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4ページ目:依頼所と説得

 そしてやってきたそんな翌日。

 私たちは依頼所目指して歩みを進めていた。


「にしても街並みは中世のヨーロッパみたいなのに売ってるものはオーバーテクノロジーだったり、相変わらず面白い街だね。」

「へぇ、旧世界から見たらそんな感じなんだ。」

「うん。()たちの世界にはもっと高い建物が多かった。」

「売ってるものは?」

「...少なくとも石を入れただけで光るようなライトは売ってなかった。」


 なんなのあれ。

 だなんて訝しいものを見るように目を細めてつぶやくティオ。

 その姿は初めて会った時のように少し長めに切りそろえられた黒髪に黒目を持った少年の姿だった。

 唯一違うところと言えば、服装が空色をベースにしたコートを着ているということか。

 目の前でパッと取り出したかと思えば、


「作った。」


 とは全く驚いたものだけれど。

 どっちがオーバーテクノロジーなんだか。いや、ティオのはロストテクノロジーか?旧世界からの技術なんだし。

 男にした理由については、聞いてみたところマンガ?ではこういうところでは荒くれに絡まれるのがお約束だから絡まれづらいように。との事だった。

 なんだそれ。

 荒くれなんてそうそういないわ。

 そもそも顔面が男か女か見分けがつかないのに予防になるのかも疑問だし。


「あれは光石(ひかりいし)を使ってるの。」

「ひ、光石?」

「確か日光でもなんでも光を吸収して中に溜め込む性質のある石、だったかな。」

「なにそれすご!」


 ひとまずの疑問は置いておいて、ティオの視線の先にあるライトの仕組みについて説明してやると、先程の視線とは打って変わって目を輝かせた。

 うん、こういうところは子供っぽくて、英雄とはいえちょっと親近感がわく。


「っていうかティオが知らないってことは光石もシステムエラーってこと?」

「うんにゃ。無機物は基本制御してないから、まぁある意味予定通りだね。」

「それはなんで?」

「そっちのが面白いと思ったから。」

「...」


 なんというか...こいつそんなに適当に世界創ったのか?そんな世界に快適に住まわせてもらっていたのが癪に障る。


「それよりもノル。依頼所まだ?」

「そこ左行ってすぐだよ。」

「お、やった。楽しみだなぁ。」


 笑みを浮かべて心做しか足取りが弾んでいる。

 そんな見て面白いものでもないと思うけど...それでもティオからすれば全てが新鮮で面白いんだろう。


「上手いこと力を活かせる依頼があればいいな。」

「力...」


 ティオが言っている力、というのは戦闘力のことだろうか。それとも、ティオが『魔力』と呼んでいたもののことだろうか。


「〜♪」


 隣で鼻歌を奏でている英雄を横目で見やる。

 こんな人通りの多い通りでそんなことを話すのもまずいだろう。

 私は後で聞くことを心に決めて、ティオを依頼所へと導いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「すっごぉーい!!」

