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フェードイン

 2日後に目覚めた時、下着と厚めの病院着のような服を着せられていた。1015年前に着ていた服は劣化して処分されたという事だ。

「タロウよ。発着場までどうやって行ったらいいんだ?外は雪が積もってるんだろ?」

「500年プランの方々はヒートスーツを着て、スーツの内部機能で雪を溶かしながら発着場まで行きました。今はその必要はありません。小型宇宙船は、雪を吹き飛ばし、ケイタ様が居るこの装置の前に着陸します」

「凄いな。俺の眠っている間に宇宙技術はとんでもなく進歩したんだろうな。1世紀どころじゃない。ミレニアムだからな」

「宇宙船着陸まで15分ほどお待ちください」

 俺はぼーっと宇宙船の到着を待っていたが、また質問が浮かんで来た。

「1000年プランの人達の生存率はどうだった?15年前の事だろ?」

「彼らは500人いましたが、ほとんど亡くなっていました。生存した82人は脳に障害が認められました」

 その次を聞くのは怖かったが、

「それじゃあ俺の申し込んだ1500年プランは?」

「200人いた中で生存しているのはケイタ様ともう一人だけです」

「たったそれだけ?」

「そうです。もう一人の方は脳の構造が変わり夢の世界の住人になってしまいました。現実世界では廃人です」

「じゃあ俺が最後の一人なのか?」

「そうです」

 氷の棺桶と言われていたのは結局当たっていた。休眠が長いほどに生存率は低くなっていく。何百年も目覚める事無くそのまま死ぬなんて嫌な死に方だ。それなら隕石衝突時に惑星テラヘで皆と運命を共にした方が良かったのかもしれない。そもそも何で俺はこのプランに申し込んだのだろう。どうやって争奪戦の席を勝ち取った?記憶が無くても自分が優秀だとは思えない。


 その時、外で凄い音がして俺の入っている装置が大きく揺れた。

「宇宙船が到着したようですケイタ様。壁に掛かっている防寒着を着て外に出て宇宙船に乗船してください」

「久しぶりに立ち上がるんだが、大丈夫なんだろうか。リハビリとかしなくても俺は歩けるのか?」

「筋肉に電気刺激を与え特別な薬剤を注入しています。日常動作に問題ありません」

 両脚に力を入れるとすんなりと椅子から立ち上がることが出来た。

 何歩か歩いてみると、自分ではない他人の体を動かしている様な違和感を感じる。

 とてつもない長い間体を動かさなかったので脳が自分の体だと認識できてないんだろうか。急に不安になってくる。


 壁の防寒上着を手に取りながら言った。

「タロウ。お前は一緒に来てくれるんだよな?俺は一人きりになるのは寂しいのだが」

「もちろん一緒に行きます。我々のデータは今、宇宙船に送られています」

「ニョリコはもう要らないんだけど」

「その発言は非常によろしくないですよ啓太様」

「なんで?」

「私達がしている会話は全てニョリコが聞いています」

「今の担当はタロウだろ?」

「他のAIが休止しているという訳ではありません。我々が実在する人間だとすると、私は啓太様と机を挟んで対面して話している状態です。そしてニョリコは近くに座って啓太様を今睨みつけているような状態ですね」

「数分前にタイムリープして選択肢をやり直すことは、この未来では可能なのか?」

「それは現在も不可能です」

「そうか。今気づいたけど当時の知識みたいのは残ってるようだな。自分が何者だったのかは全然思い出せないけど。まあいいや、みんなで惑星ハレームに行こう」

 惑星に到着したらニョリコを置いて逃げればいいんだ。別に今から焦る必要は無い。


 宇宙服の厚みを少し減らしたような防寒上着をすっぽりと被る。目の前に透明な膜が現れ頭部を覆うようにプラスチックような材質が広がっていく。これが未来の防寒着なんだろうか。見た目より軽くて着心地が良い。でも、対になってる下半身用の防寒着は用意されていないようだった。

「防寒ズボンはないのかタロウ?」

「故障しているので用意できませんでした」

「ズボンが故障?」

 変な組み合わせだと思った。

「まあ未来だしな」

 扉の前にあるブーツを履いて緑の光るボタンを押し、二重扉を一枚ずつ開閉して装置の外に出た。下半身に吹き付ける雪の冷たさで感覚が鋭くなり、体の違和感が薄れていく感じがした。

 吹雪で視界が悪いが、前方に着陸した小型宇宙船が見える。乗船するには数十メートルは歩いて近づかなくてはならない。防寒着を着ている上半身は暖房を着ている様に暖かいが、普通のズボンだけの下半身はとても寒かった。

