24ページ目:餞別?と不安
「あーあ、もう空っぽだ。」
「あんた...まさかあの量全部あげたの?」
「お、ノル、キール。キールは大丈夫だった?怪我とかしてない?」
「あぁ、お前のおかげでな。」
良かった、と満足気に頷くティオ。
その笑顔を見て苦笑をこぼすキールの隣で、私は静かに肩を落とした。
仕方がないことはわかっている。わかっているけれど、どうしてももったいないという気持ちが強い。
あれだけのコアがあれば目標金額には届かないまでも、相当の金額を稼ぐことが出来ただろうに。
「しかし、説明はしてもらうぞ。お前が何者なのか、ノルに何を教えたのか。」
「ん、わかってる。けどひとまず地上に戻ろう。」
そう言ってティオは天井を指さした。
「もういい時間でしょ。」
「それはもちろんそうしたいところだが...どうやって出る?俺たちが入ってきた洞窟は完全に潰れてしまっているぞ。」
「だいじょぶだいじょぶ。考えてあるから。」
いたずらにニシシと笑いをこぼして、ティオは大亀の方を向くと軽く飛び上がって大亀の鼻先を撫でた。
大亀はぱちくりと目を瞬かせ、そして心地よさそうに目を細める。ああ、そんなところもなんだか人間みたいだ。
「それじゃあ行こ──うぉ、何?」
「おわぁ!?」
「きゃっ?! 何?!」
撫で終えて、ティオがくるりと向きを変えたところでそれは起こった。
大きな振動、足元をおぼつかなくするほどのそれは最初に私たちがここに来た時、大亀が起き上がった時のそれによく似ている。
倒れて、それでもなんとか前を見てみれば、同様に大亀が身を震わせている様子が見て取れた。
なにかに亀裂が入るような音が空間に響く。
そして大地を砕く轟音音がどこからともなく聞こえてきたところで、大亀は身震いを止めた。
「びっくりした...キール、大丈夫?」
「あ、あぁ。」
キールに手を差し出しながら、パタパタと服を叩いて土埃を落としつつ立ち上がる。
身震いを終えるきっかけとなった大きな落石音を探そうと当たりを見渡して、そして直ぐにその正体はわかった。
「──あれって、」
それは大亀の背中に生えていた妖しく人を魅了するように光り輝く鉱石だった。
おおよそ根元辺りからポッキリとへし折れ、それでも圧倒的な存在感を放っているそれは、さっきの大亀の身震いで落とされたのだろう。
駆け寄って、なんとなく触れてみる。
何も起こらない。
当たり前だ、あくまでもこれはただの鉱石なんだから。
「でも、なんでいきなり.....」
「餞別、とか?」
後ろから話しかけてくるティオにもいい加減慣れてきた。驚くことなく振り返り目を合わせると、ティオは大亀の方を見るように目線で促してくる。
なされるがままに大亀の目を見てみればその瞳孔は確かにこちらを向いていて。
そして、どこか笑っているように見えた。
「治してくれて、なわけはないだろうからコアのお礼とか?」
「...それにしたって私たちの誠意みたいなものだからお礼をされるいわれはないと思うけど.....」
でも触れてもなんの行動も起こさないのだから恐らく貰っていっても怒られることはないだろう。
それならば、ありがたく頂こう。
「ありがとうございます。」
頭を下げると大亀はさらに目を細めた。
今度は、確かに笑っていた。
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「それで?どうやって帰るんだ?」
「ワープ。」
「は?」
私が必死にバックパックに鉱石を詰め込んでいる横で、そんな会話をしているのが聞こえた。
当たり前だが、入るわけが無い。というか入れる必要があるのだろうか。入れたところで7割方はみ出るだろうに。
ティオがしまった方が効率的なのでは?
