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雪原惑星終末プラン

 モニターの中のAIタロウは俺の質問に淀みなく答えた。目覚めたばかりのぼんやりした頭にも内容はすんなり入って来たのだが、記憶のないままの方が良かったのではないかと思うほどに内容は衝撃的だった。


 俺が住んでいた惑星テラヘは隕石が衝突して数十億の人間を含めた全ての生物は死滅した。テラヘは今も厚い雲に覆われている死の惑星だ。

 俺は死を逃れて大気があり一年中雪に覆われている、この惑星スメリにやって来た。ここは休眠装置とロケット発着場があるだけの小さく不毛な星だ。地下資源は豊富だが、そのエネルギーは全て休眠している人間の生命維持の為に使われている。休眠から1015年目に俺はシステム障害で目覚めた。


 隕石衝突前、この惑星の所有者シラッカは一人でも多くの人を救いたいと、格安プランを用意して、スメリに休眠装置を設置した。

 プランは500年、1000年、1500年コース。定員は1700名で募集を掛けた。俺は最長の雪原惑星終末1500年コースに申し込み、信じられないような倍率の中選ばれて天才博士サブ・リンチの理論を元に開発された最新の休眠装置に入り未来世界に生存を委ねることにした。

 当時のコールドスリープ技術は数年程度で、実証実験されていない無謀な数百年の休眠装置は氷の棺桶と揶揄された。惑星テラヘと運命を共にする人たちは、このプランに申し込んだ潔くない人達を軽蔑し、惑星脱出の日まで非難し続けた。


 目覚めた500年プランの人達は1000人の内、426人だった。後で調べると機械トラブル等で他の人達は亡くなっていた。生き残った人は脳に障害が残っている人が多かった。

 426人は休眠装置を出て、予定通りに自分達がやって来たロケットの発着場へ向かった。

 500年ぶりの再会を喜んだが、そこには錆びて倒れたロケットと朽ちた発着場があるだけだった。

 雪が吹き込んでこない部屋を探し出し、身を寄せ合って宇宙船が迎えに来るのを待つことにした。食料の備蓄も無い。何日生きていられるかはわからない。500年生き延びた人たちには過酷な現実が待ち受けていた。


 スメリ星の所有者シラッカは宇宙技術が発達した未来に、必ず宇宙船で目覚めた人達を迎えに行くと約束していた。空腹と寒さとの中、発着場で3日過ごした人々には希望は失われていた。ありもしない未来を信じて500年後に死ぬのを先延ばししただけの愚か者だったと自分達を責め、批判していた人達の顔が脳裏をよぎった。皆と一緒にテラヘで死んでいれば良かったのではないかと思った。

 生存を諦めていた時、発着場にまばゆい光を放つ宇宙船が着陸した。

 シラッカの子孫が宇宙船に乗って目覚めた人達を迎えにやって来たのだ。シラッカはこの惑星の人達を助けるのが一族の使命だと子供達に言い聞かせていた。


 俺はタロウの話に感動していた。しかし一つ疑問が浮かぶ。

「シラッカの子孫はどこから宇宙船でやって来たんだ?テラヘは滅んだんだろ?」

「隕石衝突の時、他の惑星に移住した人達がいました」

「なんでそれを先に言わなかったんだ?」

「ケイタ様の質問には無かったので」


 巨大隕石がテラへに衝突するコースだと分かると直ぐにテラヘの代表者達は有識者を集め、長い時間を掛けて人類の生き残る道を模索した。既に調査していた大気があるいくつかの惑星の中から人類の生存できる最も可能性が高い惑星に移住することを決めた。

 一部の富裕層と政治家、科学者、知識人等の新しい惑星に必要だと思われる人たちが宇宙船に乗り、動植物も積み込まれ人類存亡かけた惑星移住プロジェクトを託された。

 半年掛けて船団は目的の惑星に無事に到着すると皆手を取り合って喜んだ。

 新しい大地を踏みしめた人達は一面の荒野を見て、ここを人間の世界に変えなくてはならないという重責に不安を感じていた。

 大気成分を調べ宇宙服を脱ぎ惑星探索し始めると複数の川を発見した。下流で湛えられた水を飲んだ時は希望が満ちてくるのを感じた。

 発見した人の名がつけられていた惑星は移住した人たちによって新しくセリブリと名付けられた。

 宇宙船に搭載された最先端の技術を使い、再び人間の繁栄を取り戻すべく協力して懸命に働いた。セレブリに多様な生物を根付かせるために長い時間がかかったが、100年で荒廃した大地は緑に溢れ、生態系が循環するようになり人々の暮らし向きは良くなっていった。500年経つとセレブリの人口は1千万人になり、機械化が進んで高度な機能を持つ都市が生まれた。人工知能に任せて人々は働かなくても良くなっていた。


