16話 浄化浄化浄化!!
ミルディア領に到着した銀の護剣が消息を絶った。
その知らせは瞬く間に町中に広がり、動揺と共に銀の護剣でも駄目だったかという落胆が人々に蔓延した。
一方で名称未定は着々と出発の準備を進めていた。
依頼内容は支援から捜索に切り替わったもののやることはそれほど大差はない。
最優先事項はどこかでまだ生存しているであろう銀の護剣を発見し保護する。アンデッドキングの討伐はまぁできればといった感じだ。
そして、いよいよ出発の刻。
ホームの裏でメンバーが全員顔をそろえる。
「荷物は全て入れたか?」
「万全です」
「よし、シルク始めてくれ」
白い毛玉の中から古めかしい杖が出てきた。
俺でも分かるような濃密な魔力が放出され辺りを覆う。
転移魔術――魔道具に頼らない高難易度の魔術。
訪れたことのある場所しか転移できないもののその有用性は非常に高い。一握りの魔術師しか使えないそうだが、ウチのシルクはその一握りの中にいるようだ。
無詠唱からの魔術展開。
一瞬にして景色が変化しどこかの家の中に出現した。
「ココハ、ドコダ?」
「シルクが少し前に住んでいた家。懐かしい」
家の中はがらんとしていて物も家具も一切ない。
窓の外を見ると木々が生い茂り森の中のようであった。
ミルディアに住んでいたなんて初耳なのだが。
しかもだいぶ痛んでて、数年前に人が住んでいた気配はない。
「ラックス、外にアンデッドがいます」
窓際に身を潜ませ、俺とフェリスは外を窺う。
外の森では数体のスケルトンがうろついており時折足を止めてキョロキョロしていた。
「浄化を、浄化ぉおおおお」
「あ」
指示を出す前にザインが動き出す。
彼はドアを開けて飛び出すと聖魔術をドーム状に放出。
聖なる光が森に立ちこめる瘴気をアンデッド共に消し去った。
並みの回復師では真似できない芸当。
宮廷回復師レベルあるいはそれ以上だ。
「グランノーツ、森で人らしき反応はあるか?」
「マテ。シラベル」
グランノーツの眼が青く輝く。
本人曰く生き物の熱を探っているそうだ。
範囲も俺の網の比ではなく、かなり広範囲を視ることができるらしい。いやはや一体どんな種族なのだろう。謎が深まる。
「モリニ、ハンノウハナイ。ソレヨリモ、コノサキニ、マチガアルヨウダ」
「それは恐らくミルディアの中心都市です。そこにはお父様が今もきっと……」
「アンデッドはボクが浄化するぅぅうう」
「ありがとうございます。ザインさんは優しいですね」
ザインは恥ずかしそうに顔を押さえてぷるぷるしていた。
褒められ慣れていないにもほどがある。だがしかし、あの見た目だから褒めてくれる相手がいないのはまぁ納得できなくもないというか。不憫だな。
「こりゃひどい瘴気だな。生きてるって連中は無事なのか?」
ミルディア領中央都市メルエル。
魔物除けの高い外壁に囲まれた城塞都市は、黒い霧のような瘴気に覆われていた。
町の中心に在る城は一段と濃い瘴気に包まれている。
町を護る正門はアンデッドキングが攻め込んだ際に破壊されたのか、重厚な扉は砕かれ地面にそのままになっていた。アンデッド以外の魔物も入り込みうろついていると考えておくべきだろう。
強く拳を握りしめるフェリスは、己の激しい感情の波に耐えているようであった。
領民を奪われ、臣下を奪われ、家族を奪われ、その上で故郷を追われるように逃げ出したのだ。全てを諦めて生きる道もあっただろう。だが、彼女は自ら取り戻す道を選んだ。奇跡でも起きない限り叶わない茨の道を選んだのだ。
そして、彼女は道を進み続け――ついに戻ってきた。
「優先順位を間違えるなよ。俺達は銀の護剣を助けに来たんだ」
「承知しています。ですが、どうしても気持ちが逸るのです。お父様が助けを求めているようなそのような感覚が」
落ち着かせるようにフェリスの肩に手を置いた。
「俺達のパーティーは最強だ。事実かどうかはどうでもいい。最強と信じろ。最高のバフとは己自身を信じ立ち上がること。人はそれを勇気と呼ぶ」
「勇気……」
「最強なら銀の護剣を助け出してついでにアンデッドキングも倒してしまうかもな。頼りにしているぜサブリーダー」
「はい」
冷静さを取り戻したようだ。
フェリスにいつもの微笑みが戻る。
そうしている間にグランノーツが熱源を探し始めていた。
「シロニ、ネツゲンカクニン」
「てことはどうやってもアンデッドキングにご挨拶しなけりゃならないらしいな。とりあえず中を確認してみるか」
門を越えて町の中へ。
数年間手入れもされず放置されていたからなのだろう、多くの建物の外壁や屋根に穴が開いており、一部の建物は跡形もなく崩れてしまっていた。漂う空気は重くどんよりとしていて瘴気が立ちこめている。
「おおお、おおおおお」
「あああああ」
建物の陰から二つの人影が出てくる。
だらだらと涎を垂らしただただ意味もなく声を発するそれは、白目を剥き、己の意思とは関係なく動く物に向かうゾンビのような生者であった。
次々に建物の陰から同様の人が出てくる。
正気を失っている、にしては動きがあまりにも一定だ。ゾンビにしては顔色も良く腐っている個体もいない。
「魅了の魔術? いや違う。洗脳? 操作? 瘴気で正気を失わせ魔術で操っている、としてもこんなにも同じ動きをするものか?」
「シルクは魔術ではないと思っている。あれらには与えられた術式がない。魔術は術式なくして展開維持はできない」
シルクは術式を視ることができる。
熟練の魔術師なら誰だってできることだが、付与士の俺にはそれはできない。
魔術でないとしたらどうやって操っているんだ。
「アンデッドキングは数多くのアンデッドを従えこの町に攻め込みました。スケルトン、ゾンビ、無形のアンデッドも」
「レイスか。人に取り憑かせて操っていると考えれば……その間は意識を失っている状態だから瘴気の影響も受けない。肉体から追い出せば領民は取り戻せる」
「そうです。私がアンデッドキングを倒せば取り戻せると信じた理由です」
生きたまま屍と化した領民が通りを埋め尽くしていた。
中にはスケルトン、ゾンビ、スケルトンウィザード、スケルトンナイトなど本物のアンデッドも混じって行進してきていた。
一歩前に出るのはザインだ。
両手をだらりと垂らし、血走った片目で敵を凝視している。
「露払いはまかせた。思いっきりやってくれ」
「い、いいいいい、癒やすぅうううううううううう! 浄化ぁぁあああああ!!」
聖魔術のホーリーフィールドが展開された。
聖なる魔力によって広範囲のアンデッドと瘴気を浄化する中位の魔術。だがしかし、彼のとんでもない出力によって上級のサンクチュアリ並みの威力となっていた。
光は彼の足下から円状に広がり町全体を飲み込んだ。
領民の身体から白い靄のような何かが飛び出す。
だが、聖なる光からは逃れられず悲鳴を上げて次々に消失していた。
取り憑いたものがいなくなり、人々はバタバタ倒れる。
紛れていたアンデッド達は浄化され、糸が切れた人形のように石畳に転がった。
「きき、ききききき、綺麗になったぁぁあああ! ひゃひゃ! 癒やしたぁ、浄化、浄化ぁぁあああああ!」
ザインは正気を失ったように身体をくねらせ笑っていた。




