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51話 町に近づくと自然と遭遇率は跳ね上がる

 

 深夜、俺は強烈な寒気に襲われた。

 毛布に包まるもまったく震えが止まらない。


 不意に寒気が収まる。急に温かくなったのだ。

 背中から包み込まれるような温かさをぼんやりと感じつつ、それでいてすべすべしていて柔らかく気持ちが良い。

 俺はまどろみの中へ落ちた。


 ……


 …………


 ………………


「調子はどう?」


 のぞき込むノノン。

 上体を起こし自身を確認した。


 けだるさはなくなっていないが幾分楽になった気がする。

 まだ頭はぼーっとするけどな。

 そういえば昨日は何を食ってどうやって寝たんだっけ。記憶がおぼろげでよく思い出せない。ただ、額からぬれタオルが落ちてきてはっとする。


「看病してくれたのか。迷惑掛けて悪い」

「大事な仲間なんだから当然じゃん。そうでなくとも病人見捨てるとかあーしマジ無理だから」


 タオルを回収した彼女は、桶で水に浸し絞る。

 再び俺を強引に横にさせ額に置いた。


 ひんやりしていて気持ちいい。


「なんか色々してくれたような気がするんだが、全く思い出せなくてさ。俺、変なこと言ってなかったか」

「ん~、杖であーしのお尻をツンツンしてた以外はないかな」

「最悪じゃん俺。今すぐ死にたい」

「身体張ったんだから早く元気になってよね」

「?」


 顔を真っ赤にして目をそらすノノンはぼそっと呟いた。

 そこでふと御者のおじさんに意識が向き洞窟の中を見回す。


「おじさんは?」

「あそこでグラと一緒に寝てる」

「グラ?」

「グランノーツのことじゃん」

「略すな」


 確かに御者のおじさんはグランノーツに抱きついて寝ていた。


「グラはそこにいるだけで熱を発するから気温の低い日には重宝するの。グラでおじさんを温めてあげてたからラックスはあーしが――なんでもないっ!」

「なんだよ気になるな」

「いいからいいから。朝ご飯作ってるから食べさせてあげる」

「自分で食べるよ。そのくらいの元気はあるから」


 再び上体を起こすと器を受け取ってスープを口に含む。薄目の味付けではあるが、弱った身体には染みるように美味だ。

 俺が食事をしている間にノノンは乾かしていた服を回収し戻ってくる。

 そういえば下着すら着けていなかった。はずかちい。


 食事を済ませると服を着る。


「そういえば外はどうなってる?」

「嵐は収まったよ。綺麗な朝日も拝んだし、今日は快晴っしょ」


 出発には問題はなさそうだな。

 後は俺の体調だけど、幸いにも俺は付与士だ。解決手段はすでにここにある。


 杖を手に取ると肉体保護(フィジカルガード)の付与を自身に施した。

 これで体力は徐々に回復し結果的に治療も早まる。

 昨日の時点でかけていれば良かったのだが、突然のことだったので思い至るのに時間がかかってしまった。


「今の付与は?」

肉体保護(フィジカルガード)のバフさ。消費魔力も少なく長時間持続するからこういうときにはうってつけの付与なんだよ。しばらく休んだら出発するから御者のおじさんを起こしてくれ」

「あーし的にはまだ心配なんだけど」

「馬車の中でたっぷり寝るよ。それにノノンも余り眠れてないだろ」


 俺よりノノンの方が心配だ。

 目の下にクマができていて顔が見るからに疲れている。

 そんな指摘をすると、彼女は恥ずかしそうに目をそらす。


「緊張で熟睡できるわけないっしょ」

「何か言ったか?」

「おじさん起きるじゃん。朝食作ったから食べて。あーあー、グラに涎つけてばっちい」


 なんだか話を逸らされたような。



 ◇



 馬車はストックレックスの町に到着する。

 アバンテールまであと少しのところだがここで馬車を乗り換えだ。

 乗車専用ではなく村に定期的に訪れる荷運びの馬車であったために、自宅のあるストックレックスまでという約束だった。

 ここで俺達は次のアバンテール行きの馬車を見つけ乗り込まなくてはならない。

 定期的に馬車が出ているので苦労なく乗り込むことができるだろう。


 御者のおじさんと別れた後、俺達は今日の宿探しをする。

 今から馬車を探すのは難しい。体調もほぼ戻ったけどまだ咳が出るので無理もしたくない。

 宿屋のカウンターへ向かうと店主に声をかけた。


「宿泊したい。二人二部屋だ」

「三人一部屋で宿泊できるかな?」

「「ん??」」


 別の客と声が重なった。

 しかも聞き覚えのある声だ。若い女の声。

 隣に目を向ければ赤い髪が視界に入る。


「あ!」

「げ」

「げってなんなの!? ひどいよ!」

「いやぁ、その」


 そこにいたのは剣士ちゃんであった。

 さらにその後ろには、いつメンである魔術師ちゃんとシーフちゃんがいるではないか。


 ストックレックスは比較的アバンテールに近い位置にある町である。顔見知りの同業者とであうことはよくある。ただ、相手がこいつらとなると『またか』と思わずにはいられない。

 偶然と言う名の常時。頻繁に遭遇していたこともあって、今回の帰郷で出会わないのは逆に違和感を抱いていたけどさ。ここで顔を合わすとはある意味で期待を裏切らない奴ら。


「用事があって遠出していると耳にしましたけどもう終わったのですか?」

「杖の修理だよ。結局は新調することになったけどさ」

「新しい杖ですか!? もし良ければ拝見させていただいても!」

「あとでなら……」


 魔術師ちゃんは新しい杖に興味津々だ。

 真面目で勉強熱心な彼女らしい反応だろう。


 相変わらずの半眼無表情のシーフちゃんへ視線を移す。


「先生が帰ってくるの待ってた。一ヶ月はすごく長い」

「不在の間はちゃんと筆記の練習をしていたんだろうな」

「毎日やってた」

「えらいじゃないか」

「うん」


 褒めると彼女は僅かに口の端を上げた。

 そういや師匠もこんな風に褒めてくれたっけ。


「ふわぁぁああ! グランノーツさんだぁぁ! 感激、あたし前々からタンクについてお話をしたいと思っていたんです! 今回はラックスさんの旅に同行されていたんですか!?」


 剣士ちゃんがグランノーツに声をかける。

 そういやちゃんと挨拶をしたことってないのか。何度かホームに来てるけどいつも不在だったからな。

 さて、グランノーツはどう反応するのか。


「皆が可愛がってる期待の新人ちゃんだね。鬼可愛いじゃん。そうそう、ラクっちについてってのんびりハピハピ田舎生活を体験してきたところっしょ。食事は美味しいし景色は良いし皆親切だし最高。アカネちゃんだっけ? あーしでよければいくらでもタンク道を語ってあげるじゃん」

「…………」

「あれ?」


 新人三人は、ギャル口調で指でハートを作るグランノーツに眼を点にして真っ白になっていた。


 俺はまとめてチェックインを済ませた。



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― 新着の感想 ―
このひと月ですっかり中身の人が出てきてるから皆驚きそう
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