2話 面談します。悩みを打ち明けてください(1)
『名称未定』のホームは、ファルナス王国アバンテールの町にある。
王国でも有数の発展した都市であり、冒険者の集まる町の一つとしてもそれなりに名が知れている。名物は霜降りトカゲ焼きだ。
この町には二つの最上位ランクパーティーが存在する。
一つは『銀の護剣』
そして、『名称未定』
時間をかけ堅実に実績を積んできた銀の護剣と違い、名称未定は最短最速で駆け上がってきたいわば”新参者”だ。故に未だに疎まれることもあり国内に敵は多い。まぁそのたびに蹴散らしてきたのでこれと言って困ったことはないけど。
我らが名称未定のホームは、アバンテールの住居区画にひっそりとある。
立派な門とレンガ造りの屋敷。広い庭もあり技や魔術の試し打ちができるような修練場も備えている。仲間が暮らせるよう部屋数の多い建物を選んだらこうなったのだ。
元貴族の屋敷だそうだが、デザインはゴテゴテしてなくて落ち着きのある感じで非常に気に入っている。その分値段はかなりしたけど。後悔はしていない。
ホームの広いリビング。
そこで俺は一人ソファに座り時を待っていた。
「俺なら大丈夫。俺なら聞き出せる。リラックスだ」
これから仲間の面接をするのである。
新人? 違う。現在所属する全員を一人一人面談するのだ。
もちろん信頼関係構築のためだ。
ぶっちゃけ現状では何一つ切り口が見えない。
今まで何していたんだと言われればぐうの音も出ないが、パーティーなんて仕事上の関係だし幼なじみや友達で結成でもしてない限りプライベートには踏み込んだりしないものだ。実際それでやってこられたし、強くて常識があって最低限協調性があればたいていはどうでもいい。
ただ最近気づいてしまったのだ。
知らなすぎなのも不味くないかと――。
発端は三ヶ月前に起きた事件。
とある中堅パーティーが荷物持ちとして新人を加入させた。
新人は控えめな性格でありながら恐ろしく有能であった。しかし、それが災いの元であった。
パーティー全員がいつしか実力を勘違いし慢心していったのだ。
新人の扱いも日に日に雑になり、ついには暴力も振るうようになった。
ある日を境に新人は行方をくらました。
もちろん全員が捜索した。だが見つかることはなかった。後で判明したことだが、その新人は偽名を使っていたらしいのだ。教えられた素性も作り話であった。
彼らは有能な仲間を逃したことで不和が起こり、内輪もめを始め、ついには解散してしまった。国内でも有名なパーティーであったことからこの出来事は大ニュースとして拡散された。
ここまで言えばもうおわかりだろう。
俺がそのパーティーと大して変わらない状況だって点に。
全員が超優秀だ。もちろんリーダーである俺は鼻が伸びまくっている。
雑な扱いをしたつもりはないけど、知らず知らずのうちにってこともありえなくはない。あるいは無自覚に踏んではいけない尾を踏んでしまっているかもしれない。もし行方をくらまされたら追いかける手段はない。その結果、先に述べたパーティーのように不和が起こらないとも限らない。つまり解散の危機だ。
そう考え始めると、仲間の素顔を知っておくべきじゃないかと思い至った。
素性だってできれば把握しておきたい。
一度でも考え始めると仲間の顔と正体が知りたくなって収まらなくなった。
種族どころか性別すら謎なのだ。名前も偽名かもしれない。
今まで気にならなかった事柄が、一度でも意識が向いてしまったことで、好奇心が刺激されてしまった。
気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる気になる。
相談しようにも内容が今さら過ぎて恥ずかしいし、この町で相談できそうな人間は仲間以外にいないから困り果てていた。そこで思いついたのが教会の懺悔室。誰にも知られずアドバイスをもらえる、まさしく天啓であった。
そして、俺はアドバイス通り真の信頼を構築すべくこうして面談に挑もうとしている。
悩みの一つでも聞き出せれば御の字。そこから仲を深め素顔を見る。
最終目標は、全員が姿をさらけ出した真の最強パーティーだ。
ドアがノックされる。
返事をするとサブリーダーが入室した。
「面談なんてずいぶん珍しいですね。そこに座っても?」
「もちろん」
騎士然とした彼は、自然にそれでいて洗練された動きでソファに腰を下ろす。
さらさらとした金糸のような長髪に、その目元には白い仮面をつけている。種族はヒューマン。男性。年齢は18である。
【フェリス】――この名称未定のアタッカー兼サブリーダーだ。
通り名は”炎剣”。炎を振るうことからそう呼ばれている。
俺とは結成時からの付き合いだ。
まだ出会って三年だけど、ずいぶん長く一緒に居る気がする。親友と呼んでも差し支えない相棒。唯一メンバーで種族と性別が判明している人間でもある。
口元に微笑を湛える彼は、いつでもどうぞとばかりに余裕たっぷりの態度だ。
「じゃあ始めるぞ。最近困っていることとかないか」
「そうですね。強いて言うならリーダーがそこそこのクズと呼ばれていることでしょうか」
「おい」
「仲間として恥ずかしいです」
「そういうのを訴える場じゃないから」
次だ次。
ふざけているとボーナス減らすよ?
