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31話 スライムが可愛いと思える奴らは幸せだ

 

 地下水道入り口で今回のメンバーが顔をそろえる。

 俺、ザイン、フェリス、アブリルの四名である。


 アブリルは依頼人ではあるものの、腕の立つ魔術師であることから後衛担当として動いて貰う予定だ。本人もそのつもりで装備を調えてある。道中で連携が上手くいくか確認しておきたいところではある。


「準備は良い? 一度潜るとしばらくは戻れないわよ」

「例の男が出てきたらどう対処する?」

「倒す……と言いたいところだけど逃げられるならそうすべきね。手の内がまるで見えない相手に突っ込むのは得策じゃないわ。個人的には殺したいほど頭にきているけれどね」

「だろうな。二人とも問題ないか?」

「い、いい、いつでもいけるぅぅ」

「念のために使い捨て転移魔法陣も設置しています。脱出に関してはご心配なく」


 てことでアブリルを先頭に地下へと降りる。

 ちなみに新人ちゃん達は今日はお休みだそうだ。冒険者は体が資本、無理だと思えば休息を取るのが長く続けるコツだ。

 まぁギルドの酒場で入り浸っている熟練者どもは休みすぎなんだが。


 鉄のはしごを下り地下水道へ。

 ちらほらスライムの姿があり異常増殖が加速しているようであった。


(前回潜った時はこんなにいなかった気がする。アブリルの言うとおり結構ヤバい状況じゃないのか)


 一般的にスライムは最弱の魔物だ。

 弱点は内部にある核石と呼ばれる部分。移動速度は非常に遅く、主な攻撃は体から出す強酸。水辺や湿度の高いところを好み何でも食べる。


「スライムは見かけても相手にしないのが普通ですけど、こううじゃうじゃいるとさすがに身の危険を感じますね」

「だな。俺の魔力の網もスライムだらけで機能していない」

「ア、アア、アブリルぅ、離れるなぁ」

「そうね。ありがとうザイン」


 四人でスライムを避けながら先を進む。

 前を歩くアブリルとザインはずいぶん仲が良さそうだ。

 アブリルが積極的に頭を撫でたりと可愛がっている。


 あの二人くっつきそうだな。もし結婚したら披露宴でスピーチしてやろう。



 ◇



 中層に至る。周囲の景色はがらりと変わり、石造りの苔がむした景色へと変化した。

 ほんのり魔素の結晶が光り照明は必要なさそうであった。


「ここって遺跡なんだよな? なんで地下に?」

「その昔アンブレラは水資源の乏しい国だったの。作物も思うように育たず何度も飢饉が起きたわ。そこに現れたのが当時大陸を支配していた魔神よ。彼は水が無限に湧き出る魔道具を当時のお城の地下に置いた。魔道具からは水が溢れ長い期間を経て町に広がり、いつしか町を飲み込んでしまった。住人は水から逃れようと増築を繰り返し上へ上へと積み重ねていったの」

「幻想級、いや、神級の魔道具がこの下に?」

「おとぎ話よ。誰も魔道具を目にしたことはないもの。私は地盤沈下だと考えているけど」


 そう言いながらアブリルの目はおとぎ話とは語っていなかった。

 もし実際に魔道具があったとしたら、とんでもない価値となるのは言うまでもない。ただし、たとえ発見しても手に入れることは難しいだろう。この町の水資源と引き換えだからだ。

 話してくれたのは信用してのことかな。

 忘れっぽいから明日には覚えてないかもだけど。


 アブリルはさらに深層へと向かう。


 古びたパイプを四人で下りながらその景色に唖然とした。

 天井から降り注ぐ目映い光――半ばで折れたパイプから大量の水が流れ込み、その下では緑豊かな植物が生い茂っていた。虫系の魔物が飛び交い、水辺には多くの魔物が集まっていた。


「どうして地下なのに日光が?」

「あ、ああ、明るいぃい」

「不思議な光景ですね。アブリルさんは理由をご存じで」

「あの光はヒカリゴケの変異種よ。魔素を吸収して強い光に変換しているの。魔素の濃い場所にたまに生息しているらしいわよ」


 へぇ、そりゃ知らなかった。

 さすがギルマスというべきか物知りだな。

 良い胸してるし。


「しかし、ここもスライムは多いな」

「スライムを食べる魔物がいるからまだ増殖は抑えられているけど、臨界点を突破したら恐らくアンブレラの冒険者では止められないわ」


 スライムを食っているのはどうやら虫系の魔物のようだ。

 それでもスライムの数がどこからともなく補充され一向に減らない。


「私もただのんびり地下生活を送っていたわけじゃないわ。スライムの発生源を絞り込もうとあちこち探っていたの。もちろんあの男も追いながら」

「呪いを解いて貰うつもりだったとか?」

「可能ならね。だけど見つけられなかった。その代わりだけど発生源らしき場所の絞り込みはできたわ。恐らく深層の水が集まる場所にそれはいる」

「いる?」


 アブリルは問いには答えず足を速めた。



 ◇



 フェリスがスライムの大群を焼き切る。

 時間差でアブリルがさらに風の攻撃魔術で押し寄せるスライムを切り刻んだ。


 ここに来てスライムの数が激増した。

 それも尋常じゃない数だ。


 一息吐いたフェリスに俺は声をかける。


「体力は問題ないか? ずっと戦っているだろ」

「少し疲れましたね。体力がというより精神的にです。今だから言うのですが私、実は集合体恐怖症なんですよ」

「……それはきついな。なんか悪い」

「気になさらないでください。でも、戻ったらラックスの手料理なんか食べてみたいですね。以前とても美味しいシチューを作ってくれましたよね」

「任せろ。いくらでも作ってやるぜ」

「ふふ、楽しみにしています」

「二人ともいちゃいちゃしてないでこっちに来なさい。発生源を見つけたわ」


 先で待つアブリルとザインは一足早く光景を目にしていた。

 俺とフェリスも薄暗い通路を抜け、明るい開けた空間へと出た。


 天井から降り注ぐ陽光に似た光。

 その下では水草が浮かぶ広い湖のような場所があった。

 水深は膝ほどで壁の至る所から水が注ぎ込まれている。

 その中心には朽ちた噴水らしき残骸があり、他にも半ばで折れた柱などが立っていた。


「発生源って?」

「あれよ」


 噴水の陰から出てきたのは巨大なスライムだ。

 表面が波打ちぼこぼこと無数のスライムを生み出している。


「なんてスピード……何ですかあれは?」

「たぶんスライムの異常種、魔王の一歩手前まで進化した個体ね」

「魔王……」


 全員の顔が険しくなる。

 魔王――魔物が進化し続けたことでたどり着く世界の脅威。



「どうかな私の用意したサプライズは」



 ふわりと舞い降り、噴水の石像の頂上に足を下ろす男。

 藍色の短髪に上等な仕立ての衣服。

 その背中にはコウモリのような飛膜があり、黒い尻尾が背後で揺れていた。


「悪魔……」


 三日月のように鋭く口角を上げる男。

 俺は自然と呟いていた。



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