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キーン
ザアアヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽ
風が吹いていないのに森がゆれ、梢が激しく擦れあっていた。
「森が鳴いておる」
白髪頭の男が森を見上げながら言った。
とんがった帽子、一本下駄、大きな鼻、丸々と太ったリュックを背負い、そのリュックには水筒やコップがぶら下げられ、キャンプ用マットが大きく飛びだしていた。大きなギョロリとした双眸に大量に蓄えられた口髭、小脇に分厚くて大きい本を抱えている。
「歓迎はされておらんようだな、まあ仕方がなかろう」
男はゆっくりと森を味わうように眺めながら歩いている。
木を見ては立ち止まり、草を見るや観察し、石があればのぞき込むように見ていた。
「見れば見るほど面白いのう。おや、このキノコはなんじゃろうな、失敬」
男は樹の根元に生えていた紫色のキノコをもいで、匂いを嗅ぎじっくりと眺めていた。
ひとしきり、見たあとに抱えていた本をパラパラと開き、開いたページにキノコを押し当てた。キノコはベチャリと潰れなかった。
ドぷんッ
紙のページは波打ち、まるで湖に石が投げ込まれたかのようだった。
何も無かったページにキノコの絵が浮かび上がり、周りに文字がポコポコと浮かび上がってきた。
「何々? 毒あり、目眩、頭痛、嘔吐。ほうほう、これくらいならあとで食べても良かろう」
男は本を閉じて再び歩きだした。
森の食べられそうな物を食べる趣味があるらしい。
「いやあ、しかし、ここはなんとも興味深い。ワシには刺激が強すぎるかもしれんな」
ザアアヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽ
「おや、おや」
男は立ち止まり耳をすませる。
森が再び唸りだした。
あなたはだあれ
何しに来たの
いったいなにお、あなたはだあれ
ここは精霊たちの森
招かねざる者お断り
あなたはだあれ
「わしはとんがり帽子じいさんじゃああ! この森の主に用があってきたあ! どうか会わせてはくれんかのう」