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55話 た、助けてぇラックスぅ……

 

 幌馬車に揺られ続けて半日ほど。

 徐々にアバンテールの町が見え始める。


 町に入ると幌馬車は、俺達と新人ちゃん達を下ろしどこかへと去って行った。


「この感じ戻ってきたって気がする。ねぇ、拠点に戻る前に腹ごしらえしない? なんだか急にお腹がすいちゃって」

「そう言われると私も小腹が空いてるかな。ラックスさんとノノンさんも一緒に行きませんか。私達の行きつけの店があるんです」


 剣士ちゃんと魔術師ちゃんから食事の誘いを受けるが、俺は一刻も早くホームでゆっくりしたい気持ちからやんわりと断ることに。


「俺はこれからやることがあるから。不在の間に何があったのか報告を受けなきゃならないしさ。ノノンはどうだ?」

「あーしも無理っぽいかな。グランノーツの調子が悪くてさ。もうちょい細かくメンテしたいじゃん。ごめんね。誘ってくれたのに」

「そっか残念。忙しいならしかたないよね」


 一瞬だけしゅんと肩を落とした剣士ちゃんは、すぐに切り替えて明るい笑顔となった。

 行きつけの店とやらに向かう剣士ちゃんと魔術師ちゃんに遅れて、シーフちゃんが駆け出す。かと思えば彼女は急いで俺の方へと戻ってきてどことなく恥ずかしそうにする。


「明日、ホームに行っても良い? 指導して貰いたい」

「のんびり過ごす予定だからかまわないけど」

「うん。じゃあ行く」


 僅かに口角を上げた彼女は二人を追った。


 学習意欲の高さには好感を持てる。

 聞けば毎日一人で、黙々と付与の練習をしているみたいだし予想よりも上達は早い。それでも一人前と呼べるレベルになるにはまだまだかかるだろうが。


「ラクっち嬉しそう」

「後輩に慕われるってのは案外悪い気分じゃないな」

「あーしらも先輩か。気持ちの上ではまだまだ駆け出しなんですけど」

「俺もだよ。マッハで駆け上がった弊害だな。どう後進を育てりゃ良いのかさっぱりだ」

銀の護剣(シルバーブレイド)にアドバイスを貰うのもありっしょ。あーしらより先輩じゃん」

「それもそうだな。ところであいつらってタダで助言をくれるのか?」

「ケチ臭い男はモテないっしょ」


 ノノンとだべりながらホームの帰路につく。

 グランノーツの姿でギャル全開の彼女に、すれ違う人々は足を止めて驚愕していた。普段ならグランノーツにまとわりつく子供達も、戸惑いの色を浮かべ遠巻きから眺めるに留まっている。


 大通りを進んでいると衛兵を見かけた。


 衛兵の隣には――両手を縄で縛られた”黒づくめの人物”がいるではないか。


「ザイン!?」

「ラ、ララ、ラックス。たた、助けてぇ」


 片目に涙を浮かべ助けを求めるザイン。

 よく見れば連行している衛兵は、若く見覚えのない顔であった。ごく最近配属された新人なのだろう。俺は慌てて衛兵を追いかけ呼び止める。


「すみません」

「なんだ」

「彼女が何かしましたか?」

「怪しい格好に不審な動きをしているので事情聴取すべく捕まえたのだ。もしやこいつの仲間か?」


 やはりというべきか新人衛兵は、ザインをその禍々しい外見から怪しみ捕縛したとのことであった。俺は彼に誤解だと説明し名称未定(アンノウン)のザイン・ヘルナードだと説明をした。


