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9ページ目:昔話と衝撃

「全く...信じられないわね。自分の雇い主の名前すらも把握していないなんて。

「呼ぶ機会もなかったし誰にも教わらなかったから?だからって普通なら調べるなり人に聞くなりするでしょう。ノルちゃんに聞けば1発じゃない。

「...まぁ、ひとまずその話は置いておきましょう。ニアもそろそろ立ち直りなさい。

「『血縁』の話だったわね。えぇ、私の方から話をさせてもらうわ

「しかし、私からすればなぜあなたが『血縁』について知らないのか、そちらの方が疑問なのだけれど。

「なぜか?...多分、話を聞いていれば分かるわ。

「『血縁』、というのは特定の一族のことを指すの。

「ええ、一族よ。そのままの意味で。

「その一族はとある使命を、あるいは宿命を持っている。生まれながらに、生まれる遥か前からに。

「その話はあなたもノルちゃんも既に聞いているのでしょう?そう、宝玉を守ること。ただ、それだけ。

「『血縁』と呼ばれる彼ら彼女らはその為だけにその生涯を捧げるの。

「いつやってくるのかも分からない《英雄》のために。

「とは言っても宝玉は一般人からすればただの宝石でしかないし、基本的には厳重に保管されているわけだから誰かの目につくこともないし、何より『血縁』の間でのみ語り継がれる鍛錬法によってその体を鍛え上げている彼らが強盗被害にあって命を落とす、なんてことはないのだけれど。

「それでもそれはしがらみとなる。

「それとも鎖、かしら?

「使命に縛られた『血縁』達は自由を奪われる。

「想像に難くはないでしょう?

「古くからの使命を遵守しようとする老害たちが、どうするかなんて。

「使命を守れ。力をつけろ。夢を追うことなど許さぬ。そして子を成せ。...本当に気持ちが悪い。

「はるか昔、ご先祖さまが受けた命令のために。

「遠い未来、私たちが再びこの世界に姿を現すその時まで、宝玉を守り通せ、なんて戯言のために。

「一体どれだけの人が未来を奪われたことやら。

「まあ、あなたが今ここにいるのだから、戯言ではなかった、ということになるのだろうけれど。

「...なぜ私がそこまで知っているのか?

「多分あなたなら気がついているんでしょう?それに質問は次はこちらの番のはずだけれど?

「まあ、これくらいは答えてあげるわ。

「ええ、そうよ。

「私の本名。いえ、もう家からは勘当されたのだから旧名、かしら。

「サリア・ブレイズ。

「それが私の名よ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「サリア・ブレイズ...」


 知らなかった。

 サリアさんのフルネーム自体初めて聞いたし、しかもその性が私と同じものだったなんて。


「結局自分のことを話してしまったわね。とはいえ大凡はわかって貰えたと思うのだけれど。」


 薄い目でこちらを、いや、ティオだけを睨みつけるように見つめていたサリアさんはそう紡いだ。


「生涯、未来永劫、子孫代々、宝玉を守り通すためにそれを捧げるのが『血縁』、そしてそれを命じたのが《英雄》。」


 長い歳月をかけて、宝玉を守り続けてきたその一族たちはやがてそのあり方を掛け違い始めた。

 使命を遵守するために、その子たちに鍛錬を強い、見込みのない女性には子を成すことを強いる。

 自分たちは、あの《英雄》たちに見込まれたのだという事実だけに縋り、その矜恃を保とうとし続けた。


「これは私の家系の話。でも、ニアもそう変わらない扱いを受けていたと聞いてるわ。」


 お母さんに視線を向ける。

 するとお母さんもこちらを見ていて、私と目が合うとゆっくりと頷いた。


「だから私はあなたが、あなたたちが嫌い。」


 初めて見る感情的なサリアさん。

 震える唇を動かして、固く拳を握りしめて、


「あなたからすれば自分の知らないところで起きた、謂れのない罪なのでしょうけどね。」


 そう吐き捨てた。

 ふぅ、と短く息を吐いてサリアさんは椅子によりかかる。


「だから、今度は私からの質問。あなたは、どう思っているの?今『血縁』について聞いたうえで、どう思った?」


 キッと睨みつけるサリアさんの視線。

 それを一身にうけるティオは──


「.....」

「...え?」


 震えていた。

 それはもうプルプルプルプル。

 小動物が怯えているかのような面持ちで、見たこともないほど顔を真っ青に染めて。

 ヒクヒクと端を引き攣らせているその口は、何かを言おうとしては断念して開閉を繰り返し、その額には未だかつて無いほど多量の冷や汗を浮かべている。


「ティ、ティオ、様...?」


 見かねたお母さんが腰を椅子から浮かして、戸惑ったようにティオの肩を揺する。

 すると、ティオはビクリと全身を跳ねさせてゆっくりとお母さんの顔をお母さんの方へと向けた後、


「ほ、ほ...」


 息を切らしたように少し吃って、


「ほんっとうにすいませんでしたーーーー!!!」


 流れるように土下座を決めた。

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