15話 名称未定は立ち上がる
俺は帰還早々にリビングに仲間を集めた。
「――てなわけで、ギルマスから大型の依頼を提示された。間違いなく危険な仕事になる。なんせアンデッドがわんさか出てくる訳だからな」
「死者は、じょじょじょ、浄化するぅう」
「ありがとうザイン。君の気持ちは伝わった。だが待て。受けるかどうかはまだ決定してない」
「なぜぇだ」
出番だとばかりに張り切ったザインに俺は冷や水を浴びせる。
途端に彼は干からびた花のようにしおしおとしなびれた。
次に発言したのはシルクだ。
相変わらずの毛玉姿でソファに座っている。
いや、本当に座っているのかも不明だ。
「シルクは参加を表明する。城にある書庫に興味がそそられる」
「書庫……あるのか?」
「なぜ私に訊くのですか?」
「どうなんだよ」
「あります。一部閲覧禁止の書物も」
俺はじっとフェリスを見つめる。
彼女は「正体をご存じでしたか」と大きなため息を吐いた。
「わかりました。本当の顔と名を明かします。そろそろ皆さんには全てを打ち明け協力して貰うつもりでしたから」
ソファから立ち上がった彼女は仮面を外し、その下の素顔を仲間に晒した。
力強い瞳に見惚れるような美貌。
背筋の伸びた立ち姿は姫騎士と呼ぶにふさわしい。
「先に謝罪をさせてください。今まで正体を伏せていたことを深く詫びます」
フェリスは正体を隠してきたことへの謝罪として深く頭を下げた。
「私の本当の名はフェリス・フレアハート。ミルディア領領主ミハエル・フレアハートの娘になります。顔と名を伏せてきたのは強引に嫁がせようとする親族の目を逃れ、自ら父の領地を取り戻そうと決めたからです」
「ミルディアノ、ヒメキシダッタノカ。ドウリデ、ツヨイハズダ」
蒸気を噴出させたグランノーツが頷く。
まぁミルディアの姫騎士の噂は、子供でも知っているくらいに有名だ。
炎を纏い華麗な剣技で敵を撃つその姿は、可憐して雄々しく、領民をいたわる姿は現世に降臨された戦女神のようであると。かの剣聖より直々に指導を受けた者の一人。
「シルクは知っている。ヒューマンは権力を維持すべく本人の同意なく婚姻を決める。フェリスが身を隠すのも無理はない」
「はい。私には父と故郷を取り戻すという大きな責務があります。それを果たすまでは誰とも婚姻を結ぶつもりはありません。しかし、親族はミルディアを滅んだものとし、私を自分達の都合の良い駒として扱おうとしました。私は彼らの元から逃げ出しいつか取り戻せる力と仲間を手に入れることにしたのです」
それが俺達……名称未定か。
思い起こせば、出会った頃のフェリスは鬼気迫る勢いだった。
そのあまりの迫力から誰も仲間にならず、一人孤独に冒険者をやっていた。
たまたま一緒に仕事をする機会があって話してみたら、めちゃくちゃ良い奴でさ。お互い仲間を探していたこともあって意気投合しパーティーを結成。名前は後々ちゃんとしたのをつけようってとりあえず仮につけたのが名称未定だったんだよな。懐かしいな。
「できるなら私がアンデッドキングを倒したかった。今日までそのために生きてきたのです」
「気持ちは理解するが、銀の護剣は譲ってくれねぇだろうしな。こればっかりはタイミングが悪かったとしか。もうちょい早く事情を教えて貰っていたなら依頼を受けたかもしれないけど」
「面倒くさがりのラックスがですか? 私は貴方がどうやったら引き受けてくれるのか悩んでいたのですが」
「すみませんでした。俺が原因でした」
事情を教えて貰ってもずるずる後回しにしていた可能性が高いです。
アンデッドキング単体なら気軽に受けられるけどミルディアの奴は大群を率いている。相手するのめちゃくちゃ面倒臭いじゃん。割に合わないよ。
ザインがテーブルを乗り越え、顔が間近に迫る。
「浄化したぃいいい! 掃除を!」
「わかったわかった。じゃあ今回の依頼、受けるか受けないか全員で決をとろう。受けるは挙手、受けないは手を上げず」
「掃除ぃいい、するぅ」
「当然私は受けます」
「シルクも書庫に興味がある」
三人が挙手をした。
しかし、まだ上げていたい者がいる。
グランノーツだ。
「ホウシュウハ、ショコノタチイリト、サケニシテクレ」
「父に代わり娘である私がお約束いたしましょう。酒も故郷を取り戻せればタダで浴びるほど飲めると思いますよ」
「ヒキウケル」
グランノーツが挙手をした。
残るは俺だけ。全員の視線が俺に集中する。
「リーダーが上げないわけないだろ。全員の意見を確認してから上げるつもりだったんだよ」
「嘘ですね」
あれ、本当なんだけどな。
俺ってそんなに信用ないですかね。
もしかして解散の危機?
◇
「そうか、引き受けてくれるか!」
「ウチのフェリスがフレアハート候の娘だからな。仲間の悲願達成を思えばまぁ引き受けないわけにはいかないだろう」
「炎剣が姫騎士だったとはな驚いたぞ。あれほどの強さだ、無名のまま生きてきたとは思っていなかったがな」
ギルマスは腕を組んで納得したように頷く。
俺がぺらぺらフェリスの素性を話しているのは、彼女から前もって許可を得ているからだ。これからは正体を隠さずパーティーに所属するつもりらしい。彼女なりの覚悟の表れなのだろう。本人も今まで少なからず罪悪感があったみたいだし? 騙すのはここで終わりにしたいようだ。
「一つ質問がある。ギルマスはどうして銀の護剣に行かせたんだ」
「まるであいつらに勝ち目がない口ぶりだな」
「そこまでは言うつもりはないよ。ただね、あいつらとアンデッドキングじゃ相性が悪すぎるでしょ。正義感つよつよの奴らだぞ。肉壁なんか出されたら身動きとれなくなるぞ」
「上手く対処してくれると祈っている」
「祈るだけかよ」
「そのためにお前達を向かわせるのだ」
これって信用されているからと考えて良いんですかね。
信用しているなら今後は沢山割の良い仕事もらえますよね。
おい、目をそらすな。
しかし、フェリスがミルディア領領主の娘なら謝礼もたんまりもらえそうだよな。
銀の護剣はそういうの遠慮して受け取らないこと多いしさ。そう、俺はタダでは転ばない。もらえるものは全て貰う。厚顔無恥と罵られようが堂々といただくぞ。
「いつ出発するつもりだ」
「早くて明日の午後かな。あいつらもまだ向かっている途中だろうし」
「何を言っている。もう到着している頃合いだぞ?」
「なんで? 馬車でしょ?」
「いや、馬に乗って向かったが」
おいおい、予定が狂うじゃないか。
これからすぐに向かわないと間に合わないぞ。
「失礼します。ギルドマスター、大変です」
「ノックぐらいしろ。客人が来ているのだぞ」
「火急の知らせでしたので」
慌てた様子で入室したのはギルド職員だった。
彼はギルマスに一枚の紙を渡す。
「……なっ」
「お邪魔なら帰らせて貰う。準備もしないといけないから」
「待て。お前達にも関係のある話だ」
引き留めたギルマスは重い口を開いた。
「銀の護剣が消息を絶った」