「失礼しました。事前に先輩に聞かされておりましたが、まさかここまで犯罪臭がすさまじい方だとは。衛兵の本能から捕まえなくてはとつい腕に縄を」

「き、きき、気にしてないぃ」

「ひぃ」


 縄を解くと同時に謝罪をした衛兵。

 ザインはずいっと顔を寄せて片目をぐわっと瞬きもせず見つめる。

 怒らせたと勘違いしてしまったのか彼は腰が抜けて座り込んでしまった。


「じゃあ俺達は失礼します。ほら帰るぞ」

「あ、ああ」

「衛兵さんじゃーねー」


 変な誤解を生む前にそそくさと逃げ出す。



 ◇



 ホームのリビングは妙な緊張に包まれていた。

 口をぽかーんと開けるのは向かいのソファに座るフェリスとザインである。

 俺の隣ではさっそく一杯やってるノノンの姿が。


「もう一度聞きますけど、この方がグランノーツの中身さんですか?」

「そうだよ。その様子だとやっぱフェリス達も知らなかったのね」

「ふふん、あーしの背中見せる系っぷりは完璧だったじゃん。でもザインは気づいてたっぽいけど。なんかいつもグラの眼じゃなく中にいるあーしの眼を見て話してたし」

「……?」


 ザインはよく分からないのか首をかしげていた。

 相変わらずさりげなく人外だよな。悪魔ってのはつくづく規格外の生き物だ。


 ノノンは「てなわけでグランノーツ・ハイデルン改めノノン・ハイデルンだから引き続きよろしくっしょ」などと顔の前で両手Vサインをする。ギャルパワーともいうべき陽のごり押しである。この半月以上で俺はある程度慣れたが、フェリスは戸惑い、ザインは真逆の陰の性質からなのか目をそらしてぷるぷる震えていた。


「ひとまずノノンさんがグランノーツさんであることは承知しました。正体を隠していた件については私もザインさんもとやかく言える立場ではありませんし、こうして改めて自己紹介の場を設けてくださったのですから問題はないかと。こちらこそよろしくお願いいたします」

「固い固い。ずっと思ってたけどフェリちんは固すぎるよ。よろ、くらいでいいっしょ」

「フェ、フェリちん……?」

「可愛いっしょ? ザインは……ん~、どんな呼び名が良いかな?」


 俺に訊くな。というかフェリスが狼狽えてるぞ。

 さすがの炎剣もギャルには対応しきれないか。


 ちなみにだがギャルとはギャル部族の真似をしたことから端を発している。ギャル部族は女性で構成される戦闘民族として一部では非常に有名である。部族外の女性が彼女達の生き方に強い興味を抱き取り入れたことから巷ではギャルと呼ばれるようになった。ギャルの見分け方は「ウケるー!」と発するか否かだ。その点で言えばノノンは間違いなくギャルである。


「とりまザインはザインでいっか」

「自己紹介はこのくらいにして、ラックスに訊いていただきたいお話があります」

「ん、俺に?」


 ザインがほっと胸をなで下ろしている姿を眺めなていたが、フェリスに呼ばれたことで意識がそっちへと向く。


「まずはアンブレラの報酬が支払われたこと。アブリルさんがお越しになり感謝の言葉と報酬を置いて行かれました。予定よりも遅れた点から金額は少しばかり増やしているそうです」

「律儀だな。しかし、これでウチの金庫も潤う」

「次に鍛冶工房よりラックスさんに依頼が入っております」

「もしかして刻印かな」


 一般的な付与士の仕事はこっちがメインだ。

 魔道具なんかに魔術文字を刻み付与を施すのである。

 通常はお抱えの付与士に刻印を頼んだりするそうだが、貴族や王族からの特別な品を収める際には一流の付与士にお願いし刻んで貰うのが恒例となっている。俺の場合、刻印の仕事は月に二、三回入る程度だ。


「あーしもついて行っておけ?」

「報酬は出ないぞ」

「大丈夫。後学のためだから。こう見えてエルダードワーフだし? 鍛冶と訊いて血が騒ぐというかじっとしてられないって言うか、この町の技術に興味しんしんっていうか?」

「付いてきたいならお好きにどうぞ」

「さっすがラクっち!」


 隣にいるノノンが俺の腕に抱きついてくる。

 ほどよいサイズの胸に挟まれ柔らかい感触が伝わった。

 ギャルっていいな。スキンシップ多めだし、俺はギャルを勘違いしていたのかもしれない。


「おほん、では受けると伝えておきますね。ところでラックスから渡されたこれについてですが……」


 フェリスがテーブルに置いたのは杖を新調した際の領収書だった。

 俺はだらだら汗が噴き出す。

 全員の視線が領収書の額に集中した。


「何この額!? やばすぎ!」

「ラ、ララ、ラックスぅ……」

「二、三ヶ月の収入が吹き飛ぶ額ですけど申し開きはありませんか?」

「すみませんでしたっ!」


 俺は全力で土下座した。



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