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25ページ目:休憩と違う雰囲気

「...生きてる?」

「...何度も死ぬかと思った。」

「お、同じくだ...」


 セントラルから少し離れた場所、人気がないことを確認してそこに降り立ったティオはニヤニヤとイタズラな笑みを浮かべて私たちの顔を覗き込んだ。

 酔い?のようななにかで既にフラフラな私は、そんなティオに反撃も復讐もできず、ただ悔しさを握りしめることしか出来なかった。


「こっからは歩いて帰ろう。ほらほら立った立った。」

「ちょっと待ってよ...無理だってば...」

「だらしないなぁ。キールは──って聞くまでも無さそうだね。」


 私よりも慣れがない分、幾分か増して顔色の悪いキールはティオに言葉を発することなく頷くことで応える。


「休憩する?」


 首を傾げてそう尋ねるティオに大きく首を縦に振って応えると、ティオはいつものようにあははと朗らかに笑って近くの切り株に座り込んだ。


「んじゃきゅーけーい。」


 気の抜ける号令にひとまず安心。

 このまま歩いて帰れと言われたらまず間違いなく途中で地に倒れ伏していたことだろう。私も近くの倒木に座り、足を伸ばす。キールも同様にしていた。


「はい、お水。」


 そんな言葉と共にポイと投げ寄越されたのは水筒。それを受け取って一息に飲み干す。戦いで疲労して、謎の声や頭痛でさらに落ち込んだ体調にとどめを刺すような超速飛行は、どうやら深刻なダメージを与えてくれやがったらしい。

 そんな益体もないことを考えていると、おし殺せない欠伸が盛れ出した。


「...ねむ。」

「今寝たら100起きられないから徹夜確定だね。」

「う〜ん...せめて午前の仕事だけでも休めないかなぁ...?」

「無理でしょ。部屋の予約、今日も、というかずーっと先までパンパンだったし、僕たちが手を抜く隙間ないよ。」

「ぐぁぁ...」


 それは分かりきってたことだし、夜中にあそこに行こうってなった時点で覚悟していた事態ではあったけれども、それでも辛い。そもそもがこんなに疲れると思っていなかったというのは確かにあるが。


「ん?」


 私たちの会話の隙間。

 近くで聞くに徹していたキールがふとそんな声を上げた。


「どうしたの?」

「いや...ちょっと待ってくれ。先程から聞いている限り、ティオはノルの旅館で働いているようだな?」

「あぁうん、言ったでしょ?仕事を探してる時に世話になったって。」

「いやそれはいいんだ。英雄だろうと金は入り用だろう。それに最近『あかたま』に住み込みで新しい従業員が入ったという話は聞いていた。」

「あ、」

「あぁ...」


 話の続きを察した私たちは寸秒も(たが)わず声を上げ、そして目を逸らした。


「ただそれは、女性、じゃなかったか?」

「「う~ん...」」


 予想は的中。

 さて、どうしようか。もちろん話しても構わないのだろうけれど相手がキールである以上、揉める可能性があるわけで。住み込みで、という情報が割れているものだから、果たしてどうするべきか...


「よし、注目。」


 パンと手を叩いて目を集め、ティオは座っていた切り株の上におもむろに立ち上がった。


「見てて。」


 一言だけ発して、ティオはその場でくるりと一回転。ティオの体は薄い膜のような光に包まれ、それが晴れた頃には艶やかな黒髪は腰の辺りまで伸び、筋肉質だった体は全体的に丸みを帯びたそれになっていた。


