エピソード4
~エピソード4~
「いいか、もう事件に首を突っ込むんじゃないぞ!」
真島刑事から美咲が襲われた事件について、余計な詮索をしないよう釘を刺された。だけど俺は、田中蒼真の自宅から発見した"キタキツネ園の写真"が気になって仕方がなかった。そして、そこに写っている人物が誰なのか、この薄暗い部屋では良く確認する事が出来ず、真島刑事と別れた後にじっくりと見る事にした。
俺は車に戻るとすぐに田中の自宅から離れ、最寄りのコンビニへと入った。そして入手した写真を凝視する。若い頃の田中と冴木園長、ボランティア活動で来ていたと思われる若い女性が数人写っている。皆、楽しそうに笑顔で、どこにでもある普通の集合写真だ。しかし、田中が何故この写真だけを持ち帰ったのか…。その真相は一番端に写っていた女性が全てを物語っていた。
蓮 「この女子高生は…麻依だ!」
キタキツネ園にボランティア活動として参加していた群馬の高校生の中に、彼女である麻依がいたのだ!しかし、麻依は田中の事を以前から知っているとは言っていなかった。だが、田中は麻依と面識があったという事になる。いったい二人の関係に何があったと言うのか本人から聞き出さなくてはならなくなった。俺は急いで車を走らせ自宅へと戻った。
蓮 「ただいま!麻依!あれ?麻依っ?」
麻依の母 「あら、お帰り蓮くん!麻依ならさっき友達に会いに行くと出ていったわよ。」
蓮 「えっ?ちなみに誰と会うとか言ってました?」
麻依の母 「さぁ…、誰かは聞いてないけど。近くの神社で会うからすぐに戻るって。どうかしたの?」
蓮 「いえ、ちょっと俺も行って見てきます。」
時刻は夕方を過ぎ、辺りは薄暗くなってきた。俺は妙な胸騒ぎを感じ、友達と会っているという神社へと走った。10分ほどで到着し俺は麻依の姿を探し始めた。すると、本殿の橫に倒れている人影を発見したのだ。
蓮 「麻依っ!?」
走り寄り抱き起こすと、麻依は意識を失い、そして、頭から出血している事に気付いた。俺は慌てて携帯を取り出し救急車を呼んだ。
蓮 「麻依っ!麻依っ!今、助けるからな!死ぬなよっ!」
まもなく救急隊が到着し、麻依は病院へと運ばれていった…。
俺は病院の廊下で麻依の回復を祈っていた。しばらくするとお母さんも駆け付け、まさかの出来事に取り乱しながら俺に問い詰めてきた。俺はお母さんを落ち着かせながら見たままを話した。
蓮 「大丈夫です…。必ず助かりますから!」
本当は泣きたくなるほど麻依の事が心配で仕方がなかったが、これ以上、お母さんを不安にさせまいと必死に感情を抑え続けいた。その時、うつむく俺の視界に男の足が見えた。
真島 「小鳥遊さん…でしたか?」
俺の前に立っていたのは真島刑事であった。当然、麻依の件について第一発見者である俺に話を聞きに来たのだ。幸いな事に、俺は先程までこの真島刑事と一緒にいた。よって、俺のアリバイは紛れもなく成立している訳だ。
真島 「よりによって、またあなたが関係しているとは…いったい何が起きているんだ?」
蓮 「すみません。あの…、麻依の怪我は…やはり何者かに襲われたのでしょうか?」
真島 「あぁ。やはり鈍器のような物で殴られた可能性が高いな。一ノ瀬美咲の時と同じだ!確かお前は死んだ田中蒼真の事を調べていると言ったな?それ以外に何か隠している事があるんじゃないか?」
蓮 「…ここではちょっと…」
俺は病院の屋上へと真島刑事を呼んだ。そして、これまでの経緯を全て話した。
真島 「すると…一ノ瀬美咲は田中蒼真が生きていると…。そして、田中に疑いを持ち調べ始めたら一ノ瀬美咲に続きお前の彼女の鈴木麻依までもが襲われたって言うんだな!」
蓮 「はい。」
