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27話 二つの果実は戦闘を終わらせる

 

 五本の軌跡が弧を描く。

 ナイフのような爪を俺はギリギリで躱し腰の短杖を引き抜く。


「ぐるぁあっ!」

「デバフを警戒しているのか」


 魔術文字を描く暇を与えてくれない。

 アブリルは俺だけを狙ってしつこく狙ってくる。壁際で突きをかわせば、壁ごとあっさり貫通し穴が開く。


 赤い瞳は爛々と妖しく光り理性を感じ取れない。

 完全に呪いに支配されている状態だ。


「ボ、ボボ、ボクが、相手だぁぁ」

「助かる」


 間に入ったのはザインだ。

 アブリルもようやく彼を敵と認識し、視線が俺から彼へ固定される。


 今のうちにデバフを。


 魔術文字を描き『麻痺』をアブリルに付与する。

 が、強力な呪いがかかっているせいかデバフが弾かれる。


 ザインとアブリルの戦闘が始まる。


 爪による鋭い斬撃がザインを襲う。

 しかし、彼は後退しつつ最小限度の動きでかわしていた。

 避けきれない軌道の攻撃は手でいなす。

 彼の片目はとんでもない速さで動いていた。


 大振りが繰り出された直後に、ザインは攻撃に転じる。


 爪を避けつつその腹部へ、後ろ回し蹴りをたたき込んだ。


 蹴り飛ばされたアブリルは壁に叩きつけられるも、ヴァンパイア化しているからなのか元A級としての力なのか、とんでもない身体能力で跳ね返ったボールのように再びザインへ突貫する。


 刹那、ザインは振られた爪を片腕で弾き、すでに引き絞っていた右腕を鳩尾にアッパー気味に振り抜いた。


 天井へ激突したアブリルは瓦礫と共に落下。

 土煙が部屋に漂う。


「相変わらず格闘も敵なしだな」

「ボクは、つ、つつ、つよぉおおいい!」


 支援する必要すらなさそうだ。

 いやはやザインは本当に唯一無二の有能すぎる仲間だ。

 回復もできて格闘戦もできるなんて反則だろ。


 思えば彼がパーティー募集の面接に来た時が運命の分かれ道だった。


 その外見から度肝を抜かれた俺は、半ば本気でお帰り願おうかと思ったんだからな。だけどフェリスが「外見じゃなく本質を見ましょう。顔なんて所詮飾りですよ」と言い出すもんだからなんかこうその場の雰囲気で納得してしまったんだよな。

 改めて思い返すとやっぱり顔も大事だと思うんだよな。

 まぁ自分も仮面をつけてて正体を隠している身の上だから、そういうところで否定するのは避けたかったのかもしれないが。


 ただフェリスの判断は正しかった。

 ザインは俺達が求める理想の人材像を遙かに超えてきたのだ。

 彼を採用した結果、その後の採用ラインはかなり下がった気がする。人は見た目じゃないと学んだのだ。


 アブリルの苛烈な攻撃が続く。

 対するザインはたやすく捌き無傷を保っていた。


 あ、ザインのジャイアントスイングが決まった。


「うぉ、おおおおお、ゴロス、ゴロス」


 それでも立ち上がるアブリルはぼろぼろだ。

 ヴァンパイア化で身体能力が強化されているとはいえずいぶんと一方的だ。


 近接では敵わないと察したのか、アブリルは杖を構え詠唱を始める。


 理性がない状態でも魔術は使えるのか。

 止めるべきかな。


 一歩踏み出したところでザインが手で俺を制止した。


「対処できるのか?」

「も、もも、問題ない」


 詠唱が終わりアブリルの杖に水が集まる。

 水系統の攻撃魔術のようだ。


 生み出された水は大きな球体となり、すさまじい勢いで水流となって発射された。


 水系統中位魔術ウォーターカノンだ。


 岩をも貫く高圧によって直撃したものは肉片となる。

 ザインは迫る水流を避けることもなく、引き絞った右腕を解き放ち吹き飛ばした。


 は?


 呆気にとられる俺。

 アブリルも予想外すぎて目を見開いたまま固まっている。

 飛び散る水滴の中を、ザインは駆け抜けするりとアブリルの背後に回り込んだ。


 何をするのかと思った次の瞬間――。


 ――ザインは背後から彼女の服を掴み、一気に引き剥がすように下げた。


 ぶるん、白く丸い二つの果実が揺れる。

 腹部の辺りまで服を剥がされたアブリルは正気を取り戻し顔を真っ赤にした。


「きゃぁあああああああああああああああっ!!」


 よくやったザイン。

 お前のボーナスは必ず上げるからな。


 胸を隠すようにしゃがみ込んだアブリルは「見られた。お嫁に行けない」と涙目になっていた。


「う、うごくな。呪いを、解析してる」

「解呪できるの!?」

「それを、し、調べている」


 俺も近づくと、ザインはアブリルの背中にある痣のようなものに触れていた。

 痣は<と>が重なったような形だった。

 呪いを受けると身体のどこかに印が出ると耳にしたことがあったが、実際に眼にするのはこれが初めてだ。始祖の呪いはこんなマークが出るのか。


「どうだ?」

「解けそう、ラララ、ラックス、あまり裸を見るな」

「そうだな。悪い」


 怒られてしまった。





「かか、解呪、完了した」

「本当に!? 解けたの!?」


 改めて背中を確認するとマークは綺麗さっぱり消えていた。


「あれは、悪魔の呪い、お、おお、お前、悪魔と会ったか?」

「……会ったわ。説明するからちょっと待ってて」


 俺とザインが後ろを向いている間に、彼女は服を整える。

 音に耳を澄ませていると、ザインが眼を細めてじっと見ていた。


 な、なんだよ。いいじゃん音くらい。

 減るものじゃないし。


「もう良いわよ」

「それでなんであんたは呪いなんか受けたんだ」

「この際全てを話すべきよね。貴方達はスライムの異常増殖の件は把握しているかしら」

「一応はな」

「実はなぜ増殖しているのか原因が分かってないの。私は原因を調べるためにB級パーティーと一緒に地下ダンジョンへと潜ったの」


 地下へと潜った彼女はこの中層で普段入らないエリアへと入った。

 そこで偶然出会ったのが”藍色の髪の男”だった。

 彼はダンジョンに潜っているとは思えないような軽装で彼女達に挨拶をし、彼女以外を一瞬で昏倒させた。


「元A級冒険者の私が何も見えなかったの。何をされたのかさえわからなかった。そいつはこういったわ『悪魔と出会うなんて運が良い』と」

「自身を悪魔と言ったのかそいつは」

「そうよ。外見は至って普通だったわ」


 悪魔と名乗った男はアブリルを片手で叩き伏せ、笑いながら「ヴァンパイアの始祖になれる呪いだ。おめでとう」とその背中に呪いを注ぎ込んだ。さらに男は「間もなくサプライズがある。楽しみに待っていなさい」と言い残し姿を消した。

 彼女はB級パーティーと無事に帰還したもののその身にはすでに呪いを抱えていた。


「あの子やギルドの皆を信じるべきだったわね。だって貴方達は依頼を完璧に達成したもの」

「もう、大丈夫ぅ。お、おおお、お前の、背中に、呪いはなぃ」

「……ありがとう」


 溜めていた感情が(せき)を切ったようにあふれ出る。

 流れる涙は止められず鼻水も出ていた。


「ほらよ」


 それとなくハンカチを差し出すと、ちーんと鼻をかまれた。



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