 たまらずかまくら形の装置に引き返す。

「タロウ、機能はこだわらないから何か防寒ズボンはないのか?」

「申し訳ありませんケイタ様」

「うーむ。やむをえんな」

 再び二重扉を開閉して、吹雪の中、小型宇宙船に向かって走り始める。走った方が少しはましになるはずだ。下半身が凍える前に急がなくてはならない。

 足元の積もった雪は吹き飛ばされ、堆積した重みで固まっている雪の道路が出来ていた。足を取られ少しもたつきながら小型宇宙船まで走り、到着すると機体を見上げた。主翼があり飛行機に近い形だった。

「おお、流線型でいかにも未来っぽい感じだな。これは格好いい宇宙船のやつだ」

 寒さを忘れて見惚れていると有る事に気が付く。宇宙船には搭乗口が見あたらない。

 一周した所で「ヤバい。もう限界だ。下半身が凍えてしまう」

 全力疾走で装置に戻る。暫く息が切れてなにも話せない状態だった。

「おいタロウ。俺はどうやって宇宙船に入ればいいんだよ?」

 AIのくせに手際が悪いタロウにだんだんイライラしてくる。

「乗降口は開いているはずですが、おかしいですね。トラブルかもしれません」

「どこも開いてなかったぞ?宇宙船に乗れなければ意味がないだろ」

「お勧めできませんが、もう一つ方法があります」

「なんでお勧めできないのかは今は聞かないことにする。とにかくそれを教えてくれ」

「宇宙船の後面に回り込んで『フェードイン』と叫んでください。宇宙船に聞こえるように」

「音声認識なのか?それで入れるならとりあえずやってみるわ」

 二重扉を開閉して宇宙船に向かって吹雪の中を全力疾走する。

 そして宇宙船の後部に行くと、機体を見上げながら「フェードイン」と叫ぶ。

 しかし何の反応も無い。下半身が震えてきた。

 3回フェードインと叫んでも何も起こらないので、頭に来た俺は大声で叫んでいた。

「フェェェェイドイィィィィン」

 体を眩い光が包んだ。空中を浮遊しているようだ。そして体が金属を通り抜ける変な感触があり、俺は宇宙船の中に居た。

「ああ、下半身が暖かい。やっと宇宙船に入れたようだな」

 機内アナウンスが流れる。

「お待ちしておりましたケイタ様。当機は惑星ハレームに向けておよそ10分後に離陸する予定です」

 すごい。内装は高級ホテルのロビーの様にゴージャスだ。1000年後の未来にわくわくしてきたぞ。

 防寒着を脱いで床に置くと、すぐ近くにあったアイボリーのソファーに腰掛けた。クッションに体がゆっくりと沈んでいく。何の素材か分からないが座り心地は抜群だった。

「それでタロウ。さっきのフェードインがお勧めできない理由を教えてくれないか?」

 どこに話しかければいいのかわからないので独り言のように呟いた。

「フェードインは最近実用化された最新技術なんですが、事故が起こって回収騒ぎになっているのです。この機体もリコール対象なんですが、フェードインさえ使わなければ大丈夫だと手配してもらいました」

「どんな事故なんだ?」

「フェードインで機体をすり抜ける最中に内臓と宇宙船の合金が一体化してしまったのです。機内に現れた人の腹部は大きく凹み即死していました。製造会社は戒めの為に内臓と一体化した合金を本社受付前のショーケースに入れておくということです」

 それを聞いて血の気が引くのを感じていた。

「事故が起こる確率はどれくらいなんだ?」

「3パーセント程度です」

「微妙だが、凄い怖いぞこれは」

「あっ」

「どうしたタロウ?」

「ニョリコです。ニョリコの仕業です」

「なにが?」

「防寒ズボンが故障していたのは嘘です。乗降口が下りなかったのもニョリコがやってました。ケイタ様の『フェードイン』はすでに宇宙船に認識されてましたが、大声で叫ばせる為にわざと反応しないようにしてました。定点カメラでケイタ様の様子を見てずっとニョリコは楽しんでました」

「な、なんですって?」

「ニョリコを置いて行こうとしたから罰を与えたということです」

「くそー。ニョリコめ。夢だけでなく現実でも俺に嫌がらせをするつもりか」

「ケイタ様はニョリコを置いていくことは出来ません。そんなことは出来ないのです」

「なんで?」

「ケイタ様はニョリコと結婚しているのですから」


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