「細かい説明は省くけど坑道の入り口にポイント置いてきたからいつでもそこに飛べる。」
「.....」
「.....」
「.....お前のことを聞きたいと思ってたんだがな?」
「うん。」
「聞いても理解できない気がしてきた。」
「それは知らんよ。」
あぁ~無理だ。
なんとか限界まで引き伸ばして入れたけどバックパックがミチミチ言ってる。少し衝撃を与えただけで裂けるんじゃないのこれ? しかもやっぱり上側はほとんどはみ出てるし。
「ティオ~、これ無理だって。」
「ん? ああ大丈夫大丈夫、それで十分。」
ティオはそう言って限界を迎えつつあるバックパックにそっと触れる。すると吸い込まれるように、あるいは落ちていくかのようにその鉱石はストンと消えてなくなった。
「...何、今の。」
「こう、アイテムボックスみたいな...バックパックを元にゲートを作る、みたいな.....」
「ごめん、やっぱ説明しなくていいや。」
難しいことは理解できない。
それが魔力とか、超常的なものであるならば尚更だ。
「それじゃあ帰ろうか。手、掴んで。」
ティオは空になったバックパックを背負ってそう言った。言われるがまま差し出されたその手を掴む。キールも逆側の手を掴むと、私たちの体が淡く輝き出した。
その輝きが私たちの体をおおっていく。
足を、腕を、体を。
全身を埋め尽くすその直前、ティオは突然頭を下げた。
向かう方には大亀がいる。
私もつられて頭を下げる
感謝と懺悔を込めて。
大亀はそんな私たちを見て目を細めて──
ズキリ、
頭が、痛い。
痛い痛い痛い痛い痛い。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!
『同胞よ、さらばだ。再び───』
何かが聞こえて、聞こえた気がして。
いつの間にか私は、意識を手放していた。
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「──ル!」
耳元で誰かが叫んでる。
...うるさいなぁ。
「──ぁまぁ、落ち──ういう時は──」
音が止む。
そして浮上しかけた私の意識が、再び眠りにつこうとしたその時、
「ザッパーン!!」
「ぶぎゃぁ!?」
気安い掛け声とともに大量の冷水が顔にあびせられた。
油断していた私の体がそれに抵抗できるはずもなく、目から口から鼻から、あらゆる穴という穴からそれが体内に入り込む。
「げほっ、ゴホッゴホッ!」
「ほらね?起きたでしょ?」
「手荒にも程があるだろう!?」
咳き込むと共に体を起こす。
なんとか目を開けると視界に入ったのはへらへらと笑ってキールを宥めるように手を動かすティオと、そんなティオの胸ぐらを掴んで派手に揺らすキール。
そして周囲に生い茂る木々に、数時間前に見た巨大な坑道。
「.....ほんとに出てこれたんだ。」
「ノル! もう大丈夫なのか?」
「大丈夫って...何が?」
「ワープした途端に気絶しちゃったんだよ。原因不明。」
気絶...そっか、あの時聞こえた声と頭痛のせいで...
原因不明。ってことは例えばそういう行為に慣れてないからとか、そういう理由じゃないってことだ。それにあの時聞こえた声。
「再び.....?」
誰の声かも、どんな意味があるのかも分からない。
「.....何かあったの?」
声が聞こえて、見上げると心配そうに顔をのぞきこんでくるティオとキールの姿。
「声、声が、聞こえた...」
「.....キールはなんか聞いた?」
「いや、なんのことを言っているのか...」
私だけ。
私だけ?
ティオじゃなくて? キールじゃなくて?
