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41話 グランノーツさんのお部屋の中を覗きたい

 

 アンブレラの件が収束して数日。

 ホームに戻った俺はいつも通りの日常が戻ってきていた。


 口笛を吹きながらごしごしブラシで浴槽を磨く。

 豪華な浴室は我がホームの自慢。

 お気に入りの場所であることから掃除は念入りに行うのが習慣だ。


 まぁぼーっと何も考えず行う単純作業が好きなだけってのもあるけど。

 同じくブラシで磨くザインも楽しそうだ。


「そ、掃除した後の、お、おお、お風呂好き」

「うんうん、やっぱピカピカで入るのは気持ちいいよな」


 掃除ということもありザインは、白シャツ黒ハーフパンツ姿になっている。シャツはフェリスに借りた物らしく、例の黒い衣類はズボンへと変化していた。

 彼女が言うには、衣類のような魔道具は魔界でも珍しいらしい。

 衣類ならだいたい再現できるそうだが必ず色は黒になるし、あまりにも度を超えたサイズは変化できないとか。ちなみにガーダーベルトは再現できるかと聞いたらできると返ってきた。ふーん、すげぇえっちじゃん。


 浴槽を磨き終わったらホースから水を出して洗い流す。


 俺とザインは水しぶきを受けながら浴槽だけでなく周囲の床も洗った。

 彼女の濡れたシャツはぴっちり張り付き、黒い下着がうっすら透けて見えている。


「お疲れ様です。昼食を用意していますので、二人ともダイニングに来てくださいね」


 風呂場に顔を出したフェリス。

 掃除が終わった俺はシャツを脱いで絞っているところだった。


「サンキュウ。ザイン、悪いけどタオルを取ってくれ」

「う、うん」


 ちらちら俺の身体を見るザインがバスタオルを渡す。

 彼女は「お、大きな傷、治す?」と尋ねる。


「ああ、ザインには見せたことなかったか。この傷は古いからたぶん無理だよ。まぁ、付き合いも長いから俺が俺である証拠みたいな傷になってるけどな」


 彼女が指摘したのは俺の背中にある大きな×の字のような傷だ。

 子供の頃にできた割と思い入れのある傷。


「き、きき、傷が自分、である証拠?」

「なんていうか特別な傷なんだよ。悪魔にはそういうのないのか」

「ある」

「じゃあ説明不要だな」


 身体を拭いているとザインがまだちらちら身体を見てくる。

 心なしか顔が赤くなっているような気がした。


 着替え終わるとザインも身体を拭かないのかと声をかけようとする。

 が、彼女は一瞬で水滴を吹き飛ばし普段の姿に戻ってしまった。


 なにそれ、すっげぇ。



 ◇



 ホームにおける食事は基本的に各々好きにとるものとしている。

 メンバー全員が揃って食卓を囲むことは非常に稀で、だいたい顔を合わせるのはフェリスとザインである。顔と素性を知ってからはこの二人とはほぼ毎日テーブルを囲んでいる。


 風呂掃除後ダイニングへ向かうと、珍しくグランノーツが席に着いていた。

 俺は椅子に腰を下ろしつつ向かいの彼に声をかける。


「珍しいじゃないか。グランノーツがいるなんて」

「タマニハ、ナカマトショクジヲ、シタイヒモアル」


 そういった彼の鎧から蒸気が排出される。

 本当になんで蒸気が鎧から出ているんだろう。不思議だ。


 テーブルにはすでに食事が置かれており、先に着席していたザインがいつもの姿でむしゃむしゃと食事をしていた。

 フェリスはエプロンを取って席に着く。

 俺もいつものように籠からパンを取ってバターを塗る。


 ひょいひょい、籠からパンをとったグランノーツは、僅かに開いた胸の装甲の隙間からパンを中へ投げ入れた。さらに目玉焼きとベーコンが乗った皿、スープが入った器、果物と次々に鎧の中へ入れる。


 あの中は本当にどうなっているのか。

 咀嚼音すら聞こえないとなると……丸呑みしているのか? 

 ちゃんと噛んだ方が健康に良いと注意すべきだろうか。


 フェリスが何かを思い出したのかナイフとフォークを持つ手を止めた。


「杖を直しに行かれるのですよね。いつ頃出発される予定か聞いておかなければ」

「五日後かな。ギルドとギルマスにはこれから伝える。フェリスとザインには不在の間の対処を頼む」

「承知しました。久しぶりの帰郷楽しんできてください」

「悪いな二人とも」


 フェリスは微笑む。ザインはこくこくと頷いていた。

 前を向くと、グランノーツがそっと自分の皿から俺の皿に野菜を移しているではないか。ジト目をすると彼は静かに皿を引っ込める。


 彼の目が青く光る。


「ヤサイハ、ニガテダ」

「いけませんよグランノーツさん。お野菜をしっかり摂らないと体調に影響します。冒険者は身体が資本、常日頃から栄養をしっかり摂って備えておかなければ」

「……タベルト、シヨウ」


 フェリスに諭されたグランノーツは再び皿を内側へと入れた。

 しばらくして空になった皿が内側より吐き出される。


 それとなく俺は視線を低くして中を覗こうとした。

 だが、ばたんと胸の装甲は閉められてしまった。

 彼は食事を終えて席を立つ。


 またしても中身を探ることはできなかった。ぐぬぬ。



 ◇



 ホームの入り口に置かれた無数の樽。

 醸造所から直接購入している葡萄酒である。


 職員の男性達に、屋敷の裏の倉庫に入れておいてほしいとお願いし料金を支払う。

 樽は全てグランノーツのものである。ずいぶんな出費に思えるだろうが、彼は払っても余るだけの稼ぎをホームに入れてくれているのでむしろ当然の権利。それに他メンバーで消費する酒もついでに購入しているので幾分は割安になっている。


 樽が倉庫に運び込まれるのを確認し、俺は彼に報告すべく部屋へと向かう。


「おーい、グランノーツ。いるか?」


 彼の部屋のドアをノックしようとしてピタリと手を止めた。

 あれ、何か聞こえるな。

 すすすとドアへ身を寄せ耳を当てる。


 うぃいいいいん。ぎょるぎょる。

 ばるるるるる。ばしゅぅううううううう。がこん。


 なんだこの音。


 ずんずんずん。

 ばたん。


「どわっ!?」

「ナニカヨウカ?」


 突然ドアが開かれ、俺はグランノーツの身体に顔面を打ち付けた。

 痛みに唸っている間にドアは閉められ彼は心配そうにする。


「ダイジョウブカ?」

「あ、ああ、少し頭を打っただけだ。樽が来たから教えようと思って部屋まで来たんだ」

「ソレハアリガタイ。チョウドサケガ、ナクナッタトコロダッタノダ」

「そりゃ良かった」


 グランノーツは「イツモアリガトウ」と俺の頭を軽く撫でる。

 そして、倉庫の方へと向かう。


 やはり紳士。カッコイイな。

 部屋の中が見られず残念だったけど焦る必要はない。

 これから彼と一ヶ月ほど辺境に滞在するのだ。いくらでもお互いを知る機会はある。


 ありがとうか……この年でも頭を撫でられると嬉しい物なんだな。


 心地の良い気分を胸に俺はその場を後にした。



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― 新着の感想 ―
小さい女の子ドワーフか機械に強い小さい妖精が入っているのでは?と思うってしまう。
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