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52話 付与士の記憶は都合よくできている

 

 ストックレックスで一泊をした俺達は、予定を変更しもう一日滞在することにした。

 変更理由は薬草採取である。どうやら俺に使った熱冷ましはノノンの自作だったらしく、材料もこの辺りで定期的に採取しているそうなのだ。

 ソロでぶらぶらしていると思ったら、こんなところにまで来ていたのかと少々呆れた。


 同じ宿に宿泊した新人ちゃん達は、依頼があるらしく挨拶もほどほどに早朝に宿を出て行った。

 着々と名を売っているようで、すでに一つ上のD級になっており、数は少ないが指名依頼も入っているそうだ。

 俺達にもそんな時期があったなとふと懐かしくなった。

 相応の実力が求められる高ランクへの指名依頼と違い、低ランクへの依頼は応援の意味合いが強い。安い報酬で頼めるだけでなく、直接冒険者と会えるのは応援したい者にとっては大きなメリットだ。低ランクの間でしか得られない縁もあるわけだ。


「久しぶりだな。ストックレックスの冒険者ギルドに来るのは」


 見上げるのは一際目立つ建物。

 冒険者ギルドである。


 隣には自分の足で歩くノノンがいる。

 今日はメンテと気分転換を兼ねて、グランノーツは使わないそうだ。その背中には、彼女には似つかわしくない大きな斧があった。


名称未定(アンノウン)で来たことあった?」

「いや、ソロで活動していた頃の話さ。村を出てしばらくは、付与士としての実戦を重ねるつもりで各地を転々としていた。ここに来たのもその一環だ」

「ふーん、ラクっちって何気に謎が多いじゃんね。修行前は何してたとか、質問しても上手くはぐらかされるし。でっもぉ、あーしは謎多き男は嫌いじゃないぞ」

「そりゃどうも。そんじゃあ入るぞ」

「うぇーい」


 ギルドの玄関をくぐり建物の中へと入る。

 目的は薬草採取の依頼だ。ノノンが採取をするついでに、小遣い稼ぎ程度に依頼もこなそうって話である。

 ノノンを連れて依頼書が張り出されている掲示板へと向かう。

 すれ違う冒険者達は、俺の顔を見てぎょっとしているようであった。


「ねぇ、なんかざわついてない?」

「気のせいだろ。薬草採取はっと、これだ」


 掲示板から依頼書を剥がす。

 その足で受付へと向かい職員に声をかけた。


「こいつを受けたい」

「ようこそストックレックスギルドへ。こちらの依頼ですね――ラックスさん!?」


 女性職員は俺を見るなり動揺したように一歩身を退いた。


 あれ? なんだこの反応?

 ストックレックスで何かしたかな俺。うーん、記憶にないなぁ。

 隣にいるノノンも不思議そうな表情をしている。


「なんで戻ってきたんですか!」

「たまたま通りかかったからついでに依頼を受けかなって」

「もしかしてラクっちってさ、ここでしでかした?」

「しでかした記憶はないんだけどな」


 そう言うと女性職員は「あれを覚えていないなんて」などと大きなため息を吐いた。


「ここで二つのパーティーに絡まれたのを覚えていますか?」

「ああ、ソロの付与士がB級の依頼をこなせるのはおかしいとかなんとか、いちゃもんをつけてきた奴か。そういやあの時、どうしたんだっけ?」


 思い出そうとしてもどうでもいい記憶過ぎて出てこない。

 うっすら顔と状況は思い出せるのだが。

 しかし、覚えていないのだから無難に対応したはず。


 呆れた様子の女性職員は、周囲を確認してから声のトーンをとして顛末を語る。


「あの時ラックスさんは付与術で全員を嘔吐させたんです。そこからとどめとばかりに混乱させてゲロの海で泳がせたんですよ? これでも思い出せませんか?」


 あーーーーーー!! 思い出した!!