「.....」
不安だけ募る。
何も分からないのに結果だけが残って。
不知の病とか、前代未聞の自然現象とか、不明なのをいいことに猛威を振るうような、そういうなにかに対して感じるものと似たような、漠然とした負の感情。
それが胸中を巡って──
「ノル!」
「いったぁ!」
唐突にティオが私の頬を両の手で挟んだ。それも勢いよく。
バチンと破裂音に似た音を立てた私の頬を、ティオはそのままぐにぐにとこねって弄ぶ。
「...あにふんの。」
「考えるな、アホになれ。」
「はぁ?」
ぐぃと頬を引っ張って伸ばしたり、むにと挟み込んで押し潰したり、粘性の玩具で遊ぶように手遊ぶティオは最後に笑って、それと同時に私の口角を無理やり引き上げた。
「怖いこと、難しいこと、分からないこと。無理に考えたって無駄。だからアホになれ。んで笑え。そうすりゃ少なくとも今は楽しい。」
「...なんの解決にもならないじゃん。」
「僕がいる。代わりに何とかしてやる。」
だからノルは僕の代わりに笑って。
そう言ってティオは私の頬から手を離した。
「あぁ、その通りだ。オレもそばにいる。」
「ほらほら、キールもこういってる事だし──」
「それはそれとして、」
「ん?」
「人の妻の顔を気安く触るなあぁ!!」
「あれ?!僕怒られるの?!励ましたのに!?」
「貴様ぁ...洞窟内では見逃していたがな...ノルと一体どういう関係だああぁぁあ!!!」
「いやっ、師弟関係みたいな、ちょっ、落ち着いて!!」
喧騒を背景音楽に、こねくり回された頬をそっとさする。少しヒリヒリしてるし、多分赤くなってる。それでもあんまり痛くないのはティオの優しさが故か。
自然と口端が緩み、笑みが零れていく。
やっぱり、ティオはすごい。
「ティオ、ありがと。」
「それより助けて!」
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「ふぅ...いやすまない。少し気持ちが昂ってしまった。」
「いや、僕こそ、投げ飛ばしちゃってごめん...」
結局私は助けなかった。
というかキールがティオにつかみかかった瞬間、キールはティオの手によって投げ飛ばされてしまい、助ける機会は無くなった。
ちなみにキールの頭にはでかでかとコブができている。まぁ自業自得だ。
「それでだ、そろそろお前の話を聞かせてもらいたい。」
「ん〜、《朱の英雄》なんだよね。」
「もちろんそう簡、単に、は...」
話のさなか、キールは動きを止めた。
ティオの言葉を完全に処理するため、脳みそをフル稼働しているだろうことが目に見て取れる。
「いち...ら...」
「ん?」
「一から説明を頼む.....」
「あはっ、りょーかい。」
ティオは笑って応えた。
***
「──ってことなんだけど...理解出来た?」
「理解、はできた。が流石に信じられん。」
キールは頭を横に振り、頭を抱え込んでしまった。
そんなキールを見てティオは肩をすくめる。そして隣にいる私を見やるといたずらな笑みを浮かべてキールを指さした。
私は、ひとつため息をついて口を開く。
「信じられないも何もすごいもんをその目で見てるでしょ?」
「それは、確かにそうだが...」
《朱の英雄》だといきなり言われて、信じられないという気持ちは分かる──いや正直あまり分からない。私はすぐに信じちゃったし──けれども。
「悩んでもらってもいいんだけどとりあえず帰んない?」
「あ、あぁ、そうだなそろそろ夜が明けそうだ。」
ティオの提案にキールは戸惑いながらも頷く。
対して私は、そんなティオの言葉に頷きたくなかった。ぶっちゃけ疲れた。もうこれ以上歩きたくない。というか歩けない。
「さっきみたいにワープ?って出来ないの?」
「無理、魔力切れ。」
「え〜...」
今からあの道を行きと同じだけの時間をかけて帰らなければいけないというその事実だけで立っていられなくなる。そんな私を、ティオは笑って脇に担いだ。
「飛行なら行けるけど?」
「.....」
飛行も嫌だ。
嫌なんだ。
浮遊感とか、落とされたら死ぬっていう危機感とかのせいで非常に酔う。
.....でも、どちらにしろ歩けないのだから、
「ゆっくりお願いします...」
「あっはは、約束はしかねる。」
背に腹は変えられない。
悔しさで顔を歪める私を、ティオはさらに大きく笑って流れるようにキールも小脇に抱え込んだ。
「うぉっ!?」
「んじゃ帰ろうか。舌噛まないようにね。」
「ノ、ノル!一体どういう──」
「喋んない方がいいよ.....」
見上げると顔を爛々と輝かせるティオが。
私は知ってる。こういう時こいつは、
「GO!!」
「「キャアアァァアア!!/うおぉぉおぉおおお?!!」」
...目いっぱい速度をあげるんだ。
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