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物語の終わり

初投稿です。

よろしくお願いします。

今回は読みにくいかもしれないです。すみません。

「犯人はこの中にいる」


 煙草をくわえた一人の男が、彼を取り囲む人々を見渡しながらそう言った。

 男はスーツ姿だった。髪は男にしては長く、帽子を目深にかぶっている。顔は幼く見える。身長もあまり高くなく、学生のようだ。胸にはシルバーに光るバッチ。全体的に黒と白で統一されている男の恰好でそれだけが異様な光を発していた。

 

「探偵さん。なぜそうと決めきれるんですか?外部の犯行だって…」

「それはない。ここは電波の届かない山奥。君たちだってわかっているはずだ。そうではないと、そう思いたいだけだろう」


 彼を取り囲む人々の一人が反論するも、彼は自分がこの場では絶対なのだといわんばかりの態度でその言葉を遮りそう言い放った。一気に空気が重くなる。息を荒くし挙動不審になる者、きょろきょろとあたりを見渡す者…。この中に無残な死体を作り出した犯人がいる。いつ後ろから刺されてもおかしくないという事実が人々をおかしくさせた。


「状況を整理しよう」


 探偵はその空気感に何の影響も受けず。本題を切り出す。


「君たちは大学のサークル仲間で、高校からの付き合いだ。基本何するにも5人全員で活動しており、今回は青木君の祖母の旅館を祖母が病気にかかったため、旅館を見ていることができなくなったため、掃除をするためにやってきた。そうだな?」


 先程、反論した人物が青木のようだ。彼はこくりと頷いた。探偵はそれを確認した後、さらに話を続ける。


「君たちはこの旅館で掃除をほどほどにしつつ、久しぶりに5人でゆっくり出来る機会を大切に時間をすごしていた。しかし、朝起きると島原君が死んでいた。」


 探偵は部屋の隅に視線を向ける。布にくるまれた物体が転がっていた。警察が周りを囲んではいるが少し見えるたびに5人の顔色が悪くなる。


「島原君は旅館の二階。廊下の奥で発見された。窓に血がはねており。窓と近くに落ちていた段ボールが赤く染まっていた。衣服を切り裂かれており、心臓を刺されている。凶器は刃物とみて間違いない。第1発見者は遠藤君。遠藤君、発見した時の詳しい状況を教えてくれ」


 5人の中から気の弱そうな男が出てくる。遠藤のようだ。


「トイレに行こうと思って扉を開けて出たとき廊下が赤かったんだ。窓から光が入ってきてて…。その光が赤く染まってたんだ。光が入ってくる方向を見たら…」


 遠藤はしゃべるにつれて顔色が悪くなっていき段々と声が小さくなっていった。口を押さえ今にも吐いてしまいそうな顔をしている。話を聞いて、うなずいた探偵は遠藤を意に介せず話を続ける。


「今回の事件でカギになってくるポイントは2つある。1つ目は遠藤君の言ってくれたことに含まれている窓から入ってくる光のこと。2つめは死体は移動していたということだ」


 探偵は5人を見渡しつつ、人差し指を立ててさらに話を続ける。


「窓から入ってくる光。遠藤君がそれを見たのは11時。そして、その数分前青木君は部屋にトイレから帰っている。そのとき青木君は何も見なかったといっている。その時、廊下が暗かったとも…」

「それはどういうことですか?」


 5人の中で唯一の女である小柄な人が5人組から1歩前に出て探偵に質問をした。じれったくなったのだろう。この状況を早く終わらせてほしいという思いが伝わってくる。探偵はそれを見てため息をついた。


