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4話 冒険者ギルドには仕事がある

 

 大通りからふらりととある建物へと入る。

 足を踏み入れた途端、それまでエールを飲んでいた奴らが俺に注目した。


 ここは冒険者ギルド。

 大抵の仕事はここで請け負う。


 冒険者の仕事はいわゆる何でも屋みたいなもので、薬草採取から魔物退治に護衛などと幅広い。猫探しなんてのもある。傭兵とは違い対人戦は稀だ。俺達は戦争屋じゃない。それでも護衛や不測の事態にはやむを得ないときはある。


 S級パーティーは主に中堅、熟練組でも手に負えない難易度の高い依頼を引き受けるのが仕事だ。


 ただ、そんな仕事も常にあるわけではない。


 時期にもよるが、王都と違いアバンテールは中途半端に栄えた田舎町だ。周辺の魔物も比較的弱く大抵は中堅と熟練組でどうにかなる。同じS級の銀の護剣(シルバーブレイド)のように名前で仕事ががっぽがっぽ入ってくる訳でもない。

 ウチは外見で敬遠されがちだし、一気に駆け上がったもんだからランクと信用が釣り合っていない状態だ。つまりまぁ、こうしてS級なのに健気にギルドへ仕事をもらいに顔を出しているわけだ。


 さっさと大金稼いで引退したい。

 田舎で畑を耕しながら可愛い嫁と子供に囲まれて穏やかで平凡な日常を送りたい。

 そんでもって夜は嫁とくんずほぐれんずいちゃいちゃするんだ。


「ちわー」


 ギルドに入ると、顔見知りの女性職員がいるカウンターへと向かう。

 職員は俺を見るなりなぜかため息を吐いた。


「ラックスさん、S級のお仕事はないですよ」

「なんだよまた?」

「指名依頼は銀の護剣(シルバーブレイド)に集まりますし、緊急依頼でもない限り名称未定(アンノウン)さんには回ってこないと思いますよ」

「これじゃあ何の為にS級になったのかわからないじゃねぇか」

「ですよねー。あ、そういえばギルドマスターがラックスさんを呼んでいましたよ」

「今から向かうよ」


 銀の護剣(シルバーブレイド)、相変わらず腹立たしい奴らだ。

 ちょっとばかし見た目が良くて実績を積んで評判も良くて人気も高いだけなのに。言っておくが強さだけならウチが最強だ。頼むから仕事を分けてくれ。お願いします。


「見ろよ。また色物集団のリーダーが来てやがる」

「今日も依頼探しか? ラックスさんよぉ」


 昼間からエールを呷る、目つきの悪い連中がニヤニヤしていた。


 ギルドには酒場が併設されている。

 言うまでもないが真っ昼間からギルドで飲んだくれている奴らは、だいたい碌でもない中堅か熟練だ。


「毎日毎日偉いなS級なのによ。もっと休んだらどうだ」

「こっちに来て一杯くらい飲んで行けよ。ラックス」


 もちろん顔見知りだ。

 あいつらは強面だが全員良い奴である。


「娘が生まれたんだよ。ちょうどメンバーでお祝いしていたところだ」

「まじかよ。めでたいじゃないか。じゃあ一杯だけ」


 職員からエールを貰った俺は、おっさん達と乾杯する。


 しょうがねぇ。出産祝いだ。

 ここの支払いは俺がしておいてやるか。




「――で、今の今まで飲んでいたと?」

「悪い。一杯だけのつもりだったんだけどな。それで?」


 対面のソファに座るギルドマスターは呆れた様子でため息を吐いた。

 痩せ型の白髪交じりの男性。かつてS級として名をはせた冒険者であり、引退後もこうしてギルドのまとめ役として働いている。

 俺とは頻繁に会うことから個人的な付き合いもある相手だ。


「実はな、ダンジョンに潜った新人パーティーが帰還していないんだ」

「緊急の依頼か。場所は?」

「死者の回廊だ」


 あー、あそこね。

 アンデッドがうようよしている初心者向けの迷宮。


 初心者向けと言ってはいるが、実際の難易度はそこそこある。


 最下層まで行くには中堅に手を掛けるくらいはないと難しい。なので駆け出しは浅い地下一階から二階までを中心に動くのがセオリーだ。

 そんな場所で未帰還となると、実力に見合わない階層に降りてしまったか、何らかのトラブルに見舞われたか。もしくは死んでしまったか。


「なんでウチに? そういうのは中堅や熟練の仕事でしょ?」

「彼らは期待の新人でね。それとなく目を掛けているのだ。それから……」

「なんだよもったいぶるなって。助けてやらねぇぞ」

「近頃デュラハンらしき目撃情報がよせられていてな。その真偽も確かめて貰いたい。もし事実なら熟練では手に負えんだろうからな」

「デュラハンねぇ、死者の回廊には出てこなかったと思うけど」


 デュラハンは上位のアンデッドだ。

 この世に強い未練を残した魂がアンデッド化したものであり、生前に騎士や貴族などと身分が高かったものがなりやすいと言われている。武器の扱いに長け『麻痺(パラライズ)』のデバフを付与することから厄介な相手としても認知されている。