 嘔吐の付与と混乱の付与でゲロまみれにしたんだった。


 最初は大人の対応をしていたんだけど、あまりにもむかつく言動をするから分からせてやったんだ。ギルドもあいつらの非を認め、おとがめはなかったけど、結果的に他の冒険者から避けられるようになって、タイミング的にも頃合いだったから町を出たような記憶がある。


「ゲロの海で泳がせたって……ラクっちさぁ」

「多少やり過ぎたことは認める。だが、喧嘩を売ってきたのはあいつらだ。俺は降りかかる火の粉を払っただけだぞ」

「その点についてはギルドも承知しております。彼らには厳重注意を行いましたし、他の冒険者の方々にも被害者はラックスさんだと周知しております。ただ、それでもラックスさんが与えたインパクトが強すぎました。あの騒動以降、ストックレックスでは付与士が極端に恐れられるようになりました」

「俺のおかげで付与士の地位が向上させたと」

「良い方に誤魔化さないでください。おかげで受付前は”ラックスエリア”と呼ばれるようになったんですよ」

「すみませんでした」


 全力で謝罪すべく土下座する。

 女性職員はため息を吐いて「地位が向上したのは事実です。どうぞ立ってください」と謝罪を受け入れてくれた。

 立ち上がるとノノンがにやっと笑みを浮かべた。


「鬼ヤバ付与士のご帰還じゃん。どうせならここでさらに伝説を作っちゃお。百人くらいゲロで泳がせるとかさ」

「出禁にしますよ」

「「すみませんでした」」


 俺とノノンは揃って謝罪をした。



 ◇



 町から少し離れた場所にある森。

 俺はノノンと一緒に薬草を採取していた。


「すっかり元気になったね。ラクっちがぶっ倒れたときはさすがにどうしようって鬼焦ったじゃん」

「その割には的確に看病してくれたみたいだけど」

「兄弟の面倒をよく見てたから。でも他人の世話なんて初めてだったし」

「初耳だな。何人兄弟なんだ?」

「四人じゃん。みんな可愛いからラクっちびっくりするよ」


 へー、兄弟がいるのか。羨ましいな。

 俺は物心ついた時には親もいなかったし兄弟なんてのもいなかった。

 まぁでも近い奴らはいたな。あいつらどうしてるかな。


「そういえばストックレックスに何度も来ているのなら、俺のしでかしも耳にしていたんじゃないのか。初耳みたいな反応だったけど」

「あーしって実は人見知りでさ。薬草採取したらさっさとアバンテールに戻ってから、誰かと話をする機会がほとんどなかったじゃん。思い返せばギルドに顔を出すと避けられていた気がする。グラの外見に敬遠していたんじゃなくて、ラクっちが原因だったんだね」

「どうしてそこで俺が出てくる」

「激やば付与士の仲間だからじゃん。あーしもラクっちも名称未定(アンノウン)所属って認知されてるし、下手に関わってゲロの海に泳がされたら悪夢じゃん」

「なるほど。俺が原因でしたね」


 そうしている間に薬草は籠一杯になっていた。


「こっちも終わったよ。せっかくだし水浴びしてく? この近くに滝のある川があって、冷たくて鬼気持ちいいんだよ」

「まさか一緒に!?」

「んなわけないじゃん。交代で入るの」

 

 彼女は顔を赤くし目をそらしながら「一緒に入るのは関係が進んでからじゃん」などと呟いていた。


 彼女の案内で川へ移動する。

 近づくほどに滝の落ちる音が耳に届き湿度が増していた。

 草をかき分け滝壺の辺りに出ると――。


「あ」

「「「あ」」」


 新人ちゃん達が水浴びをしているではないか。

 三人とも服を木の枝にかけ、一糸まとわぬ姿で水を滴らせている。


 剣士ちゃんと魔術師ちゃんがみるみる顔を真っ赤にし、口を大きく開くと一拍おいて声を発した。


「きゃぁあああああああああああああああああああああ!!」

「ラックスさんのえっち! スケベ! あっちいけ!」

「ついにダイレクト視姦に。さすが先生」

「ちょ、事故だって。悪かった」


 水を掛けられながら俺は慌てて逃げ出す。



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