天空ホテル
腹も一杯になったし、後は住むところを探さなくてはならない。とりあえず今日は宿を探して泊まることにしよう。高級ホテルは1級,2級が利用している確率が高いので安宿を見つけなくてはならない。
「安価なホテルを表示してくれ」
近くに3つほどあるが一つ凄い安いホテルがあるな。一泊1000Gか。
「天空ホテル?」
宇宙軍港から乗って来た円形の乗り物をまた利用して町外れのホテルに向かう。ホテルが近づくと宙に浮かんでいる長方形ブロックの連続が色んな色の光を放って、ブロック崩しのように縦横に並んでいる。枠だけが色つきの透明なブロックの中には人が居て家具らしきものも置いてある。あのブロックがホテルの一室になっているのだろう。天空ホテルは雲の上までブロックが続いている。
ホテルの近くに行くと奥行きが確認できる。部屋は並んでいるわけではなかった。奥の方に引っ込んでいる部屋と前に出てる部屋が交互に配置されている。部屋と部屋はどの面も接してはいない。
ホテルの客は遊園地のアトラクションに並ぶように何人か列を作っている。一番前の人は円形の板に乗って真上に移動して行く。乗っている人はすぐに小さくなって見えなくなった。
俺の番になり円形板に乗ると、地面が直ぐに遠のいて行く。
「うわっ。急に」
下を向いているのがいけなかった。急激な高所になり目眩がする。腰が抜けたようにへたり込んだ。
「高所による緊張状態を感知しました。下面を覆います」
床が色つきになる。広告が表示されている。
更に高所に移動して耳鳴りがしてくる。ひんやりとして周りが少し霧がかって来た。枠付きの透明な部屋の前で乗り物が止まった。中のクローゼットや椅子が見えている。高所に緊張しているのを察してか、直ぐに部屋の面が色つきに変わった。自動扉が開くと板から降りて狭い玄関口に靴を脱ぎ少し高くなった部屋に入る。壁にいらっしゃいませの表示が出る。目の前に料金表が出て来る。このホテルは連泊する方が料金は安くなるようだ。とりあえず3日にしてみようか。2300Gを押す。
ありがとうございました。ごゆっくりおくつろぎくださいという表示が出て消えた。
「ああー疲れたな今日は」ランドセルをその辺の床に置き、俺はベッドに仰向けになる。
ふと横の壁を触ってみる。見た目も質感も白い壁紙だ。さっきは透明だったのに。床を触ると木の質感のフローリングだ。
「床を畳にしてくれ」
畳になった。手触りも畳だ。
そして思わず「床を透明にしてくれ」
一瞬で下が高所からの景色に変わると、目がくらんだ。股間がヒュッとする。
建物が粒のようになり空は赤い。もう夕日が落ちてきている。展望台でスリルを味わうためにこういう透明の床にしている場所はあったがこれは怖すぎるな。
「畳に戻してくれ」
ホテルと言えばテレビとかついてるのだろうか?
俺は番組表と言うと、ホログラムが出て来る。
おお、これが未来のTV番組か?
等級によって見れる番組が違うようだな。
1,2級がプログラム120。3級が50。4級は10しかない。
しかも番組というより、なんだこれ?
「1,2級が現れた時の4級の挨拶の仕方」
教育テレビのようだな。見てみるか。番組を指で押す。
目の前の壁に高精細の画面が映し出される。
1,2級民が数人現れる。4級の男が上級民に礼をする。バツ印がでる。上級民にボコられる。
1,2級民が数人現れる。4級の上級民に拝をする。丸印がでる。『今日は勘弁してやる』という吹き出しが出る。
礼ではなく拝。90度でお辞儀しないと、それだけでボコられるらしい。
夕飯を食べに外に行こうかと思ったが、もう暗くて1、2級民が視認出来ないかもしれない。ボコられたら明日の初仕事に影響が出るのでホテルで食事を取る事にする。
安ホテルといえば料金高めに設定された冷凍食品をチンするだけのやつだが、ここは未来だ。チンするだけの訳がないだろう。レンチンの知識なんてあるのに何で自分の記憶だけそっくり抜け落ちているのだろうか?
腹が鳴る。
「腹減った。メニューくれ」
ホログラムが表示。おー結構料理の種類があるじゃあないか。
ラーメンがあるぞ。インスタントじゃないよなもちろん。700Gか。まあしょうがない。
「豚骨ラーメンが食いたい」
5分したら、壁をすり抜けて岡持ちが入ってくる。
「なぜ岡持ちが?」仕切り板を上げると湯気が出てくる。
箸を取って熱々の豚骨ラーメンをずるずるとすする。
「美味い」
借り家なんか探さなくていいかも。この天空ホテルにずっと住もうかな。
あっ催してきた。ここ部屋一つしかないけどトイレは共同なのか?
