39話 罪を告白しますシスター
呼び出しのベルが鳴り、クラリッサは懺悔室へと入る。
神父は自宅で寝込んでいる。故に教会には彼女しかいない。
壁を隔てた向こうで女性の声がした。
「私は罪を犯しました。どうか訊いてください」
「どうぞ」
「好意を寄せる男性の寝室に入り、寝顔をこっそり盗み見てしまいました」
「ぎりぎり罪の臭いがしますね。続きを」
クラリッサは冷静な返事をしながら内心わくわくしていた。
乙女の隠し事はいつだって蜜の味だ。
内容を聞く限り壁の向こうの相手は、神父ほど露骨な犯罪には走っていない。
まだ好意が抑えきれず小さな過ちを犯したレベルである。
情状酌量の余地はある。
むしろもっとやれ。クラリッサは漢らしい顔で鼻息を荒くする。
「彼とは一つ屋根の下で数年過ごしてきました。最初はただの仲間だったのですが、どことなく私の好きな方の面影があっていつしか、その、好意を。全く顔も髪色も違うはずなのに」
「気が付けば好きになっていたと」
「はい。あの方とは結ばれることはないと思っておりましたから、気持ちはどんどん今の男性に向いてしまい。でもあの方を裏切っているようで苦しいのです」
「その気持ちわかります」
「シスターも?」
「ええ、私にもかつて好意を寄せていた男性がいました」
クラリッサはスイッチが入ったように遠い目をした。
声も語り口調となり「はー」「ふー」などと小さくため息を吐く。
壁の向こうでごくりとつばを飲み込む音がした。
「その方とは?」
「さぁ、今はどこで何をしているのでしょうね。死んでいるのか生きているのか。待ち続けるのには疲れました」
「お辛いですね」
「ええ、ですので新しい恋に生きることに決めました。あの方は本当に素晴らしい方です。思い出すだけで妄想がはかどってしかたがない」
「どのような妄想ですか?」
「そこを深掘りしますか。本当に訊きたいですか?」
クラリッサは話がそれたと軌道修正を図ることにした。
姿勢を正し、こほんと軽く咳をする。
「では、貴女は好意を寄せる相手の寝顔を覗き見たことを罪とし、女神様に許しを請うのですね?」
「はい。どうかお許しください」
「女神様は全てをお許しくださいます。その程度の小さな罪なら大目に見てくださるでしょう」
「感謝いたします」
「ところで貴女はその方のどこをお好きになられたのですか」
「そうですね――だらしなくて口を開けば、割に合わないとか面倒だとか、アタッカーだからさっさと前に出ろとかばかり。でも時々優しくなって気遣ってくれたりするんです。仕事はすごく頑張ってるし、なんかこう近くでずっと支えてあげたいなって思ってしまって。それに最近じゃあだらしないところも可愛いなって。頼ってもらえると何でもしたくなるといいますか。ここ最近は常に何をしているのか気になってついつい後を追いかけてしまって。他の女性に目移りするのはしかたがないですし諦めていますけど、最後は私の元に戻ってきてくれると思っています」
早口で語られる言葉に、クラリッサは笑顔から次第に恐怖へと表情を変えた。
あ、これヤバい人だ。などと彼女は震える。
満足するまで語り尽くした壁の向こうの相手はすっきりした様子であった。
「私の話を訊いてくださりありがとうございます。こういう話は誰にもできなくて実は悩んでいたんです。もし良かったらまた来てもかまいませんか?」
「ええ、いつでもどうぞ」
女性は懺悔室から出て行った。
もう来ないでいただきたいとクラリッサは女神に祈りを捧げた。
これにて第一章終了。第二章開始までしばらくお時間をいただきます。
ここまで読んでくださってありがとうございます。じゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるっ!!!




