59話 ホームがでかいからっていい気になるなよ
※前回までのあらすじ。
悪魔に折られた杖を直すべく、第二の故郷を訪れたラックスとグランノーツ。到着早々に中の人が出てしまいノノン・ハイデルンがラックスの視姦の餌食に。なんやかんやあって杖を新調し、新人ちゃん達とも再会しつつアバンテールの町に帰還した二人だったが、突如現れた顔見知りの冒険者に金貨を渡され、ラックスは同業者をカツアゲするS級付与士へと格上げされた。
唖然とするギルマス。
俺の両隣に座るのはフェリスとノノンだ。もちろん彼が驚いているのはノノンである。
先ほど改めて自己紹介をさせたのだが、グランノーツ改めノノン・ハイデルンだと伝えたところこんな有様となった。
まさかグランノーツの中身が、こんな可愛らしい女性だとは夢にも思わなかっただろう。俺だってそうだ。しかもギャル。
あれ、驚きすぎて心臓止まってないかこれ?
瞬きすらしてないけど。
「しっかりしろ。まだ寿命じゃないだろ」
「あ? ああ、少々驚いてしまった。フェリス、ザイン、と続いてグランノーツときている。個人的には一番ギャップがあったというか。一瞬だけ亡くなった父にあった気がしたよ」
「本当に召されかけてた」
「それで、グランノーツ改めノノン・ハイデルンだったな。女というだけでなくギャルとは。種族はドワーフか? 引き続きよろしく頼む」
「おけおけ、名称未定の依頼は、あーしがばっちりこなしてみせるっしょ。これからもよろ」
軽いノリで返事をされてギルマスは「よ、よろ?」と狼狽えていた。
落ち着けじいさん。これがギャルだ。
いちいち慌てていたら死んだ父親と何度も再会するはめになるぞ。
「それで、杖は直ったのか」
「修理不可能って言われて新調したよ。今度のはミスリル製の剣とまともに打ち合えるくらい硬くなってる。悪魔とやりあっても早々折られることにはならないさ」
「では完全復帰と考えていいんだな?」
「・・・・・・何かあるのか?」
意味深な物言いに身構える。
ギルマスは嘆息すると何やら話を切り出した。
「実はな、お前達に頼みがあるのだ。銀の護剣を知っているな?」
「俺達と同じS級パーティーだろ」
「そのS級パーティーが活動を休止したのだ」
はぁ!? おいおい、ついこの間まで一緒にアンブレラで戦っていたじゃないか!
活動休止ってどういうことだよ!
詳細を求めてフェリスに視線を向けるも、彼女は首を横に振る。ギルマスは「休止したのは昨日だから知るはずはない」とどこか肩を落とした雰囲気で補足を入れる。
「なんで休止じゃん? 誰か病気になったとか?」
「病気、といえばそうなのだろうな。以前よりリーダーのルークが不抜けた状態に陥っていたのは把握しているな? あれが進行していよいよ使い物にならなくなったのだ」
「あ、ルークが原因なんだ」
腑に落ちたというか、むしろあそこから急激に回復したら、それはそれで不思議というか。ミルディアでの戦い以降ずっと引きずっていたしな。
アンブレラでは戻ったように見えたけど一時的だったようだ。
アバンテールに二つしかないS級の一つが、活動休止になるのは正直好ましくない状況だ。
有名だからこそこなせる仕事も世の中にはある。あいつらはそういうのを一手に引き受けて処理してくれていた。俺達にはまだ荷が重い貴族との仕事とかな。割の良い仕事を手にするチャンスなのは確かだが、だからって消えてほしいわけじゃない。なんだかんだいないと困る連中だしさ。
「で、俺にどうしろと」
「ルークが元の状態にもどる手助けをしてやってほしい。報酬も銀の護剣からちゃんと出る。お前の言う割の良い仕事だと思うがどうだ?」
俺は頭をポリポリ掻いた。
「じゃあ正式な依頼か。でもなんでウチ?」
「さてな、だがエマがこう言っていた。ルークが元に戻るには名称未定が必要だと。ああなったのはお前が原因だそうだ。だからもう一度お前で正気に戻すとな」
ええぇ、あいつがああなったのって俺のせい?