「そう焦らないでくれ佐々木君。今、私がしゃべっている」

「は、はい。すみません」


 佐々木が頭をぺこぺこ下げながら元の位置に戻った。自身の話を遮られるのがよっぽど嫌いらしい探偵はそれを見て満足そうにうなずいた。


「その日は快晴だった。それはこの旅館の屋上に取り付けられていた装置からわかっている。ならばなぜその時、光が外から入ってこなかったのか、それはドアだ」

「ど、ドア?」


 長身の眼鏡をかけた男が少し裏返った声でそうつぶやく。探偵の予想外な言葉に驚いているようだ。探偵はうなずいた。


「そうだ白井君。ドアだ。廊下がすごく狭いだろう。ここでドアを開けっぱなしにするとどうなるかわかるな?」

「光がさえぎられる?」


 今まで黙っていたくせ毛の男がそうつぶやいた。探偵はそれを聞いてさらに話を進める。


「その通りだ黒田君。青木君の発言が正しいとすれば青木君の部屋は窓から2番目に近い。1番目に近いのは…。」


 全員同じ方向を向く。視線は一人に集中した。


「し、白井?」


 誰がつぶやいたのか。言葉を発した自身も気づいていないだろう。白井は涙目になりそうになりながら叫ぶ。


「そんなのでたらめだ!僕は殺していないぞ!」

「その通りだよ白井君!」


 探偵は白井にも聞こえるように叫ぶ。その瞬間5人はあっけにとられたような顔をする。当然だ。皆、犯人は白井だと思ったのだ。ここまでの探偵の発言は白井を犯人だと決めつけるようなものだったのだから。


「ここで、2つ目のポイントだ。島原君の近くに落ちていた段ボールについてだ。血に染まっていた段ボールだがこの段ボールどこのものだと思う?答えは君たちが共同で買ったジュースのものだ。そう、問題は出自ではない。何に使われたということだが…」


 探偵はそこまで言うとしゃべるのをやめた。すると、1人の女性が探偵たちに向かって歩いてきた。胸には銀色のバッチをつけており、茶色のコートを羽織っている。短くそろえられた髪も茶色であり、全体的に明るい印象を受ける。年は探偵と同じぐらいだろうか。女性は5人組にぺこりと頭を下げ、探偵の前に立った。


「石滝さん。下水タンクで()()なほどに…」

「ワトスン君ありがとう。これで犯人は確定した」


 5人に激震が走った。彼はもう犯人を特定しているのだ。5人はまた疑心暗鬼に陥る。誰が犯人なのか、その空気感は長くは続かなかった。


「犯人は佐々木君だ」


 誰かの息をのむ音が聞こえてきそうであった。あまりにもあっさりとその瞬間は訪れた。


「なんで?なんで私なのよ!」


 佐々木は取り乱している。探偵はそんな彼女を冷たい目で見ながら、さらに言葉を紡いだ。


「動機はわからないが他のことはすべてわかる。まず、それを説明するためにいくつか警察の調査で分かったことを挙げていく。1つ目は女風呂の水が抜けていたこと。2つ目は島原君の死亡推定時刻。3つ目は島原君の致命傷についてだ。1つ目の女風呂についてだが男風呂の水は抜けていなかったにもかかわらず、女湯は抜けていた。この旅館は山奥だ。近くの旅館、民家などがふもとに近いところにタンクを作っていてそこに下水をためてから下水処理場に流していた。その中から()()なほどに血液の成分が検出された。ここら辺の地域でほかに殺人事件が起きていないためこの旅館の女風呂の水ではないかと推測できる。そして…」

「でもそれだけじゃわからないでしょ!他のところで新たに殺人事件が起こっているかもしれないし…」

「佐々木君黙って聞き給え」


 威圧感。それを佐々木は感じた。不思議と口が閉じる。探偵はたばこの煙を吐いて、灰皿に押し付けた。


「2つ目は死亡推定時刻だが9時だ。ちょうど佐々木君が女風呂に入っていた時間だ。他の人の証言でこれは確定している。3つ目の致命傷についてだが彼は心臓を服の上からではなく服の下から刺されていたんだ。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()。刺されたとき、彼は裸だったのだ。9時の時、黒田君が男風呂に入っていた。彼の自室にこの時、青木君が訪ねている。彼の部屋のこの時裸でいて殺された場合も考えたが、窓の近くに木は生えていない。窓から侵入したりもできない。そこにはいなかったと考えるのが自然だろう。青木君が廊下にいるし、広間にも遠藤君がいた。外では白井君が花火の準備をしていた。女風呂にいたとしか考えられない。そうだろう?」