「おぉう...」


 依頼所の前に来た途端、ティオは感嘆の叫びをあげた。

 私からしてみれば咄嗟の事だったし、そんなに驚くとも思っていなかったわけだから、驚いてドン引いたような声を漏らしてしまったのも仕方ないだろう。

 ティオも依頼所に夢中で気が付かなかったみたいだし。


「そんなすごい?」

「すごい!すごいよ!例えばほら、あの窓!ガラスじゃないよね?なにあれ!」

「あれは光石を加工すると吸収せずに光を透過するようになるっていう特性を使った──」

「へぇー!光石ってそんなことできるんだ!じゃあ木材は?松とか檜じゃないよね!」

「木材?あれは多分トラスとかリエとかじゃな──」

「トラス!リエ!聞いたこともない!」


 すごいすごいとはしゃぐティオが矢継ぎ早に投げかけてくる質問に答えていく。

 答えを言い切る前に次の質問をされるのは甚だ遺憾だけども。


「それであれは?自動ドア?センサーじゃないよね!どういうしくみなの?」

「センサー?...えっと、確か人の持ってる磁気に反応して反発するとか──」

「そんなのがあんの?!すご!じゃあじゃあ!あの1番上の水晶玉みたいなのは?」

「あれは...緊急事態の時に広範囲に警報を届かせるための音声拡張器だったとおも──」

「メガホンみたいなもんか!じゃあさ、あそこの──」

「あぁ、もう!!落ち着け!」

「あいたっ!」


 いつまでも興奮冷めやらぬ様子でぴょんぴょんはね回るティオの後頭部をひっぱたいて落ち着かせる。

 いつの間にか人の目が集まってしまっていて、それが気まずくて私は、後頭部を抑えるティオの手を引いて足早に依頼所の扉をくぐった。

 中にはいつも通りのザワザワとした喧騒が満ちている。


「質問はいいけど声落として。わかった?」

「ご、ごめんなさい...」


 小さな声で釘を刺して、そのまま人混みをかき分けながら受付へと向かう。

 そこで対応してくれたのはいつも私が依頼所で依頼を受ける時に対応してくれる、サリアという名前のお姉さんだった。


「サリアさん、依頼受けに来ました。」

「ノルちゃんじゃない、久しぶりね。」


 サリアさんはエルフという種族で、その特性が故に耳が尖っていて、何より顔がとても整っている。

 美しい金髪とその整った顔立ちから、男性女性問わずかなり人気があるらしい。余談だけども。


「そちらの方は?彼氏さん?」

「ち、ちがうから!最近知り合って案内してるの!ティオ!自己紹介して!」


 突然そんなことを言われて、顔に熱が集まるのを感じながらも、引くために握りっぱなしだった手を振るように離してティオに自己紹介を促した。


「初めてまして、ティオと申します。サリアさん、これからよろしくお願いします。」

「これはどうもご丁寧に。サリアです。依頼所をご利用の際は是非、声をかけてください。」


 2人とも仮面をつけたままみたいな笑顔の薄ら寒くなるような自己紹介で思わず苦笑いが浮かぶ。

 社交辞令というか、テンプレートそのままみたいな挨拶はなんとも気味が悪い。


「サリアさん、今日はどんな依頼が来てる?」

「そうねぇ...」


 頬に手を当て、サリアさんは手元のファイルを開く。

 その中からいくつかの紙を取り出して、私たちの目の前に広げた。


「月光草の採取、春猪用の罠の設置、逃げた竜胆猫探し、ノルちゃんに任せられるのはこの3つくらいかしら。」

「ちょっと待ってください。ノル、ちょっとこっち来て。」


 どうせだったらサリアさんが私用にと出してくれた依頼の内容を見てみようと字に沿って視線を流していたら、そう言ったティオに手を引かれ、受付から離れた柱の影へと連れ込まれた。