「どうだ!」

「.....あぁ、なるほど。」

「あれ反応は?!」


 想定していたよりも薄い、塩味だったキールの反応にティオは愕然と、あんぐりと口を開け声を荒らげる。

 キールはため息とともに目を抑え俯くと口を開いた。


「正直、大亀やら飛行やら瞬間移動の方が衝撃が大きくてな..... 少し慣れてしまったらしい。」

「えぇ~、つまんないなぁ。」

「どんな反応をすると思ってたんだ?」

「どっひゃーーー?!.......みたいな。」

「すると思うか?」

「いいや微塵も?」


 ふふりと不敵に笑うティオはそのまま再び切り株に腰を下ろし、そのままパタパタと足を動かして遊んでいる。

 女性の時のティオは言動どことなく幼いというか、柔和というか。普段が凛々しいという訳では決してないのだけれど、不思議と雰囲気が変わるのはどうしてなんだろう。

 考えても答えは出ないのだろうが。


「そういや私、住み込みで働いてるんだけど...?」

「それがどうかしたか?」

「どうかしたかって...なんか言いたいことないの?」


 そう言ってティオはちらりと私に視線を寄こす。

 多分私とひとつ屋根の下で過ごしているというその事実についてキールは文句がないのかと促しているのだろう。

 キールばその目線をおって、私の顔を見やると納得したように頷いて再びティオに向き合った。


「特にない。」

「えっ」

「目覚めたばかりということは雨風を凌ぐあてもなかったんだろう? その際に住み込みという形をとるのは当たり前だ。一番最初にあったのがノルだったと言うなら当然の帰着だと言える。だから気にする事はない。」

「え、えぇ...」

「なんだその反応は。」

「くふふ、ティオもやっと気がついたね。」


 困惑した様子でキールを呆然と見つめるティオに、私は近づいてその肩に手をかける。私の声に反応して顔を上げたティオの頭を鷲掴み、キールの方へ向けて言葉を続けた。


「そう、あいつバカだけど頭良いんだよね。」

「バカとはなんだバカとは!」


 キールは行動が突飛で読めないやつだと、ティオはそう思っていたのだろうけど、それは私が関わる場合のみなのだ。

 実際のキールは、結構合理的で思慮深かったりする。


「.....ギャップ萌え?」

「何それ。」

「前の世界の言葉か?」

「なんでこれは伝わってないんだろうね?」


 ティオはそう呟いてちょこりと小さく首を傾げる。 なんか悔しいけど、あまり言いたくなかったけど、ちょっと可愛い。


「...ティオってさ、自分の容姿とかってどう思ってる?」

「どうって...まぁ、悪くないんじゃない?褒めてもらえることもあったし──苦労したこともあったし。便利だとは思ってるよ。第一印象がいいに越したことはない。」


 苦労。

 苦虫を噛み潰したような表情でそんな単語を絞り出したティオに、それ以上もう何も言えなくなる。 自分の容姿に『便利』という形容詞を当てはめるという心象は、私には想像もつかない。


「ノルは?」

「...ん、何が?」


 顔を上に向け、見上げるようにティオは私の顔を覗き込む。 考え込んでいた私は、隙間の多いそんな言葉になにか聞き逃したかと思い聞き返すとティオはいたずらににやりとした笑みを浮かべ、肩に添えられていた私の手を取ると自分の頬に当てると口を開いた。


「ノルは私の顔、どう思う?」

「...え、っと.....?」


 どう、と言われても。

 誤魔化す必要も理由もない。だから思ったままを伝える。


「まぁ、いいんじゃないの?」

「そっか、」


 ティオは私の返答を聞いて、安堵したように息を着くと今度は儚げに、消えてしまいそうなほど小さく、柔らかな笑顔をその整った顔に浮かべると、


「なら、私もいいと思う。」


 と言って、さらにその笑顔を深めた。

 ちょっとドキリとして、それを誤魔化すようにペシとその顔を平手で軽くはたいてみる。ティオは、あう〜とこれまたあざとく呻いて、いつものように活発に笑った。


「.....ぐぅう.......」


 ふと耳に入ったティオとは違う呻き声。

 そちらに視線を向けてみると笑顔と憤怒の表情が混ざりあったような複雑な顔をしている。


「...何その顔。どしたの。」

「いい雰囲気なのを咎めるべきか、それとも微笑ましく見つめるべきか悩ましい...今は女性だとは言え元は男だということも含めて。」

「くだらな。」


 呆れたため息が思わず口から漏れ出る。

 くだらなくないだのなんだのと騒ぎ立てるキールを意識の遠くへおいやって、ティオに目を下す。私の言葉の何が気に入ったのかゆるゆるとにやけるティオが微笑ましい。キールとは大違いだ。

 でもちょっと気恥ずかしい。

 容姿を褒めて、それで喜ばれるってあまりないことだから。

 だから、多分照れ隠しだった。ふと口をついて出た言葉、特にさしたる意味も含めていない言葉。

 それが、良くなかった。


「でもティオって胸は小さいよね。」

「殺す。」


 人のコンプレックスに軽率に触れてはいけないと、私は改めて理解した。

ブックマーク等々よろしくお願いします。

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