「他には?」
「食料庫の食材が尽きそうですね。補充しておいてもらえると助かります。それから前々から伝えていますけど、そろそろペットを飼いませんか。こういった仕事ですし、心もすさみがちですから。癒やしの一つもほしいところですね」
「食料庫については了解。ペットはまだ要検討かな。ペットによっては壁や家具に傷をつけたりするじゃないか。補修しないといけなくなるし、死ぬまでここに住むとも限らない。売りに出す際に値が下がるのは避けたい」
「もっともな話です。ではこうしましょう。ペットは飼います。どういった動物を飼うかをこれから話を詰めつつ考える、というのは? もちろん世話は私がします」
身を乗り出し期待のまなざしを俺に向ける。
よほどペットが欲しいらしい。癒やしねぇ。必要なのかな。
まぁフェリスには料理や菓子を振る舞ってもらったり、去年はお手製のマフラーを貰ったりもしたからなぁ。
なにかと世話にもなっているから多少の我が儘は訊いてやりたい。
「わかった。屋敷を壊さないペットなら許可を出すよ」
「ふふ、ラックスは話が分かりますね」
満足したのか彼は背もたれに背を預けた。
これ以上悩みは聞き出せそうにないな。
それじゃあ本命の質問を。
「最後に、その仮面はいつまでつける予定だ」
「申し訳ありませんが貴方にもまだ素顔は見せられません。今は時が来たらとしか。面談は終了のようですね。では失礼しました」
ささっと会話を打ち切られフェリスは退室した。
予想通りの返事であった。
時が来たらっていつだよ。意味深な言葉を残して出て行くな。
むしろ余計気になって落ち着けない。
◇
ドアがノックされ二人目が入室する。
黒づくめなので一目で彼(?)が来たと認識できた。
「は、話ってなんだぁ?」
「とりあえずそこに座ってくれるか。不満とか悩みとか聞きたいだけだから」
「…………」
やや聞き取りづらい口調で喋るのは【ザイン・ヘルナード】である。
全身黒い布に覆われその上から無数のベルトで縛られている。唯一覗く片目も布に開けられた穴からであり、種族はおろか性別も判別不能。言葉数も少なく無口である場面が多い。
その奇妙かつ恐怖心を煽る姿から意外にファンは多く、彼(?)に憧れて冒険者になる者も少なくない。
ソファに腰を下ろしたザインは、じっと血走った片目で俺をガン見する。
「調子の方はどうかな。困ってることとかある?」
「あ、あああああ、ある。庭の、は、はは、花を育てる、肥料が、ない」
「肥料ね。あとは?」
「かか、か、かかかか」
「紙とインクかな」
「そう」
ザインとはフェリスの次に長い付き合いだ。
だいたい二年くらいかな。なんとなくザインの伝えたいことも分かるようになってきた。
庭にある花を育てているのはザインだ。
毎日こまめに世話をしていて、裏手にある小さな畑も管理している。
こうして時々紙とインクをねだるけど、部屋で何をしているのかは俺は知らない。たぶんそういうところなんだろうな。仲間がやっていることに無関心だから真に信頼されず素性も明かしてくれない。
「他に悩みは? 要望とかでも良い」
「もっと、血を」
「回復師としての出番が少ない話? まぁ確かに治療する機会は減ってるよな。最近の俺達怪我しないもんな」
「た、たくさん、怪我してほしいぃ」
「いやだよ。なんでわざわざ怪我しないといけないの」
回復師は聖・光属性の魔力を使い、傷や病気を癒やす回復を専門とする魔術師だ。
ザインはその見た目からは想像もできないほど強力かつ凄腕の回復師なのである。さらに格闘戦も得意としていてそっちも敵なしの超一流だ。
「そういえばギルドから新人指導の話があったんだっけ。そこなら怪我人も大量に出るからたまには参加してみるのもアリだと思うぞ」
「い、行く」
「じゃあギルドにそう伝えておく」
ザインは嬉しそうだ。
もちろん表情は見えない。なんとなくだ。
俺は「最後に」と切り出す。
「無理なら無理でいいんだけど、そのさ、そろそろ素顔とか見せてくれたら……嬉しいかなって」
「あ、あああ、あああああああああああああああ!!!」
「ひぇ!?」
突然立ち上がったザインは部屋を飛び出した。
「拒否かな……」