「知らん単語多すぎるんだけど、月光草?春猪?竜胆猫?」

「そうかもしんないけど我慢して、ここで説明なんてしてたら不審でしょうが。」

「えぇ...」


 まだ不満がある様子のティオを無理やり引きづって再び受付の前へ。


「ごめんサリアさん。今日はもっと違う依頼を受けに来たんだ。」

「違う依頼?」

「うん、魔獣討伐の依頼を見せて。」


 私がそういった途端周りの喧騒がピタリとなりやみ、そうかと思えば先程の4割増ほどに大きく騒ぎ立て始めた。

「本気なのか?」「まだ幼いだろう。」「小さいしな。」なんて会話が聞こえてくる。

 幼くないわ。もう少しで成人だぞ私は。

 それはそれとして私は呆気に取られた様子のサリアさんにもう一度声をかけた。


「サリアさん、依頼書見せて。」

「...ダメよ。」


 するとサリアさんは目を細め表情に影を落としてゆっくりと首を横に振った。

 まあそうなるだろうとはおもっていたけど。

 別に魔獣討伐の依頼を受けるのに年齢制限があるわけでも免許が必要なわけでもない。

 言ってしまえば規則上は誰でも受けることが可能だ。

 しかし暗黙の了解なのか腕っ節に自信のある人、専門の教育を受けてきた人、魔獣を討伐した実績のある人以外には依頼を回さないようにしている。

 とはいえ、さっき言った通り規則で定められているわけではないのだから、無理にでも引き出すことが出来れば受けること自体は可能だ。


「お願い。ちゃんと自己責任だって書類も書くから。」

「ニアさん、あなたのお母さんも悲しむでしょう?」

「それは死んだらでしょ。」


 サリアさんは私をキッと睨みつける。

 心配はもっともだし、嬉しいとも思う。

 だけど私の夢を叶えるためにも報酬の高い魔獣討伐の依頼は譲れない。

 ティオがいれば絶対に失敗することなんてないって私は確信している。

 だけどその理由を話すわけにもいかないわけで...その点を誤魔化してどう説得すればいいのだろうか。


「それは、例えば僕が受けるのもダメなんですか?」


 私が唸って頭を悩ませていると、後ろからそんな言葉が聞こえてきた。

 振り返るまでもなく、その言葉を発したのはティオだ。


「ダメよ。見たところあなたもまだ歳若いでしょう?みすみす若者を死地に送るわけにはいかないの。」

「自信があると言っても?」

「信用出来ないわ。」

「なら信用に足る実績があればいいんですか?」

「...忠告はしたわよ。」

「よっしゃ。行こ、ノル。」

「は?なに?どういうこと?」


 ティオが私の手を引き、扉に向かって歩き始める。

 後ろからサリアさんの声が聞こえてきたがそれも喧騒にのまれ私たちの耳には届かない。

 そして扉をくぐったティオはそのまま人気の少ない路地へと私を連れ込んだ。


「こんなところで...!私に何するつもり!?」

「なんもしないよ!?」


 まぁ冗談は置いといて、


「それで?さっきのはどういうこと?」


 今話す必要があるのはさっきのサリアさんとティオの会話について、だ。


「そのまんまだよ。実績があればいいってことは魔獣を何頭か狩って実力を見せつければいいの。」

「...あぁ、なるほど。」


 言われてみれば確かに簡単な話だ。

 ティオにはそれが可能、どころか朝飯前なわけだし。


「でも疑われるんじゃない?何処で買ってきたんだ〜とか。」

「うん。だから無理やり納得させようと思って。」

「無理やり?」


 どういう意味だろうか。


「実は依頼所の受付の奥にシフト表みたいなのが張り出されててさぁ。」

「うん?」


 いまいち要領を得ない口ぶりに首を傾げる。

 シフト表...確かにあった気もするが気にもしてなかったし、字も小さくてとても読めるようなものじゃなかったと思うが...まぁ英雄様は視力もいいんだろう。


「サリアさんの勤務時間、もうちょっとで終わりだったんだよね。」

「へぇ...まさかあんた!?」


 わかった。

 こいつが何をしようとしてるのか。

 察した私の驚愕の視線を受け止めて、ティオはいつもみたいな快活な笑顔ではなく、物語の悪役のように口端を釣り上げてにやりと笑った。


「さらっちゃお。」

ブックマーク等々よろしくお願いします。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

今後物語で解説するつもりはないので作品内て出てきた単語の設定をば。


トラス、リエ:木の名。

旧世界における松や檜などのように一般的な樹木であり、そこに特質すべき特徴はない。


光石:太陽光など、光を中に溜め込むことの出来る石。

そこに熱を溜め込むことはなく砕くとその光を一瞬で全て放出し、その後機能することはなくなる。

光を吸収するため、その見た目は真っ黒。

新世界ではこれを光源として活用している。

ティオが見たのは光石を電池のようにした懐中電灯のようなもので、光石の中に溜め込まれた光エネルギーを砕くことなく取り出し使うことが出来る。

砕かないために光石は光を再び溜め込ませれば繰り返し使用することが可能。

主に地表に生成されるため、質を度外視すれば誰でも手に入れることが出来る。

加工し吸収、溜め込むという性質を取り除くことでガラスのように光を透過するようになる。


月光草:染料や家畜の食料として使われる、夜になると淡く青色に色付く植物。

40℃以上のお湯につけておくと3時間ほどで色素が抜け落ち、そのお湯を煮詰めることで染料を作る。

絞ったあとの葉を家畜の餌として活用できるためにコスパがいいとして重宝されている。

危険な猛獣や魔獣の生息圏には分布しておらず、必要な場合は自分で取りに行くか依頼所にて依頼を発注することが多い。

サラダとして食べてしまう人もいるらしい。

健康には良いようだが味は保証しない。


春猪:名の通り春に活発に活動し始める猪。

比較的温厚だが、畑を荒らすためやはり害獣。

こいつが生息している付近の田畑には必ずこいつを捕らえるための罠が設置されているほどには農家の方々からは嫌われている。

しかし淡いピンクの可愛らしい見た目や、こいつが活動し始めた頃に春を感じられる、何より美味いといった理由からそれ以外の人達からはそこそこ人気がある。

鼻がいい。


竜胆猫:竜胆色の体毛を持った猫。

愛玩動物として非常に人気が高い。

かなり身体能力が高く、さらに好奇心旺盛な性質のため隙を見せればあっという間に飼い主の手元から逃げて言ってしまう。

そのため依頼所には竜胆猫探しの依頼がかなり集まる。

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