 レジストのできる”魔術師”または”付与士”がいないと全滅もあり得る相手だ。


 その期待の新人とやらは運悪くデュラハンと遭遇した可能性が高い。

 死んでなきゃ良いけど、もし死んでても俺を恨むなよ。


「報酬は?」

「金貨五十枚でどうだ」

「デュラハンだぞ。最低でも百」

「新人達を保護できれば十。デュラハンを討伐できればプラス百でどうだ」

「まぁいいだろ。その額で引き受けるよ」


 さて、ホームに戻って連れて行く奴を決めないと。

 ちなみに俺は攻撃は全くできないからアタッカー頼りだ。


 支援専門なんで。



 ***



 お腹の音が鳴り止まない。

 すでに食糧は底を突いていた。


 元々長期間潜る予定ではなかった。だから最低限の食糧しか持ち込んでいなかったのだ。


 リーダーのアカネが扉の隙間から向こう側を覗いている。

 私は怪我をして伏せるリノアを見守りながら、アカネへ小さく声をかける。


「まだいますか?」

「離れる素振りすらない。どうして初級ダンジョンにデュラハンがいるのよ」

「リノアが目を覚ましちゃう」

「ごめんね」


 腹部から出血をしているリノアは、玉のような汗をかき苦悶の表情を浮かべている。

 なんとか応急処置はしたけど魔術師の私では完治はできない。


 なぜこうなったのか。

 いくら考えても不運としか思えなかった。


 私達は新人パーティー【小さな花畑(リトルフラワーズ)

 剣士のアカネ。

 魔術師のベル。

 シーフのリノア。

 三人で構成されている。


 死者の回廊へはスケルトン狩りに訪れていた。

 いくら狩ったところでたいしたお金にはならないけど、新人である私達には経験が必要だった。根気よく何度も足を運び、地図を作り、敵を倒し、少しずつ成長を実感していた。


 あれが現れるまでは。


 デュラハンはアンデッドの中でも上位の魔物。

 初級であるこんなところにいていい魔物ではない。


 不意打ちを食らったリノアは行動不能に。動けない彼女を抱えながら私達はなんとかここへ逃げ込み今に至る。しかし、未だに助けは来ず、デュラハンは私達がじり貧なのを察知しているのか扉の前から動こうとしない。


 恐らく次のアクションが私達の最後だ。

 私もアカネももう体力が尽きかけている。リノアに至ってはかなり危うい状態だ。

 そろそろ賭けに出るか諦めるか覚悟を決めなければならない。


「本当に助けは来ないの?」

「捜索はされてると思うわ。予定の帰還からだいぶ経ってるし。だけど、捜索者がD級やC級だとしたらデュラハンには勝てない」

「どうしたら」

「諦めないで。まだ手はあるわ」


 アカネは剣を抜き深呼吸する。

 そして、私にリノアを背負えと指示を出した。


「あたしがあいつを引きつける。その間にベルはリノアを連れて地上へ逃げて」

「囮になるつもり!? 駄目だよ!」

「もうこれしかないの」


 私は杖を握りしめ唇をかみしめた。

 無力な自分が許せなかった。


 もっと強ければ。


 ず、ずずん。地響きがして天井からぱらぱら砂埃が落ちる。

 直後に扉をぶち破ってデュラハンが壁に背中から叩きつけられた。


「あーあ、壊しちゃった」

「文句があるならラックスが相手をしますか?」

「血、血を、血をくれぇぇ」


 舞い上がる土煙の中からを現れたのは、三人の冒険者だった。


 仮面をつけた金髪の剣士。

 黒髪でボサボサ頭の何を考えているのか分からない印象の付与士。

 全身ベルトに縛られた黒づくめの人型。


「血を」

「ひぃ!?」


 黒づくめの人があり得ないほど身体を反らし、唯一見える血走った瞳で私を捉えた。


「そいつ回復師だから。血は回復させろって意味ね」

「あ、はい……」


「血を、血をぉおおおおおお!!」


 なんなのこの人達。



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