全く身に覚えないんだけど。ミルディアで助けただけだし。手を貸すのはやぶさかじゃないけど俺の責任って責められるのはなんかこう嫌だな。しかし、報酬が出るのか。額次第だな。今の名称未定は金欠だし。
さっそくウチのサブリーダーが交渉に入る。
「いくらでしょうか? それ次第では我々は断ることも・・・・・・」
「これでどうだ?」
ギルマスが指を二本立てる。
今の時点で悪くない額である。
しかし、ウチのサブは止まらない。
「ギルドとしても彼らには活動再開をしていただきたいのですよね? でしたらギルドから上乗せ、できますよね?」
「ぐぬうう、痛いところを。ならばこれならどうだ」
「そこにプラス五十でいかがですか」
「十だ」
「四十」
「二十だ! これ以上はどうやっても出せん」
「それで手を打ちましょう」
爽やかな微笑みを浮かべ、フェリスが交渉を終わらせる。
ギルマスは彼女の美貌にトゥンクしていた。
恐ろしい奴だ。報酬をつり上げてさらにその微笑みで魅了するなんて。これでは文句も言えない。正体を明かしてからフェリスさんのキレが増している。
「こほん、では依頼を受けてくれるということで向こうには伝えておく。お前達は銀の護剣のホームに行くのは初めてだったな?」
「げ、ホームに出向くのかよ」
「詳細は向こうでするそうだ。これがホームまでの地図」
俺は手書きのきったない地図を貰う。
誰が書いたのか知らないが雑過ぎて文字も読めない。
「これ、誰が書いたの? 汚すぎて読めないんだけど」
「ブロンクだ」
「うん。納得した」
むしろあのがたいでペンを握れたのかと逆に驚きだ。
頑張って書いたんだろうな。文字から努力が伝わってくる。
ちなみに俺は銀の護剣のメンバーの中でブロンクが一番好きだ。見るからに漢だし、言葉遣いも優しくいつだって態度も丁寧。タンクはグランノーツが一番だとしても、ブロンクは人として一番だと思っている。
「では行きましょうか」
「銀の護剣のホームかぁ、めちゃくちゃ気になるっしょ。楽しみじゃん」
「あ、ギルマスと少し話があるから先行ってて」
二人を先に部屋から出し、俺はテーブルに一枚の紙切れを出した。
首をかしげたギルマスは紙を手に取りじっと内容に眼を通す。
「こ、これは、ストックレックスの!?」
「指名料無料券だ」
ストックレックスには有名な大人の店がある。通も知るこの店をかつて俺はよく利用していた。ストックレックスに寄ったのも実は顔を出すため。そんなおりに貰ったのがこの券だ。日頃お世話になっているギルマスに渡そうと決めていた。
「ウチのサブが報酬をつり上げた詫びとでも思ってくれ」
「わざわざ気を遣ってくれるなんて悪いな。ルークのことは頼んだぞ」
「任せてくれ」
「そうだ、ストックレックスに用事があったのだ。ではまたな、ラックス」
ギルマスは身軽に部屋を出て行った。
◇
地図を頼りにやってきた俺達は、銀の護剣のホームに言葉を失っていた。
見上げるような豪奢なお屋敷。
振り返ると広い庭があってよく手入れされた庭園があった。ウチのホームとは比較にならないサイズの噴水もあって、水の女神であろう女性の像から綺麗な水が注がれている。
金に糸目をつけず建設された豪商のお屋敷かな?
外観も凝ってて上級貴族のお屋敷と言われてもなんら遜色がない。あいつらこんなに儲けていたのか。同じS級なのにずるいぞ。ちくしょう。
「素敵なお屋敷ですけど私はホームの方が好きですね」
「あーしも。なんか落ち着くっていうか。ちょっとここはゴテゴテしてて派手かな」
「中で余計なことを言うなよ。こういうのは適当に褒めておくんだ」
そんなことを言いつつ玄関のドアをノックする。
ドアノッカーも黄金の獅子でいちいち金持ち感が溢れている。
・・・・・・ウチにもこのノッカーつけてみようかな。
「はーい。どなた?」
ドアが開かれエマが顔を出す。
よく見る回復師の姿で彼女は笑顔になった。
「名称未定の皆さん待ってたよ! 狭いところですけどどうぞ中へ!」
「俺の心が歪んでるのかな。嫌みにしか聞こえない」
エマに促され中へ。
広いエントランスを抜けてとある部屋へと入った。
「ルーク、お客さんだよ。ああ、もう窓を開けっぱなしにして」
広い寝室に入った俺達は、白いカーテンが揺れている窓際に目が向いた。
そこでは椅子に座る男性の姿が。
駆け寄ったエマは窓を閉め優しそうな微笑みを浮かべた。
「ほら、ラックス達が来てくれたよ」
「ラックス・・・・・・?」
手を借りて立ち上がったルークは、よぼよぼの年寄りであった。
「ふぉふぉ、なんだか懐かしいのぉ。冒険をしていたのが昨日のようじゃ」
「昨日も冒険してたでしょ。もうすっかり老け込んじゃって」




