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【後編】嫌われ者と、体育の時間



(あっつ)う……」


 雲一つない青空から、初夏の日差しが降り注ぐ。

 で、ここは市立中学校の運動場(グラウンド)。端のほうには木があるけど、あとは日陰がない。

 マジで暑い……


 そんな所で、体育の授業。

 今日はサッカー。退屈な集団行動と体力テストが終わって、周りは生き生きしている。

 けど、()な時間だ……。



 ◆


 とか言っといて悪いけど、別に俺、運動が苦手なわけじゃない。

 腹減った、それだけ。早く昼飯が食いたい……



 むしろ、成績悪くてバカにされる俺が、唯一()められるのが体育だ。


 学年で一番高いんちゃう? てぐらい、上背(うわぜい)はある。()せすぎてても(つぶ)しが()く。

 50mは8秒あったら走れるし、ボールも狙った所に投げられる。この調子で頑張れば、“タ○ガースの4番”も夢じゃない。


 問題は体力がない、ってところか。



 ……大問題だな?



 ◆


 まあ仕方ない。小学校(きょねん)までの貧乏暮らしの弊害だ。


 なにせ、(うち)はボロアパートの一室に、母と俺だけ。親父はいない。

 油断すると、今日食べる物がなかった。そんな日は腹が減って、ろくに寝れやしない。学校給食は、マジで救食……みたいな生活だった。

 当然、家にはボールも携帯電話(スマホ)もゲーム機も、何にもなかった。


「インターネット? 何それ美味いん ?? 」

「習い事? みんなどこで何しとんの ??? 」


……なんて、マジで言ってた。



 で、ここは坂の下の、何かと(せま)い街なかだ。

 近場の公園は、どこへ行っても


「ボール遊び禁止 !! 」


って看板が立っている。

 ()き地なんかないし、当然、道路で遊ぶわけにもいかないし。


 あと、()川敷(せんしき)校区外(こうくがい)だった。子供(おれら)だけで行っちゃダメ。



 つまりスポーツなんて、学校の外じゃ金持ちの道楽……って感じだ。


 ……いや、さすがに言いすぎか。

 ジョギングとか犬の散歩とかしてる人はいる。でも俺ん()で犬は飼えない。



 1回だけ、近所をジョギングしてみたことがある。

 たまたま散歩中の、よそ様のゴールデンなんとかって犬と出会って、即、逃げられた。


 犬ってマジで


「キャイン」


って鳴くんだな……なんかごめん。



 ……そんな感じで、学校の外じゃ“気持ちいい汗をかく”なんてできなかった。

 図書館でスポーツ関係の本を読む以外、どうにもしようがなかった。



 こんなので、どうやって「体力つけろ」って……?



 ◇


 話を戻そう。

 中学校の体育は男女別だから、うちの学校は隣の(クラス)と合同でやる。

 他所(よそ)がどうとかは知らん、どうでもいい。


 で、その隣の組に、I(アイ)って男がいる。勉強も運動もできて、見た目もいい。

 キリッとした王子様……って雰囲気だけど、でも声は高めで、なんか愛嬌(あいきょう)がある。


 ……だからか、学年一の人気者らしい。よその組だし、小学校も違うから、よく分かんないけど。


 言われてみれば、廊下ですれ違うとき。アイツはいっつも人に囲まれてる気がする。それも女子多め。

 あんなにず~っと誰かとおって、疲れへんのかな……?


 大丈夫なら、それだけで充分すごい! ……と、俺は思う。


 そして個人的には、今一番(かか)わりたくない奴だ。そんな彼相手に、サッカーか。



 えぇ~……



 ◆


 体育の時間のサッカーには、俺流の攻略法がある。偏見まみれだけど、まずは聞いてほしい。


 体育のサッカーでは、上手(うま)(やつ)らは前に出て、ゴールを決めたがる。

 逆に下手(へた)だと、攻撃も守備も任せにくいから、無難な真ん中あたりに集められる。

 そしてそこに、()きが出る。



 ……そう、GK(ゴールキーパー)だ。



 地味だけど、ヘタな奴には任せられない。だから人気がない。それが体育のGKだ。

 で、ここが俺の(てい)位置(いち)だ。

 上手(うま)~くこなせれば、走らなくても怒られない。体当たりとかもされずに済む。



 めっちゃ楽……!



 あ、そうそう。プロのGKは、味方の守備に指示出すんだって。でも体育の授業で、そこまでやることは多分ない。

 まあそもそも、俺の指示なんか誰も聞かないと思うけど……



 ◆


 さて、お遊びはここからだ。


 さあ始まりました。味方がボール取って、パスつないで、相手のゴール前へ。

 早いな……っとパスカット、ここで I か。向こうのゴール前から一気に俺の前……いや早い早い !! もうシュート !?

 向かって左に飛ぶボールに…………クソッ、届かん……入った~ !!


「よっしゃ~!」

「ナイス I! さすが天才 !! 」

「今日も頼むで~、3点奪取(ハットトリック) !! 」

 ………

 ……

 …


 盛り上がる相手チーム……てマジか、そんな上手いん? 聞いてないで !?


「おい、何ボーッと見てんねん!」

「ホンマそれ。ちゃんと止めろや !! 」


 I の後ろから来た、味方に怒鳴られた。さっきのパス出したヤツと、そのパスを I に取られたヤツ。

 目線向けたら、2人とも一瞬ビクッとした。えぇ……偉っそ~に言うといて、それ?


