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46話 見守りは大人の大事な役目

 

 村に来て二週間が経過した。

 杖職人のじいさんは毎日酒を届けた甲斐あって着実に仕事をこなしていた。

 そして、遂に杖が完成したのだ。


「これがおまえさんの新しい杖だ」

「おおお」


 想定よりも早い完成である。

 テーブルを挟んで向かいにいるじいさんは木箱を差し出した。

 静かに蓋を開けると中には乳白色の短杖が一本。飾りもなくシンプルな見た目だが妙な圧力を持っていて触れるのをためらわせる。

 意を決して杖に触れて持ち上げる。


「少し重いな」

「すぐに慣れる。重量バランスは以前の杖とそのままだ」


 軽く振ってみると驚くほど文字が描きやすい。

 以前の杖よりも指に吸い付きまるで長く使っていたかのようになじむ。

 魔力の伝達も速い。これならより速く付与が施せそうだ。


「最高の仕事をありがとう。やっぱりあんたは王国一の杖職人だ」

「今さら気が付いたか。かっかっかっ」


 じいさんは笑いながら器に酒を注ぎぐいっと呷る。

 彼の背後にある窓の向こうでは、子供達が湖で水遊びをしていた。


 振り返ったじいさんは「儂も釣りでもするか」と一仕事終わってのんびりモードである。


 できたての杖を腰のケースに差し込み小屋を出た。

 ちなみに料金はすでに支払い済みである。出来は満足だが正直痛い出費だ。


「見守りを頼んで悪いな」

「ラクっちの頼みだし、のどかな風景を見ながら一杯やれてそれなりに楽しんでるからさ」


 小屋の前で焚き火をするのはノノンだ。湖ではグランノーツが自動モードとやらで子供達と戯れている。

 焚き火には獲った魚が焼かれていた。


「素顔を隠していたのは舐められたくないって理由だったよな」

「変だよね。でもあーしにとっては結構ぎりぎりの選択だったんだ。ほら、ドワーフの女って成人してても外見が比較的幼いじゃん。エルダードワーフはさらに幼くて三十を超えてても十代に間違われるんだよね」

「印象が外見に引っ張られるのはよくある話だな」


 俺は魚を手に取り軽く囓る。

 ほろほろと崩れる身と絶妙な塩気が美味だった。


 湖ではグランノーツが両手から水流を発射しており、子供達とクロアが服が濡れて透けているのも気にせずはしゃいでいた。クロアは下着を着けていないらしく服がぴっちり張り付いていた。俺はむしゃむしゃと魚の身を咀嚼する。


「隣に移動しておけ?」

「ご自由に」

「じゃあお言葉に甘えて。えへへ」


 ノノンが立ち上がって俺の隣に腰を下ろす。

 スパッツをはいた引き締まった下半身に自然と目が行った。

 彼女は触れそうなほど近くに座りニコニコしていた。


「ずっとラクっちと直接話がしたかったんだ。実はさ、名称未定(アンノウン)が初めてのパーティーじゃないの」

「そりゃあ所属していた古巣くらいはあったりするだろうな」

「うん。そこであーしとグランノーツはひどい扱いを受けた。持ちたくもない盾を持たされただ攻撃を防ぐだけの壁にされた。荷物持ちに雑用もさせられ報酬は半分。故郷を出たばかりで世間知らずだった。それでも期待されているのだと懸命に働いた」


 彼女の話は続く。


「たまたま聞いちゃったの。あの人達は私を動く人形が扱える子供としか見てなかった。都合の良い壁としか考えていなかった。エルダードワーフだって言ってなかったあーしも悪かったかもだけどそれでもひどいよね。だから――ボコボコにしてやったじゃん。受け取るはずだった残り半分の額を取り戻して脱退してやったの」

「強い」

「新しい所属先も決まらず町から町へ点々としているところでアバンテールにたどり着いた。正直さ、期待はしてなかった。どこに行ってもきっと同じだって半ば諦めていたの。ここでダメなら故郷に戻ろうって考えてた。そこにラクっちがメンバー募集の張り紙を掲示板に貼りだしていたの」

「あの時か」

「声をかけたら『格好いいなその鎧。センス良いよあんた』って言ってくれたよね。故郷を出てから一人もグランノーツの何かを褒めてくれる人はいなかった。皆、頑丈さや力を褒めてデザインや機能に注目してくれなかった。けど、ラクっちは気づいてくれた。あーしはこの人だって思った」


 本当に格好いいと思ったんだ。まさか声をかけた奴がその日のうちに面接に来るとは思っていなかったけど。条件も許容範囲だったし何より誰でも良いから人が欲しかったから即決したんだよな。

 まさかギャルが中にいるとは想定外だったけど。

 漢の中の漢じゃなく、漢の中にギャルだった。


名称未定(アンノウン)は気に入ってくれたか?」

「うん。マジ激ラブじゃん」

「そっか、激ラブか」


 ノノンは指でハートを作る。


 おっと、水遊びが終わったらしい。グランノーツ達が戻ってきているではないか。


「水浴びは楽しかったか?」

「ラックスも入ればいいのに」

「俺は眺めてるだけで充分だよ」


 びしょ濡れの服で戻ってきたクロアはそう言いながら髪を絞る。

 張り付いた服は、彼女のスタイルを浮かび上がらせていた。まだ下着を着ける習慣がないのか服が透けて胸が見えている。


「クロちゃん透けてる! ラクっちがスケベな眼で見てるよ!」

「ひゃ!? ラックスのドスケベ付与士!」


 胸を隠したクロアは木陰へ走る。

 ノノンは着替えを持って彼女の元へと走った。


 ドスケベ付与士って――。


 不意に鋭い視線を感じる。

 それだけではない強烈な殺気が肌に突き刺さる。

 だが、魔力の網には反応はなかった。


 俺は杖をそっと抜きつつそいつが襲いかかってくるタイミングに備えた。


 だが、動きはないまますっと気配が消えた。

 どうやらこの場から離れたようだ。


「よくないものがいるっしょ」

「気づいてたか」

「技術者である前にドワーフの戦士じゃん」

「まだ近くにいるかもしれない。刺激しないよう静かに撤収だ」

「りょ」


 子供達を呼び戻し俺達は村へと戻った。



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