「トイレに行きたい」
部屋の壁の一部が扉になる。前に立つと自動扉が開く。個室におしゃれな洋便器がある。
座って大をすると何かが俺の尻穴を洗いながら尻を拭く。いい香りしかしない。いいぞ未来の便所。俺が出ると扉が消える。
後は風呂だな。「風呂入りたい」
ホログラムが表示され、大浴場か部屋風呂を選べるようになっている。
普通の風呂でいいや。ランドセル持ってくのが面倒だ。
「部屋風呂」
部屋に扉が現れる。トイレの時と扉が同じ位置だ。機械式駐車場みたいなものか。
前に立つと扉が開き、脱衣所のスペースとさらに奥の扉がある。服を脱ぎ奥の扉を開くと、湯が張ってある風呂と洗い場がある。丁度良い湯加減だ。俺の体の冷え具合を感知して丁度良い湯加減になっているに違いない。浸かって上がるとタオルで体拭いて下着を着る。そういえば明日は現場に何時だっけ。ホログラムで確認する。
8時の表示。
「仕事場まで移動は何分だ?」
「30分です」
「じゃあ7時に起こしてくれ」
「承知しました」
テンポが良くていいな未来は。それを使いこなしてる俺もなかなかいい感じだと思う。俺は洗面部屋を出して、歯をみがいて就寝する。
はっと目が覚めると丁度朝七時だった。
なんでいつもピッタリに目覚めるのだろう。脳波に何かしているんだろうか。
不思議に思いながらYシャツとチノパン履いてランドセルを背負いこむ。あまり朝食は食べたくない気分だが、肉体労働だしな。一応入れておくか。
「アンパンと牛乳」
出てきたら食べながら円形板で地上に降りる。
横移動の円形板に乗り換え現場に向かう。通勤時間で交通量も多いが信号機は無い。立体的な動きで歩行者を避けている。乗り物のスピードもほとんど変わらない。全ての交通がコントロールされているようだ。
指定された現場に到着し見渡すととても広いスペースだった。ここは元々セレブリの競技場があった所で、皇帝ジャイガインの銅像を建てる為に取り壊されたということだ。真ん中には巨大な足の銅像の型に足場が組まれている。今は足部分しかないがあの銅像を完成させるまでの仕事になるようだ。既にたくさんの人が1か所に集まっている。眼鏡を掛けて見ると皆4級民だった。
柔軟したり飛び跳ねたりして各々体を動かしている。怪我しない様に俺もしておいた方がいいんだろうか?横目で真似しながら軽く体を動かす。
少しして現場監督らしき人がやって来た。どうやら2級帝国民のようだ。
後ろに手を組み、来ている4級の全員を眺めている。俺と目が合うとニヤリと笑った。だぶん首輪とランドセルのせいだろう。
そして男は話し出した。
「お前等はもう仕事内容はわかっていると思うが、新入りがいるようなので再度説明しておく。そこの土嚢を制作中の銅像まで運ぶだけの仕事だ。昼休憩は12時から13時までの一時間。1分でも遅れて戻って来たら日給は無しだ。17時の就業時刻までにここに居なくても日給は無し。わかってるな?」
数人が頷いている。
「それじゃあな。頑張れよ4級民ども」
男は行ってしまった。
仕事途中で帰る奴なんかいるのか?何か変だなと思っていると、ブオーとほら貝が鳴った。
「なんで始業がほら貝なんだよ。意味がわからん」
近くに居る4級作業員が積まれている土嚢を担ぎ始める。俺も見よう見まねで土嚢を肩に担ぐ。少し歩いたところで現場におかしな連中が入ってきた。鉄仮面をつけ、上半身裸で筋骨隆々プロレスラーみたいな体型をした男二人が煌びやかな装飾がついた荷車に乗っている。ボロボロの服を着た数人がロープで荷車を引っ張っている。
「もっと強く引かんか奴隷共」
鞭を打っている。ボロボロ服の人達はひいひい言いながら歩いて行く。
雑な列を作り土嚢を運びながら4級民の作業員はその様子を注意深く見ている。
奴隷のボロの服から何か棒のような物がちらりと見えると4級民の一人が大きな声で叫んだ。
「奴隷じゃない。あれは2級民のパフォーマーだ。みんな逃げろ」