「すまん、次から気ぃつける」

「「……おう」」


 ところで、プロの世界やと、失敗したGKは即交代、なんやて。

 厳しいな……。

 けどここは、どこにでもある市立中学校。それも体育の時間や。誰もやりたないのに、失敗したら交代とか、やる意味ない。


 なら、失敗したんがここでよかった。1回失敗したら、あとは気が楽やし。

 それに、I の観察もできた。奴はシュートの時、俺を見てなかった。女子のほう見とった。


 ……余裕か !!



 いや、余裕か。ノールックでゴール決めたもんな。

 で、即女子に手ぇ振った。ホンマに余裕やな !!

 あと、せっかちなんか、シュートが早い。なら、フェイントかまして誘導せんでもええな。奴が蹴るギリギリまで、ボール見て待っとこ。



 おっ、早速来たな?

 フェイントのつもりか、I の目線と違うほう……向かって右に、ボールが飛ぶ。


 ……捕れた、読み通り。


「アカンかったわ~」

「ドンマイドンマイ、まぐれやまぐれ!」

「そうそう、次は入るて!」

 ………

 ……

 …


 相手のチームメイトが I を励ます。さすが人気者。

 こっちは何もない。いつも通りで安心した。変に声かけられても、気色悪(きしょくわる)いだけやし。


 あとは、向こうより1点多く取って来てくれたら、文句はない。



 頑張れ、後ろは守るから。



 ◆


 ……とか思とった時期が、俺にもありました。いや、ついさっきやけど。

 I(こいつ)、ホンマに速いし上手いな…… !! あとは安かったら完璧……いや何がや?


 ネタは置いといて……ぬるっとボール取るし、足速いし、シュート外さへん。その上で、変な体勢で蹴ったり、ボールに回転かけたりしてくる。

 さっきなんか、バク転しながら変に曲がるやつ蹴ってきた。あれが……噂の無回転シュート?  I くん半端ないって !!

 ……さすがにそれはないか。


 おかげ様で、ボールを捕るどころか、止めるんで精一杯。

 腕と脚が痛い !!

 もう12回止めてんで? こんなん初めて……あっクソ、また来たッ!


 はいGKのコツ! 肘は伸ばせ !! 曲がっとったら、止めれるボールも止めれんぞ !!



 ……止めた~、あ゛~゛し゛ん゛ど゛……。



 んも~、何しとんじゃ味方(ワレ)ぇ……偉っそ~に


「ちゃんと止めろや !! 」


とか言うといて~ !!!



「これもアカンか~。フェイント甘いんかな?」

「ドンマイドンマイ、切り替えて行こ!」

「そうそう、次や次 !! 」


 ぼやく I を、また相手のチームメイトが励ます。

 もうやめて! 私の体力(ライフ)0(ゼロ)よ !! ……とか言える時点で、まだ大丈夫か。


 で、あっちは“フェイントやめる”とか、“2点目諦める”とかって発想はないんやな。

 イメージ崩れるから? 優秀な奴って大変なんやな~……



 知らんけど。



 ◆


 結果発表~ !!

 ……ってか、悲しいお知らせです。もう1点取られました。


 ……(ちゃ)うねん、人類に I は早すぎたんや……

 あ、でも味方が1点取り返してくれたで。ありがと~。


ピーッ!


 ……っとここで試合終了、先生の笛が鳴りました~。

 あ~やだやだ、ま~た怒られる~……


 味方チームがこっちに集まってくる。


「おいM、」


 1人が声かけてきた。


「アイツどうやって止めたん !?」

「……んえ?」


 予想外の質問されて、変な声出た……


「ホンマそれ、何やったん?」

「それ俺も気になるわー」

「「……ご本人 !? 」」


 横から I まで来た……


「もーやめて……俺のライフは 0 ……」

「「「『余裕やな !! 』」」」


 しもた、何でボケた……


「え~っと、ボールだけ見て……」


ピーッ!


 ……(しゃべ)り出した所で、また先生の笛が鳴った。


「よーし終わろかー、集合ー !! 」


 そして号令。()ぁええんか悪いんか、どっちやこれ……



 ◆


 体育の後は昼休み。やっぱり野郎どもの質問攻めに遭った。


「お前、よく十何回も I のシュート止めたな。何でそこまで……?」


 カッとなってやった、やり過ぎただけや

……って、正直に言う勇気はなかった。


「そこにボールが来たから」


 おお~、とか言われた。恥ずかし……



 それからというもの……なんか I 中心に、野郎から話しかけられるようになった。


「……え! 甘党なん !? その顔で ?? 」

「さてはお前、おもろい奴やな?」



 ……俺は何やと思われとんの ???



 これで〆(しめ)となります。

 お読みいただき、ありがとうございました~ m(_ _)m



【追記】

 スポーツは生中継でワイワイ観るのが、一番楽しいと思います(おい


・評価、感想等ありがとうございます m(_ _)m

・一部加筆/修正しました(2025/06/21)



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― 新着の感想 ―
[一言] QBKではなくSBKなんですね。 KさんはMくんのこと、すこし好きだったりするのかな……なんてちょっと思っちゃいました(*´ω`*) Iくんはさすがイケメンですね。 なんだか楽しそうな中学校…
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