 探偵は5人を見渡しながら同意を求めるかのように言う。今まで下を向いていた佐々木だったが待てをやめていいように言われた犬のように少し食い気味になりつつ反論する。


「じゃあ死体が2階にあった理由はなぜ?」

「さっき言っただろう。死体を移動したと。段ボールに乗せて、わざわざご丁寧に服を着せ、ふろの水を流したのは殺害場所を誤魔化すため。しかし、佐々木君はそのあと11時までのアリバイがある」

「じゃあ私は犯人じゃないじゃない!」


 裏返り、さらに高い声で叫ぶ。これを絶叫と言うのだろう。その音に忙しなく動いていた警察たちも動きが止まった。探偵はため息をついた。


「君はアリバイがあるしかしその後の白井君のアリバイはない。その時に白井君が死体を運んでいた。そうすれば、つじつまが合う」

「そんなのでたらめよ!」

「もうやめよう!」


 佐々木の声を白井が遮る。全員の視線が彼に向く。


「僕と佐々木さんでやりました。それでいいですか?」

「何言っているの?」

「佐々木君。そうなのか?」


 探偵は佐々木に問いかける。圧はない。ただ淡々と事実を確かめるかのように探偵は言った。


「…はい」


 佐々木は消えそうな声でそうつぶやいた。


 **************


『石滝。警察に何の用だ。また事件を発見したのか?』

「違う佐々木君と白井君の件だ。栗城(くりしろ)


 探偵は黒い車の運転席でスマホの向こうに向かってしゃべりだす。


『佐々木…。ああ、旅館の件か』

「そうだ」

『容疑者の佐々木は、島田から…マイルドに言うとセクハラだが、そのような行為を受けていたらしい。体を触られたり、裸にされたり。島田は高校の時、5人組で今回と同じような機会があったのだがその時に浴室に無断で侵入してきたらしい。今回も同じようなことが起こるのではないかと思い今回のことを計画したのだそうだ。島田にそのような行為を受けていた人物を探すと7人見つかった。彼女の話の信ぴょう性はある。その7人のうち1人の少女と白井が付き合っていたらしい。それを知った佐々木は白井に声をかけたんだそうだ』

「なるほどな。女風呂になぜか入っていた島田君だったがそういうことか…。ありがとう。おかげで謎が解けた」

『問題ない。また事件の時、よろしくな』

「ああ」


 探偵はスマホから顔を離す。その直後運転席のドアがたたかれる。探偵はため息をつくと窓を開ける。そこには1人の女性。


「こんにちは」

「ご機嫌用。ご活躍はかねがね」

「フフッ、他人事のように言いますね」


 そう言ってころころと女性は笑う。銀色の髪が動くたびに揺れ視線を引き寄せる。彼女の持つ碧眼はすべてを見通すかのようで、彼女を天使かのように錯覚させる一種の神々しさを感じさせる。年は彼女のかわいらしさも相まって探偵よりずっと下の少女のようにも見える。そんな彼女を見て探偵は顔をしかめる。


