3話 面談します。悩みを打ち明けてください(2)
面談の続きです。
入室したのは三人目。
フルフェイス全身甲冑の巨躯であった。
名は【グランノーツ・ハイデルン】
3番目に加入したメンバーである。
ポジションは前衛。タンク兼アタッカーとしていつも素晴らしい働きをしてくれている。
武器は斧だ。なんと二刀流である。とんでもない重量の武器を軽々と片手で握りぶん回す。俺が最も憧れる漢らしい戦闘スタイルだ。
しかし、見ての通り彼(?)もまた種族性別全て不明。
ぶしゅううううう。グランノーツの身体から蒸気が噴出する。
時折こうして甲冑にある穴から熱い空気を放出するのだ。本当に何者だろう。時々だけど眼も光るし。
「スワッテモ、イイカ?」
「どうぞどうぞ」
どすん、グランノーツが座っただけで特別製のソファがきしむ。
彼の声はなんとも不思議だ。
男性的でもなく女性的でもない。中性的といわれると何か違う。
強いて言うなら何かを通して発したような輪郭がややぼやけていて硬い声。
時々だけど『ごっ』とか『がっ』とか『ざざ』とか妙な音も混じるんだよな。
俺は真っ暗な眼があるであろう部分を見つめる。
「調子はどうだ? メンバーとは上手くやれてるか?」
「モンダイナイ」
「そうなんだ。じゃあ悩みとかない? 要望でも良いけど」
「ホン、ガホシイ」
「この前大量に買ったと思うけど」
全て読んで暇だ、と言いたそうに手を広げて肩をすくめる。
ちなみに読書は彼の趣味だ。
他にも定期的に大量の酒樽を買い込んで飲んでいるようで、俺には知的な酒飲み男のイメージができていた。
意外にフットワークが軽く頻繁に町の中で見かけたりする。
その巨体から人気が高くグランノーツの周りには常に子供達がまとわりついている。
「じゃあ新しい本を購入しておくよ。他には?」
「モット、オモシロイ、ボウケンガシタイ」
面白い、つまり暴れられる仕事ね。
しばらくフルメンバー必須の仕事は入ってないからソロでできそうな依頼を探しておくかな。グランノーツならどこに行っても無傷で戻ってくるだろうし。
「最後に四六時中その全身鎧を着けているけど不便だったりしない?」
「マッタク」
「あ、そうですか」
グランノーツは俺の悩みなど気づきもせず退室する。
まじかよ、あの状態が不便じゃないなんて。
もしかしてグランノーツはゴーレムだったりするのか。
鎧と思っている部分は実は肉体そのもので中身はがらんどう。
ますます気になる。
◇
ドアがノックされいよいよ最後の四人目が入室した。
名前は【シルク・シルフィード】
一言で言えば”白い毛玉”だ。
予想だが白い髪の毛が全身を覆っている、のだと思う。
長さだけでなくボリュームもかなりあり手も足先すら見えたことはない。
魔術師である為、時折杖が毛の間から出てくるがやはり真っ暗で確認できない。それでもさらにのぞき込めばどこまでも深い漆黒が手を伸ばしてきそうで目をそらしてしまうのだ。恐ろしい。
「面談と聞いた」
「そうなんだよ。そうだ、お茶でも飲む? 淹れてくるから」
「不要」
気を遣ってお茶を誘ってみたけど、シルクはふるふると首を横に振った。
それからソファに腰を下ろした。
相変わらずの毛玉。
なんかこうふわふわの毛をした犬を思い出す。
中はどうなっているんだろう。謎すぎる。
シルクは最後に加入したメンバーだ。
ザインやグランノーツと違い流暢に喋りコミュニケーション能力は高い。気を遣ってくれる場面もよくあり、フェリスに次いでパーティーの輪を意識してくれているメンバーだ。
魔術の腕はずば抜けていて正直どの程度なのか俺にはわからない。
相当すごいのは間近で体験していて理解はできるけど、次元が違いすぎてどの高みにいるのかすら読めない。
一方でその謎生物的なシルエットから子供受けは良い。
母親達はその見た目から近づかないよう子供を説得しているようだが。
メンバーの中で唯一目的があるメンバーでもある。
シルクは『天空城』と呼ばれる古代の遺跡を追っている。
天空城は常に空を漂っている謎の遺跡だ。
通説によればかつて大陸を支配した魔神の生み出しし最難関ダンジョンと言われている。ただ、常に飛びながら移動している為に乗り込めたものは非常に少ない。さらに帰還したものはゼロと言われていることから未踏五大ダンジョンの一つとして数えられている。
なぜ天空城を目指すのか、その理由は未だに教えて貰っていない。
「困ったことや悩みとかないかな」
「つい最近出たシャンプー&リンスなるものがほしい」
「なんで?」
「それをつけて洗うと艶が出るそうじゃないか。シルクは毛を大切にしている」
そ、そうですか。
でも言われてみればちょいぼさぼさだよな。
フェリスにも頼まれていた品だし購入は問題ない。
「仕入れておくよ。他には」
「古代魔術の使用された遺跡に行きたい。立ち入りが禁止されていて依頼じゃないと入れない」
「オーケー。ギルドに伝えておくよ」
「ありがとう」
こころなしかシルクがほわほわしている。
恐らく喜んでいるのだろう。頭部のはねっ毛もぴょこぴょこしている。
やはり謎生物。その毛の下が気になるぅ。
「最後に髪の毛は切らないのかな?」
「髪の毛大切。これあると温かい」
ああ、寒がりなんすね。
そうなんだ。へぇ……そっか。
白い毛玉は退室してしまった。
「面談してみたけど糸口がなさすぎる。どうすりゃ悩みなんて聞き出せるんだ」
俺は一人頭を抱える。
ウチのパーティーくせ者揃いすぎる。
まったく思うとおりに進まない。
さすが巷で色物集団と呼ばれているだけのことはある。
一部の熱狂的なファン以外には全く応援されていないキワモノS級パーティー。それが我が名称未定だ。
しかし、このまま放置して良い事柄でもないよな。
リーダーである俺が何一つ把握できていないのは今さらだけど不味い。そりゃあね、俺も強けりゃ全て些事とか思ってた時期もありましたよ。結成当初なんてほんと人がいなくて困ってたから。で、来た奴ら全員採用した結果が今ね。
「自分は面談を受けなくてよろしいのでしょうか」
「いいよいいよ、訊きたい相手から話は聞けたから」
「そうですか。では」
「あれ?」
がばっと勢いよく振り返る。
声がした気がしたが、背後には誰もいなかった。
気のせい? 疲れてるのかな。今日はもう休もう。
ウチは五人パーティ。六人目がいるはずないじゃないか。
ドアがノックされフェリスが入室する。
いつも通り鎧の上からエプロンが着けられていた。
「夕食の準備ができたよ。君達も来て」
「ちょうど腹が減ってたところなんだ。でも達ってなんだよ」
「?」
不思議そうにするフェリスを余所に俺は食堂へと向かう。
背後からもう一人付いているとは知らずに。
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靴も笑顔で舐めますので何卒。じゅるるるっ!