない。自制し正しき信徒の見本として生きなければならないのだ。とクラリッサは今一度心を引き締めた。


「ではさらなるアドバイスが欲しいのですね」

「そうなんです。このままだとパーティーが解散してしまいます」

「なるほど。では次のアドバイスを授けましょう。周囲の評価を上げて自然と相談される作戦です」

「それはつまり?」

「仲間から悩みを打ち明けてもらえないのは貴方に問題があるからです。独善的な考えを改め周囲を助け世間に貢献する。評価が上がれば自然と仲間からの信頼も増し、この人だったら悩みを打ち明けても良いかもぉ……となるわけです」

「社会貢献、苦手だなぁ」


 ばんっ。


 クラリッサは怒りが頂点に達し、勢いよく小窓を開いた。

 向こうにいた男は慌てて身を縮め腕で顔を隠した。


「やるのです! まっとうな人間になれば仲間も必ず信頼します!」

「ちょ、匿名ですよ。やめてください」

「ちっ」


 舌打ちをしたシスターは窓を閉め、椅子に落ちるように腰を下ろした。


「わかりました。頑張ってみます」

「よろしい」


 男は懺悔室から退室する。

 クラリッサは男が二度と来ないよう女神に祈りを捧げた。





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