「ここまで貴方が上り詰めたのはあなた自身の実力だ。私は関係ない」

「確かにその通りかもしれませんが、一因は貴方です。心からの感謝を」


 さらに顔をしかめる探偵。笑みを深める女性。


「お久しぶりです。新川さん」


 そこに割り込んだのは探偵にワトスンと呼ばれていた女性。


「不知火さん。久しぶり、元気してた?」

「はい、おかげさまで」

「今日はどうして探偵協会へ?」

「任務達成の報告を。そういえば…」


 2人の話が盛り上がりを見せてくる。探偵はため息をつき煙草に火をつけた。

 数分経った後。二人の会話が途切れたタイミングで探偵は灰皿にたばこを押し付ける。


「話は終わりか?」

「あ…。じゃあまたね」

「はい」


 2人は探偵の存在を忘れていたようだ。ワトスンは車の助手席に乗り込む。探偵がボタンを押すとエンジンがかかり、車が揺れる。


「では、また」

「ああ」


 車が走り始める。探偵は窓を閉め。アクセルを踏む。新井と呼ばれていた女性はずっと探偵たちに手を振っていたが、探偵はそれを見て見ぬふりをして、走り出した。ラジオがつき陽気な音楽が流れる。


「石滝さん。べつに彼女の前ではそんなしゃべり方をする必要はないと思いますが?」

「いや、由香くん。そういうことではないんだよ。常日頃からあのしゃべり方をしていないとどこかでぼろが出てしまう。別に彼女を仲間外れにしているわけではないんだ」

「ではなぜ私と話すときだけ?」

「人間何かよりどころを持っていないと壊れてしまうと僕は考えるよ。宗教とか、趣味とか。それが僕にとって君だっただけさ」


 ワトスンは顔を赤くする。探偵はそれに気づかず前を向いている。ワトスンはコホンと咳払いをする。


「私にとっても、石滝さんは…」

「待て今何か見えた。止まるよ」


 車が道路車が道路脇に止まるワトスンは落胆したかのようにため息をつく。探偵は車に気を付けながら外に出た。ワトスンも続いて外に出る。


「由香くん、いやワトスンくん」

「は、はい」

「今夜はまた長くなりそうだ。今のうちに渡しておくよ」


 そう言って探偵は懐から小さな箱を取り出す。箱を開けると銀色指輪が夕日の光を反射して光っており、真ん中には小さな青色の宝石がはめ込まれていた。


「こ、これ…」

「今日は私たちが探偵とその助手になった日だ。その記念に」


 ワトスンはまた大きく落胆した後。クスッと少し笑った。


「私も同じことを考えていました」


 そう言うとワトスンはコートのポケットから箱を取り出し、開ける。中に入っていたのはネックレス先に小さな宝石が掛かっていた。


「今日は大事な記念日ですから」

「ああ」


  ワトスンは探偵の首にネックレスをかける。探偵はワトスンの左手薬指に指輪をつけた。ワトソンが赤面していたことには探偵は気づいていなかった。


 探偵たちが路地裏に入っていくそこには赤い血痕が落ちており、それが建物の中に続いていた。探偵とワトソンは顔を見合わせて、うなずきあう。探偵が建物の扉をノックする。反応はない。探偵が扉を開けると血痕が更に奥、長く続いていた。


「外で刺されたにしては血痕が少なすぎるどういう状況だ?」

「…とりあえず追いましょう」


 探偵たちは奥へ奥へと進んでいく。


「ワトスン?」


 探偵の後ろには彼女はいなかった。少し遠くから銃声。

 探偵は腰のホルスターからピストルを取り出し、周囲を警戒する。探偵は右手で銃を構え左手で首にかけたネックレスとつかみながら歯ぎしりする。外から聞こえる救急車のサイレンの音だけが耳に届く。しかしその状態は長くは続かなかった。

 探偵は後ろを素早く振り向き発砲する。照準の先には黒い衣を纏い顔を隠す人物。それが持つのは銀色に輝く刃。


 1発目、銃弾はその人物にかすりもしない。ものすごい動きで近づいてくる。


 2発目、黒き者の左手に着弾。探偵との距離が数センチになり、探偵の体に刃が深々と刺さる


 3発目、それは黒の胸に吸い込まれるように当たった。黒は数歩歩いたうちに動かなくなる。


 探偵は胸から煙草を一本取りだすとライターで火をつけて咥えた。探偵はその後、役目を終えたかのように倒れた。月の光が彼の体を白く染める。まるで、彼を称賛しているかのように。


 探偵石滝薫はこの日、死んだ。

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