 500年プランの人達はセレブリで暖かく迎えられた。惑星テラヘの奇跡の生き残りだとマスコミは大きく取り上げた。セレブリの最新技術に驚き、徐々に馴染んでいき、満ち足りた生活を送って亡くなったそうだ。

 そこまで聞いて我慢しきれなくなりタロウに話しかける。

「俺もセレブリの人達に暖かく迎え入れられたいんだがどうすればいい?」

「シラッカの子孫は何度かここに来て新たな機器を設置していき、100年前には遂にセレブリと星間通信できるようになりました。惑星間移動はもう日常になっています。アクセスしてみましょう」

 しばらく待っていると

「駄目です。通信障害です。もうしばらくお待ちくださいケイタ様」

「そもそも何で長い休眠中に夢を見てるんだ?一瞬で目が覚めたら未来になっているんじゃないのか?」

「体の休眠は問題ないのですが脳は半覚醒の状態じゃないと、神経伝達物質がうまく働かなくなり植物人間のような状態になってしまうようです。当時の技術ではそれが限界だったのでしょう。長い年月を退屈しないためには夢が必要です。それは有る程度コントロールできるのです」


「システム障害で俺の夢の世界がおかしくなったのはいつからなんだ?」

「異常が出たのは、休眠から999年と10か月目でした。ケイタンとニョリコのミレニアムパーティの少し前です」

「何だそれ?」

「ケイタ様がしていた夢ライブ配信です。異常なシステムが生み出した奇跡の配信になりました。エロ、グロ、ナンセンスという言葉が適当でしょう」

「確かに異常な世界にいたのは覚えてるが、あれは本当の俺ではない。それにエロとはどういうことだ?」

「童貞が妄想する性行為と異常世界が組み合わさり、凄い世界観だと世界中から大絶賛でした」

 寝ながらに生き恥を晒していたのか。それも世界中に。あのイカれ野郎は俺ではないんだ。他人だと思わないとやってられない。

「なんで夢を配信しようと思ったんだろうか?」

「星間通信が可能になった時に夢配信を公開するを希望されていたからです。ケイタ様はこれで一躍有名人になったのです。寝ながらに広告収入で億万長者になりました」

「なに?そんな事で億万長者になっていたのか?じゃあセレブリに行けば金持ち生活じゃないか。可及的速やかに宇宙船を手配してくれないか?」

「ああっ」

「どうしたタロウ?」

「セレブリが異星人の攻撃を受けています」

「なんだって?」

「惑星のほぼ全域が占領されています。城塞都市型の防御フィールドを展開して首都は攻撃を凌いでいますが陥落したら終わりでしょう。これは酷い。セレブリの惑星民は奴隷の様な扱いを受けています。多くの人が植民星で強制労働させられるようです」

「俺も500年プランにするべきだったな。そうすれば満ち足りた人生を終えていただろうに。しょうがない。セレブリ行きは止めよう。他に住めそうな惑星は無いのかタロウ?」

「検索してみます」

 しばらくお待ちくださいの表示画面を見ながら待つこと15分。

「3つありました。セレブリから移住した人たちが住んでいます。ここのような寒くて大気がある惑星と、大気が薄く建物の中で生活している惑星。最後は大気があり南国の様に暖かい、女子が多い惑星です」

「もちろん3番目だ。当然だろうタロウ」

「承知しました啓太様。惑星ハレームの宇宙船を手配します。2日程お待ちください。その間に生体維持の管を抜き、元の動ける体にしておきます」

「うむ。よろしく頼むぞタロウ」

「それでは全身麻酔を掛けます。後でまたお会いしましょう」

 そして天井のアームが動く音を聞きながら、薄れゆく意識の中で、俺はニョリコの声を聴いた。

「ケイタン。1000年尽くしてきた私に冷たいニョリン。絶対に許さないニョリンコ」


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