【回想】嫌われ者と、新発見(?)【なろう版番外編】
突然ですが、番外編です。
よろしくお願いします m(_ _)m
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まだ誰も、スマホなんて知らなかった頃の話だ。
初めてバットを振った日。幼い俺は、新たな知見を得た。
蝶はバットで殴られると、落ちる――――
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その頃の俺は、坂の下の町にはいなかった。大きな川の向こう、別の街に住んでいた。
生駒の山々が、東にはっきり見える街だった。
その駅前に建つ、あるマンションの一室で、俺は野球を知った。
実感はなかった。画面の中の話だったから。
画面の中の男が、白い球を打ち返す。
『鉄人、打ったー!』
喧しい男の声が響き、春の甲子園がワーッ! と沸く。
高校野球ではない。○神タ○ガースである。
「格好ええなぁ、俺もああなりたい」
心からそう思っていた。何でかは分からない。
ともかく、野球がしたかった。
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関係ないけど、その年。阪○は「優勝したけど、日本一を逃した」らしい。
一部でしつこく、ネタにされるような負け方で。
やめろとは言わん。
けど不愉快や。ほどほどにしぃや?
◆
その年の秋。
「おめでと~」
「はいこれ、プレゼントな」
珍しく揃った両親が、俺の誕生日を祝っていた。
「ありがと。開けてええ?」
「「どうぞ~」」
そうして俺は、小さな野球バットを手に入れた。プラスチックの、半分おもちゃみたいなやつだ。
「よっしゃア~!」
「「待て待て待て」」
早速振り回そうとしたら、止められた。危ないもんな、家の中じゃ。
じゃあ外で……といっても、昼はまだまだ暑苦しい時期だった。結局、夕方まで待って、近所の公園に行った。
◆
“鉄人”の真似をして、軽いバットを構える。そんな俺の視界に、蝶が1匹入ってきた。
白い翅の先端に、黒っぽい模様がある。モンシロチョウだ。なぜかこっちに、フラフラ飛んでくる。
「ま、どうせ当たらんやろ」
そんなことより、早く振ってみたかった。俺はバットを、大きくぐるんと振り抜く。
その途中、蝶が吸い込まれるように、バットの芯を食った。
そのままポトリと落ちた蝶は、動いていなかった。
「わ……え? ちょっ、大丈夫 !? 」
俺は蝶に駆け寄って、しゃがみこんだ。ごめんなさい! とか、このまま動かなかったら、この子どうしよう……とか思いながら。
そのまま見つめること、30秒弱。蝶の脚が1本、ピクッと動いた。
一度動きだしたら、あとはすぐだった。10秒も経たぬうちに、蝶はまた飛び立った。
「良かった……あ゛~゛怖゛か゛っ゛た゛」
蝶はしばらく、俺の肩に止まったり、その周りを飛び回ったりしていた。
何やろ。服の匂い、気になるんやろか……?
やがてそれにも飽きたのか、蝶はまた、フラフラどこかへ飛んでいった。
「元気でな~!」
見送ってから、ふと後ろを振り返った。あのバットが、足元に転がっている。
いつの間にか放り出していた。あんなに欲しかったのにな……
その日はもう、バット振る気にはならなかった。
家帰って、虫の図鑑広げながら、またテレビの野球を見た。
◆
大事なことだから、もう1回言う。
初めてバットを振った日。俺は新たな知見を得た。
蝶 は バ ッ ト で 殴 ら れ る と 、 落 ち る 。
いい子も悪い子も、ちゃんと避けてやれよ!
俺みたいになるな。
兄ちゃんとの約束だ――――
お読みいただき、ありがとうございます m(_ _)m
大事なくてよかったです。
???「(夏の高校野球は)暑そう、としか思わんかった」
【追記】一部修正しました
(2025/05/25)