肉丸君食べ放題
俺は4級民だから仕事を見つけて働かなくてはならない。占領される前は高度な機械化で人間の代わりに、AIや人型ロボットが働いていたから本当だったら俺は働くことはなかった。夢配信とやらで稼いだ金もあるので、本当は惑星セレブリでもハレームでも悠々自適だったはずなんだ。でも、ジャイガン帝国の所為で、そんな余裕は無くなった。
「ジャイガン帝国下でセレブリのシステムはどうなってるんだ?」
「セレブリ首都以外の地域で高度な人型ロボット、高度なシステムは停止させられています。きつい肉体労働は奴隷民にやらせ、それ以外は3、4級民がロボットの代わりをしています。セレブリのインフラだけはそのまま残っており、ジャイガン帝国民は便利だと感じながら利用しているようです」
「しかしこんな洗練されてない野蛮人共に負けるなんて、セレブリは情けないな。俺はがっかりしたよ」
「セレブリは軍備縮小、平和主義の理想の元に発展していきました。理想が現実に負けてしまったのかもしれないですね」
「この事態を予想できなかった理想主義の愚か者共のせいだな。そいつらのせいで俺は今酷い目に合っているのだから」
俺は矢印ナビで、ジャイガン帝国の職業安定所らしき施設の中に入った。
んー。3級国民、4級国民だけだな。中は混んでないようだ。
歩いていると目の前にホログラム番号3番が出た。お待ちくださいの表示が出る。
俺は椅子に座ってボーっとしている。ここは古臭い建物で落ち着くな。ここだけ未来の感じがしない。
目の前に3番が光り音が鳴る。順番がきたようだ。矢印が窓口までホログラムで表示される。この矢印はホント分かりやすくていい。窓口の前の椅子に座る。
白髪まじりの職員は俺を見て「君は肉体労働大丈夫か?」
「はい」
「じゃあ、地図の場所に明日の8時まで行ってくれ。詳細は書いてあるから後で自分で確認しておいてくれ」
「はい」
次の言葉を待っていると「もう行っていいよ」と言われた。
随分簡単に仕事が決まったな。
歩きながらホログラム地図の点滅している所を指で押すと窓が開く。
仕事の詳細が書いてある。
銅像を作るのを手伝う仕事のようだ。日給で支払われるらしい。
履歴書は要らないんだろうか?まあ、記憶が無いから何を書いていいのかさっぱりわからないが。
よし、とりあえず仕事が決まったな。あとは俺のこの病院服を普通の服にして目立たないようにしなくてはならない。
繁華街に出る。
周りに1,2級民がいないか眼鏡で良く確かめる。
ポツポツと点在しているが避ければ大丈夫そうだ。
「近くの洋服店を出してくれ」
ホログラムの地図の中で点が光っている。そこを押すと目の前に矢印と距離カウンターが数字で出て来る。この矢印は俺にしか見えて無いんだよな?そうでなければ皆の矢印がそこら中に出て混乱してるはずだ。仕組みは分からないが各々の矢印を見て行動しているのだろう。
洋服屋のディスプレイを外から見て中の人達の様子を確かめた。
3級、4級国民だけだな。よし。ここは大丈夫そうだ。
俺は店の中に入るとこの店のお勧め服や広告が急にホログラムで目の前に大きく表示された。邪魔なので広告を手でどかそうとしたが、動かない。
良く見ると小さな×ボタンが左上に出ていた。
「未来もこういう面倒くさいのがあるんだな」
ボタンを押すと消えた。
とにかく地味な服がいいだろう。1、2級になるべく見つからない様に。
くすんだ感じの青色のYシャツとあまり濃い色じゃないカーキのチノパンを選んだ。
その時、丸男が言ってた新素材の事をふと思い出した。洗濯が要らないとか言ってたな。シン・プレミアムコットゥン。
「シン・プレミアムコットゥンの服」と呟いてみた。
店の棚の洋服のいくつかに青い点が表示される。そこに行くと、シン・プレミアムコットゥンの下着とTシャツが並んでいる。
一着で三万Gか。
下着なのにかなりお高い気がするな。
新素材ではないチノパンとYシャツはそれぞれ三千Gぐらいだった。
今まで考えない様にしていたが、俺の全財産はいくらなんだ?
セレブリではイカれた夢配信なるものがバズって俺は億万長者になったらしいが、今はジャイガン帝国がセレブリを占領している。おそらく資産は凍結か没収されてるのではないのだろうかと思う。
セレブリ首都は陥落してないから、首都内では資産が使えるんだろうか?もう全然わからない。
「俺の全財産」と叫んだ。
表示されたのは-200Gだった。
さっきのコーラだ。俺は一文無しなんだ。借金している状態だ。
シン・プレミアムコットゥンなんか無理だ。思い出したがさっきの仕事の日給は6千Gだった気がする。とりあえず、普通の服にしようと思った。
トランクスとTシャツ、チノパンとYシャツで8千Gか。まあそんなもんだな。試着してそのまま購入ボタンする。これで服はまともになったな。ランドセルと首輪がなければもっと良かった。
店を出ようとすると耳元で「お客様落とし物です」と声がする。
そうだ試着室に病院着を置いたままだ。カウントダウン10秒表示。何故にカウントダウンが始まった?病院着に向かってホログラム矢印がいくつもでる。早く俺に拾えと催促しているのか?
