26ページ目:目覚めと案内屋
「んんぅ...あれ?」
気がついたら街の大通りにいた。
目の前で揺れる長い黒髪と特有の揺れのおかげでティオに担がれていることだけは理解出来る。けどどうしてこうなったのか、一分の記憶すらもない。
「あっ、起きた?」
「う、ん?ごめん、寝てた? 運んでくれてありがと。」
「いやいや、お疲れだったみたいだね。」
「ん〜...? ...キール、どしたの?そんな震えて。」
確かに疲れていたけど寝落ちてしまうほどだったかと首を傾げる。すると必然的に視線がずれティオの隣、いや1メートルほど離れたところを歩くキールが目に入った。
キールは不自然に肘を抱え、不自然に震えているものだから否が応でも意識が向けさせられてしまう。
「いや、ティオが──」
「あぁ?」
「ひっ、な、なんでもないぞ。それよりも体調は大丈夫か?」
「うん、なんともないどころかむしろ元気が有り余ってるくらいだよ。」
「そうか...さすがの手管──なんでもない!なんでもないからな!」
「?」
顔を青くし、ガタガタと震えるキールの姿はまるでティオに怯えてるみたいだけど.....私が寝てる間に何があったんだろうか?
「って、そろそろ下ろしてくれない? さすがに恥ずかしいんだけど。」
「は〜い。」
軽快な返事とともに地に足が着く。多少のふらつきはあるけれど、歩くのには些少の問題も無さそうだ。
「それでどこに向かってたの?」
「鍛冶屋さん。」
「おっけ。」
くるりと身体を進行方向へ向け、ティオの隣を並んで歩く。風景からして、多分西区の南端辺りだろう。鍛冶屋までは歩いて大体20分くらいか。
少し疲れはあるけど、あとひと踏ん張りだ。
「夜遅い時間だけど明るいね。」
「西区は商業区だから。」
「へ〜、そういうのあるんだ。」
感心したように頷くティオに続けて説明を加える。
この街、セントラルにおいては北、南区が住宅区、西、東区が商業区となっている。中でも西区は加工等、東区は販売をする商会なんかが集まってるらしい。
「らしい?」
「私もよくは知らないんだよね。」
「あくまでもそういう傾向にある、という程度のものなんだ。この街は『世界の中心』と名乗っているだけあって広大だからな。全てを把握している者はそう居ない。」
「あ、キール復活した?」
「ノルと話している様子を見ているうちに紛れてきた──いや、待て。近づくな。距離はそのまま保っておいてくれ。まだ怖い。」
私とティオの会話に割り込む形で注釈を加えてくれたキールは、顔色も元のそれを既に取り戻していて口調からも不調は見られない。
ワキワキと手を動かし、イタズラな笑みを浮かべて距離を詰め始めたティオには再び顔を青くして制止していたけれど。
散々意地悪をして満足したのか、ティオは言われた通りにキールから1メートルほど距離を開けた。そこで思い出したかのように首を傾げ、口を開く。
「そう居ない、ってことはそういう人もいるってこと?」
「噂程度のものだがな。」
「案内屋さん、だっけ?」
キールの言う噂には私も聞き覚えがあった。
酒場でのお客さんの会話からだったか。
「案内屋...?」
「この街、どころかこの世界の全てを知っていて、お金をもらってその人が求める最適な場に案内する人、らしいよ。」
「病を治したい人間には最高の医者に、美食を求める人間には最高の食事処に、文字通り"案内"する。それを生業にしてるものがいる、らしい。」
「らしいらしいって言ってるけど?」
「都市伝説みたいなもんなんだよ。男だって話もあれば女だって話もあるし、実際に会ったって言ってる人がいたりいなかったりするし。」
「そもそもが"最適"というのが抽象的にも程がある。食の好みだって千差万別だろうに何を持って最適としているのか。」
「フゥン…」
ティオは顎に手を添えて考え込む素振りを見せる。
あまりにも不明瞭な噂、それもティオにとっては大して利にならないようなそれだろう。ティオが求めるものがこの街に、この世界あるとは思えない。それでも気にかけるのは興味からだろうか。
「会ってみたいけど...」
「無理だな。さっきも言った通り都市伝説程度のものでしかない。.....それに、それ程の情報通が仮に実在するならば、死んでもお前とは関わらないだろう。」
「そっか...ちょっとざんね──待って?後半どういう意味?」
「オレだってお前の人間性を知っていれば早急にノルから引き離していた──ぎゃああああ!! 離れろ!抱きつくなというかしがみつくな!!」
「おーいおい、年頃の女の子のハグだよ?ありがたく享受しなさいよ。」
「ノル以外にうつつを抜かすつもりは無い! ノル、こいつをどうにかして──ノル?おーい!どこに行くんだ?!」
構わず歩みを速め、先を急ぐ。
真夜中とは言え比較的大きな通りギャーギャーと騒ぐ人達と知り合いだと思われたくない。絶えず背後から浴びせられる言葉に耳を塞ぎ駆け出した。
その瞬間、
「きゃあっ」
名も知らぬ誰かとぶつかってしまった。
声からして女性らしい青髪の彼女は、その影響で尻もちを着いてしまい。痛みに顔を顰めている。
「ご、ごめんなさい!ちゃんと前を見ていなくて。怪我してないですか?」
「いてて...えへへ、大丈夫です。」
手を差し出すと彼女は、はにかんでその手を掴んだ。手を引き、立ち上がらせる。軽く見た感じ、怪我はしていないように見えるが、
「それにですね。私も余所見していたので。おあいこです。」
「そう、ですか...?えっと、怪我してないなら良かったです。」
「はい。」
独特な話し方をする彼女は、握りしめていた手を慌てた様子で離し、地に額が着きそうな勢いで頭を下げた。
「すいません。失礼します。少し急いでいるんです。」
私の返事を待つことなく私の横をぬけてそのまま走り出す。
その事に私は気が付かなかった。
「ご利用はまたの機会に。」
そう聞こえた気がして、咄嗟に振り向いても目に映るのは変わらない街の光景と変わらず取っ組み合うキールとティオ。
青髪の彼女は影も形も無くなっていた。
「は? 今──」
「どうしたの?」
「ひゃっ?! いつの間に...」
気が付かぬ間に隣に立って心配そうに私の顔を覗き込んでいたティオと目が合う。さっきまでティオがいたはずの方へ目を向けてみればそこには肩で息をして項垂れているキールしかいなかった。
「狐にでも化かされた?」
「...まぁ、似たような気分。」
「あははっ、そりゃいいね。」
いい──わけがないんだけど。
「不思議なことがあったんでしょ?分からないことが起こったんでしょ? それって最っ高に面白いじゃん。」
「.....怖。」
「あはっ、ノルにもそのうちわかるよ。」
相も変わらずティオは笑う。
私に何かを求めているのは分かって、でもそれが何かは分からないから、私は言葉を返すことが出来なかった。
「さ、行こ。」
そう言って、ティオは私の手を引いた。
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