真島 「ちょっ、ちょっと待て。話しを最初に戻すと、そもそも田中は以前、鈴木麻依をストーカーしていた。そして、逃げるお前たちを追いかけている際に事故を起こし死んだ。しかし、しばらくして鈴木麻依の実家が放火され、その防犯カメラに死んだはずの田中らしき人物が写っていた事に気付いた一ノ瀬美咲が今度は襲われた。その一ノ瀬に代わりに今度はお前が田中の事を調べ始めたら…鈴木麻依が何者かに襲われた。…確かに不自然だな。これには何か裏があるな!」
蓮 「正直、俺もいったい何が起きているのか分からない事だらけなんです。ただ、この隠された闇を晴らすのは俺の役目だと思っています。この因縁を絶ち切らなくては前に進めないんです!」
真島 「さっきも言ったが、素人が首を突っ込むと痛い目に合う…って言った所で、もう今のお前は俺の言う事なんて聞かないだろうな。だが無理はするな!俺も一旦署に戻って田中蒼真について調べてやる。必ず何か分かったらすぐ俺に知らせるんだぞ!いいな!」
俺は真島刑事と連絡先を交換し、麻依の病室へと戻った。
酸素マスクと点滴に繋がれた彼女の姿に、俺は怒りを覚えると共に絶対に犯人を捕まえてやりたいという気持ちでいっぱいだった。俺は意識のない麻依の手を握り続けいた…。
蓮 (麻依と田中の関係とはいったい何なんだ…)
俺はもう一度、美咲から預かった手帳を読み返していた。キタキツネ園での生活、会社での様子、交友関係などが記されている。そして、会社で行われた飲み会の写真…。そして、田中の部屋にあったクリスマス会の集合写真に写る麻依との関係の謎…。麻依から話が聞けない以上、まずは新たにキタキツネ園から無くなったこのクリスマス会の写真を持って、もう一度、冴木園長に当時の事を聞いてみるしかないようだ。
翌日、俺は飛行機に乗り再度キタキツネ園を目指した。
蓮 「こんにちわ。お忙しい所すみません。度々お邪魔いたします。」
冴木 「あら、小鳥遊さん!またどうしたの?」
蓮 「例のアルバムから無くなった写真…これではないですか?」
冴木 「これよ!どこで見付けてきたの?」
蓮 「田中蒼真の自宅です。そして、この写真だけがカレンダーの裏に隠されていました。冴木園長…この写真に何か思い当たる事はないですか?どんな小さな事でもいいです!」
冴木 「そうね…、あの日の事はまだ覚えているけど、これと言って特別な事はなかったと思うわ。」
蓮 「では、冴木園長は何故田中がこの写真だけを持ち帰ったと思いますか?」
冴木 「何故かしら…。」
蓮 「この写真の端に写っている女性ですが、鈴木麻依と言います。鈴木さんは、先日何者かによって頭を殴られ今も病院で意識不明の重態です。田中は鈴木麻依さんに好意を持ち、ストーカー行為をしていたと思われます。それは、田中の自室に大量の麻依さんの写真があったという事と、田中が亡くなる直前に俺と一緒にいる麻依さんを殺そうと追い掛けて車の事故に合っている事から推察されます。しかし、すでに田中は亡くなっているにも関わらずまた誰かに狙われた。俺にはこの写真が今回の事件を紐解く鍵だと思えるのです。」
冴木 「ごめんなさい…せっかくこんな遠い所まで来て頂いたのに、私には何も力になれそうにないわ。」
蓮 「そうですか…」
俺は写真を冴木園長に見せる事により、何かを思い出すのではないかと直感したが、その当ては外れてしまったようだ。立ち止まってもいられなく、仕切り直すため俺は地元へ戻ろうとした。するとその時、冴木園長から呼び止められた。
冴木 「ねぇ小鳥遊さん。当時の高校の顧問に話を聞いてみたらどう?私よりも顧問の先生なら何か知っているかもしれないわ。たしか、群馬県立○○高校の相沢先生という女性の方だったわ。」
蓮 「そうですか!ありがとうございます。」
冴木園長から有力な情報は得られなかったが、当時のボランティア活動を指導していた教師である"相沢先生"の存在を聞き訪ねてみる事にした。
キタキツネ園からの帰り道、もう少しで地元に到着するという所で、俺の携帯が鳴った。
蓮 「もしもし、小鳥遊ですが。」
真島 「真島です。ちょっと話したい事があるんだが、会えるか?」