そしてカウントゼロ秒になった時、廃棄しますか?の表示がでる。
俺ははいを押すと天井からアームが出て、病院着を持って行った。
「なるほど」
店の外に出て時計表示すると、昼になっていた。
なんか美味い物でも食いに行くか。明日から働くから多分金は大丈夫だろう。
1,2級民が利用する店を避けなければならんが、中に入る前にどうやって見分ければいいんだろうか?
「タロウ?タロウはいるか?」
返事が無いようだ。居ない?AIがいないってどういうことだ?昼寝でもしてるのかな。
しかしニョリコは呼びたくない。
暫く考えて「そうだ丸男に聞いてみよう。せっかく連絡先を聞いたんだからな」
どうやって通話すればいいんだ?とりあえず何か言ってみるか。
「丸男と話したい。繋げてくれ」独り言を言う。
すると三秒ほどして「あっケイタン。早速連絡してきてくれたんですね」
スピーカーなんか無いのに俺の耳元で丸男が話しているみたいに聞こえる。すごい技術だな。まあいいや。
「丸男君。俺は昼飯を食おうとしているんだけど、1級,2級がいない店はどうやって探せばいいのかわかる?」
「そうですね。まず地下にある店は絶対に避けて下さい。地上にあるチェーン店ならほとんど大丈夫だと思います」
「俺は肉をがっつり食べたい気分なんだ。何かお薦めの店はある?」
「ケイタンのご予算は如何程なんですか?」
「俺は全然金を持ってない。でも肉はがっつり食べたいんだ」
「じゃあ肉丸君がいいと思います。安くてそこそこの肉ががっつり食べれます。僕は食べ放題は無理ですけど、ケイタンなら通常料金で、食べ放題出来ると思いますよ」
「なんで丸男君は食べ放題が無理なの?」
「店に入った時に、その人の食べる量がすぐわかるんです。大食漢は食べ放題出来ません。痩せの大食いも直ぐに店のセンサーで気づかれます」
「なるほど未来はそんな感じなんだ。じゃあそこに行ってみるよ、ありがとう丸男君」
「また何かあったら連絡くださいケイタン。僕はいつでも歓迎ですから」
「わかったよ。それじゃあ」
通話が切れた。丸男はクセのある奴だが頼りになるな。
では肉丸君とやらに行ってみようか。
現在地から一番近い肉丸君の店舗に入る。
急に目の前にホログラムが出る。
おめでとうございます。肉丸君食べ放題無料チケットに当選しました。
「なに?なにも申し込んでないのに当選したぞ。やった。無料で食べれるのか?チケットの有効期限は今日まで?すぐに使えってか?」
チケットを使いますか?の表示。はいを押す。
俺は席に座る。鉄板が目の前にあるぞ。焼くんだ。早く肉を焼くんだ。
ホログラムメニューを目の前に出して注文する。ハンバーグ、ステーキ、スライス肉等がある。
ボタンを押すと直ぐに料理皿の乗ったプレートが上から降下してくる。次々テーブルにプレートから生肉皿が置かれてプレートは上に戻って行く。
「ただのプレートがどうやって皿を置いてるんだ?」
仕組みとかはもう考えるのは止めよう。とにかく早く焼いて食いたいんだ。
俺は次々焼いてタレをつけて食べる。ああ、美味いな。豚肉のようだが、なんか違うような気もする。
店の中を見回すと、ほとんど人は居なかった。
なんで昼飯時にこんなに店の中は空いてるんだ?こんな美味いのに。未来人は菜食主義者が多いのか?それとも単に人気無いのかなこの店?
俺は腹いっぱい食べて満足したので席を立ち、店を出ようとすると、目の前に次回来店70%引きクーポンが表示された。
70%引き?随分太っ腹だな。またここに来て食う事にしよう。
外の通りに出た俺は「何でこんなに美味いのに全然繁盛してないんだろうか?」と呟くとランドセルから声がする。
「ケイタ様」
「なんだ、いたのかタロウ?心配したぞ」
「この記事を見て下さい。啓太様」
俺は出て来たホログラムを覗き込むと
「人気焼肉チェーン店、肉丸君に人肉の疑い」というタイトルの記事が。
「人肉?」
俺は慌てて記事を読み、それ関連のタローから送られてくる記事も併せて読む。内容を要約すると。
1ジャイガン帝国占領下の肉丸君の肉の味が急に美味しくなったと評判になる。
2人気ジャイチューバーのゼニイチさんが生肉を持ち帰り、知人に頼んで成分を調べてもらう。
3なんとそれは奴隷セレブリ人の肉である事が判明。自身の動画で発表すると再生回数が爆上がりになる。
4ゼニイチさんが行方不明になり数日後に近所の側溝でブロック肉になった状態で発見される。
5ジャイガン帝国食品衛生局は、肉丸君の肉は人工肉と品種改良して大量生産できるようにした豚のような何かが入っていると発表。
6肉丸君の株価大暴落。店が閑古鳥になり、店舗縮小。
俺は直ぐに丸男に連絡していた。
「はい。ケイタン。お肉はたっぷり食べられましたか?」
「知ってたのか丸男君?」
「はい?」
「人肉だって知ってたのか?」
「それは噂ですよケイタン。衛生局も豚だって言ってますし。再生回数増やす為に嘘言ってたんですよゼニイチは」
「しかし人肉食ってるかもしれないんだぞ俺は」
「大丈夫ですよケイタン。今はプリオン病とかはならないですから。安心してくださいね」
「いやしかし」
「それじゃあまた何かあったら連絡ください」
どうも俺は丸男の倫理観がぶっ壊れてるような気がしてくる。
でも美味かっただけに肉丸君は惜しいな。もう一回だけ食べに来てもいいかな。