きぼう
街灯のない暗い夜道をうつむきながら歩いていると、ふと目の前に光が差し込んできた。
きらきらとしていてじっと見入ってしまうほど美しいその光は、私をからかっているかのように私の少し前をゆっくりと、私の歩調に合わせて徐々に遠ざかっていく。
わたしはその光に目を奪われ、どうしても手に入れたいという強い衝動に駆られ、いざ手に掴もうとしてはや足になる。
わたしのはや足に呼応して、次第に光も速く遠ざかる。
光を追いかける足は更に速くなり、いつの間にか走り出している。
光も負けじとますます速くなる。
それでも光はどこまでも逃げていく。
追えども追えども一向に距離は縮まらない。
走り始めてからどれだけ経ったか分からない。
どこまで遠くにきてしまったのかも分からない。
光を追いかける足が少し重くなる。
こんなに必死に走っているのに、どうして全然近づけないのだろうか。
先の見えない追いかけっこに心が折れそうになる。
ふと、わたしはどうしてこの光を追いかけているのだろうかという疑念が思い浮かんだ。
その光の正体はなんだか分からないけれど、きっと今まで私が求めてきたものだという確信めいたものがあった。
わたしは今までの人生の中で、最後まで諦めずに追いかけて手に入れられたことは何一つとしてなかった。
いつも途中で躓いたり、手が届かないとわかると、追いかけるのをやめてしまっていた。
だからこそ、この光だけはなんとしても手に入れたい。そう思った。
その瞬間、後ろからふわっと風が吹いてきた。
私のおもいを聞いた風が、後ろから背中を押して応援してくれているような気がした。
走りはさらに早くなるが、不思議と息は全然あがらない。
わたしの身体は重力を忘れたかのようにすごく軽くなる。
わたしの足はいつの間にか地面を蹴る感覚を失う。
とうとうわたしは宙に浮き、空を飛んだ。
少しずつ光との距離が縮まっていく。
体中から汗が噴き出しているのも気にせず、無我夢中で全身の力を使って必死にもがく。
光は指先をかすめる。
あとちょっと。もうちょっと。
届きそうで届かない、もどかしいこのおもい。
今まで何度経験してきたか。
でも、わたしはあきらめない。
思いっきり手を伸ばしてようやく掴んだその光は、フワフワしていて柔らかく、心が満たされるような豊潤な香りがした。
今までに感じたことがない優しい暖かさに包まれている。
私が掴んだその光は「きぼう」だった。