蓮 「大丈夫ですよ。ちょうどこちらも北海道から帰ってきた所です。」
真島 「北海道…!?」
蓮 「ええ。田中蒼真の育った施設に行ってきました。」
真島 「何か情報は得られたのか?」
蓮 「いえ、有力な情報は何も…」
真島 「まあいい。こっちも田中の事で気になる事が分かった。これから先は会ってから話そう。」
俺は駅前の喫茶店で真島刑事と合流する事になった。
『カランコロン♪』
店のドアが開くと、すでに真島刑事は窓際のテーブル席に付いていた。
蓮 「すみません、お待たせしました。」
真島 「いや、大丈夫だ。早速で悪いんだが、本題に入らせてもらうぞ。」
蓮 「はい!」
真島 「俺もあの後、署に戻って田中蒼真の一件を調べてみたんだが、少し妙な事が起きているんだ。あの田中蒼真が事故を起こし亡くなった日だ。通報を受けて最初に駆け付けた警官である"戸井田巡査"って奴が、事故処理後にやたら金回りが良くなったと同僚に漏らして退職しているんだ。そしてその戸井田に連絡をしているんだが一向に捕まらない。残っている報告書も曖昧な点があるから、俺は戸井田を探してみようと思う。そこで、お前には一つ頼みがあるんだ。この腕時計をある所に持っていってほしい。」
蓮 「ある所…?」
真島 「田中蒼真を調べているうちに分かったんだが、お前の会社では以前から関係者が自殺していたり、行方不明になっているそうじゃないか?」
蓮 「みたいですね。俺がこの会社に転勤で来る前の事だと麻依から聞いています。」
真島 「その時に行方不明になっているのが"小嶋誠"だ。そこで俺はある仮説を立てた。もし、事故で死んだのが田中ではなく小嶋だったとしたら…。」
蓮 「えっ!いや…でも、俺もその場にいましたが、確かに運転席には田中が乗っていました。」
真島 「そうか…。そこに俺たちの知らない何か隠され事があるのかもな。何にせよだ、俺は戸井田って奴から話を聞かなきゃならない。お前はその時計を持って小嶋の両親に会って小嶋誠の物か確かめてくれ。」
真島刑事の仮説の元、俺は以前に麻依と同僚であった小嶋誠の実家へと向かった。渡された腕時計と住所を手に閑静な住宅街へと入っていく。どこにでもある二階建ての一軒家には"小嶋"の表札が掛けてあった。俺は車から降りインターホンを鳴らした。すると中から小嶋誠の母親らしき女性が出てきた。突然の訪問に母親は困惑した表情であったが、事情を説明すると消息を絶った息子の為ならと素直に協力をしてくれ、俺は持ってきた腕時計を母親に確認してもらった。しかし、母親は見覚えがなく確信が持てないと言う。ここでの進展は得られなかったが、引き続き行方を追っている旨を伝え小嶋の家を後にした。
『トゥルルン トゥルルン♪』
俺の携帯に着信が入った。相手は真島刑事からだ。
真島 「俺だ!今、戸井田のアパートにいるんだが…ちょっと面倒な事になった!」
蓮 「どうしたのですか!?」
真島 「戸井田が…殺されている!」
蓮 「えっ!!」
まさかの凶報とも言える末路に、濃霧の中に放り困れたような先の見えない不安に襲われた。
また振り出しに戻った俺は、まだやり残していた事を思い出した。麻依の高校に行き、顧問であった相沢先生に会う事だ。少しでも可能性があれば調べてみる価値は十分にある。そう信じて俺は高校へと向かった。
高校に着くと、事務室で相沢先生を尋ねた。すると、幸いにも相沢先生は現在もここで教壇に立っていると知らされた。呼び出してもらい、しばらくすると相沢先生が現れた。
相沢 「お待たせしました。どういったご用件でしょうか?」
蓮 「お忙しい所すみません。小鳥遊と言います。数年前のボランティア活動について話を聞きたいのですが、少しお時間を頂けないでしょうか?」
俺は麻依に起こった事や、キタキツネ園での事を話した。相沢先生も最初は信じがたい表情であったが、当時の写真や冴木園長の紹介であったお陰で納得してくれたようだ。ちょうど今日最後の授業が終わり、部活動が始まるまでの少しの時間という条件付きで話を聞いてもらう事が出来た。
蓮 「突然にすみません。ですが、一刻を争う状況ですので無理を承知で伺いました。相沢先生の教え子である鈴木麻依さんが何者かに襲われ、現在も意識不明の状態です。そこで、色々と調べていくうちに、どうやらキタキツネ園での出来事が今回の事件に影響しているのではないかと思われます。そこで先生に伺いたいのは、キタキツネ園で何か問題などはなかったかという事です?」
相沢 「…もう何年も前の事だし、トラブルや特別な事は無かったと思いますが。」
蓮 「では、先生は"田中蒼真"という男性を覚えていらっしゃいますか?」
相沢 「はい、何となくですが覚えています。たしか、面倒見の良い明るい子だったような…。」
蓮 「その田中蒼真について、他に覚えている事は?どんな小さな事でもいいんです。」
相沢 「…ごめんなさい、これと言って思い出せないわ。」
蓮 「そうですか…。分かりました。では、何か思い出したらご連絡下さい。」
残念ながら、今、俺が調べられる事全てが手詰まりとなってしまった。俺は半ば諦めかけていた。やはり、素人の俺が麻依や美咲の仇を打とうなどとうい考えは無謀だったのかもしれない。自分の弱さに反吐がでそうなくらいだ。そんな愚痴をこぼしながら麻依のいる病院へと歩いていると携帯が鳴った。相手は行方不明となっている"小嶋誠"の自宅からだった。電話に出ると若い女性の声である。
『もしもし、小嶋誠の妹です!お母さんから聞いたのですが、先程の腕時計の写メを見ました。はっきりとは言えませんが、独特なデザインがお兄ちゃんの時計によく似ています。お母さんは知らなかったみたいですけど、私、お兄ちゃんが似ている時計を着けている所を何度か見ました。社会人になって初めてのボーナスで自分へのご褒美だとかで買ったと言っていました。お母さんに言うと無駄遣いとか言われそうだからとなるべく見せないようにしていたみたい。もし、お兄ちゃんの物なら、時計の裏に刻印があると思います。』
まさかの朗報に俺は急いで時計の裏側を確認した。しかし、焼けた時の焦げなのか、黒ずんでしまい刻印がはっきりと見えない状態であった。俺はすかさず携帯を取り真島刑事に連絡を入れた。
蓮 「もしもし小鳥遊です!すみませんが、真島さんのお力で"鑑識"をお願いできないですか?」
真島 「鑑識…!?どうしたんだ?」
蓮 「小嶋誠の妹によると、腕時計の持ち主が小嶋だとすると、裏側に刻印があるそうです。しかし、焼けた黒ずみで肉眼では確認できません。そこで、警察の鑑識なら判別できるはず!」
真島 「分かった。では、署で待ち合わせよう。」
俺は急いで真島刑事のいる警察署へと向かった。30分ほど待つと真島刑事が現れた。すぐに鑑識へと回してくれる段取りを付けてくれた。その間、俺は麻依のいる病院に戻り鑑識結果を待っていた。そして夕方、真島刑事から連絡があった。時計裏の刻印には【M.K】のイニシャルが浮かび上がったそうだ。
蓮 「まこと…こじま…M.K…」
俺と麻依を車で追い掛け、事故で死んだと思われていたはずの田中蒼真の遺体からは、何故か行方不明の小嶋誠の腕時計を着けていたという事だ!この結果から想定できる事は、田中が何かしらの理由で小嶋誠の腕時計を着けていたか、若しくは、事故で死んだのは"小嶋誠であった"の2通りしかない。さらに付け加えるなら、一ノ瀬美咲が疑っていたように、あの放火時の防犯カメラに映っていた犯人が田中蒼真に似ているという点を交えると、実は、田中蒼真は生きている可能性まで考えられる。しかし、俺は車の中にいた田中蒼真を見ている。真島刑事が言う仮説のように、この事故の裏には俺達の知らない何かが隠されているのではないかと感じ始めた…。
~エピソード4~
終わり