22ページ目:戦闘と大亀の実態
視界を豪炎が包む。
私は咄嗟に顔を腕で覆い、やがてくる灼熱に備えた。
「.....?」
しかし、何も感じない。
灼熱や激痛どころか、空気を伝わってくる高温すらも私の皮膚感覚は受け取ることは無かった。
薄くを目を開く。
すると目に入ったのはいつかの時のように、私を庇うように立ちはだかるティオの姿。
ティオは右手を軽く持ち上げ、前にかざしている。ただそれだけで亀が吐き出した青白い炎を受け止め、それを払い飛ばしていた。
「ノル、大丈夫か?」
「...あ、キール。無事だったんだ。」
肩を叩かれ、声をかけられてやっと気がついた。どうやらキールは、ティオに受け止められてなんとか一命を取り留めたらしい。
私は助けに行く余裕なんてなかったからよかった。
「まさか、あんな化け物が地下にいるとはな... それに...」
そう言ってキールはティオを見やる。炎を素手で払い飛ばしている時点でもう身体能力が高いという説明では誤魔化せない、キールにも説明する必要があるだろう。
が、それは全部後での話だ。
今は──
「それは後で話すから。それでキール、一個聞きたいんだけど。」
「どうした?」
「あの亀の背中の鉱石、あれ使って武器を作れると思う?」
「.......はぁ?!」
もしもあれで武器が作れるなら、もしかしたら私たちだけの武器を手に入れることが出来るかもしれない。
それはまぁなんとも心が踊る響きじゃないか。
「そう言われてもな...実際に使ってみないとなんとも──」
「おっけ、なら採ってみるしかないね。」
「あ、おい待て!!」
焦ったように手を伸ばすキールをかわし、そしてティオの隣に並び立つ。
目の前に広がるのは今も尚豪炎で埋め尽くされたままの空間。炎の隙間から見えるかつて地面だった岩石達は高温に熱され、赤くドロドロに溶けていた。
「ティオ、あれ採り行こ!」
「ノル?! 前出てこないでよ危ないから... っていうかあれって.....あれのこと?」
ティオは目線で件の鉱石を指し示す。
それに対して私が首を縦に振って応えると、げんなりしたように目を細めてがっくりと肩を落とした。
「馬鹿じゃないの...? このウェイト差で、しかも相手は魔術まで使えるって言うのに...」
「魔術?」
「おっと、ネタバレネタバレ。今度教えるよ。」
「生きて帰れたら?」
「まぁ、そうなるね。」
そんな冗談を言い合って、ティオはキールの方を振り返る。 すると炎を防いでいるのとは逆の手を掲げ、軽く振り下ろした。
それだけの動作でその手に纏っていた魔力が流動し、後ろの壁に大きく裂け目を作りだす。
「キール! そこに隠れてて!」
叫び伝えるティオの言葉に、逡巡した後に頷いたキールは駆け出し、その裂け目に身を潜める。
それを確認したティオが指をパチリと鳴らすと、その裂け目を覆うように、透明な壁が現れた。
「これでひとまず大丈夫。多分.....」
「多分?! ちょっとやめてよ、終わったあとに見に行ったら残ってたのはキールの骨でしたとかヤだからね?」
「あいつの出力がなぁ... っていうか勝つ気満々?」
「負けに行くバカいないでしょ。」
「そりゃそうだけど... ノルって軍人だったりする?」
「いや?」
「んじゃあ格闘技の経験は?」
「...ないけど。」
「ん〜...?」
ティオがなんだかんだと訳の分からないことを並べ連ねているうちにも亀の放炎は止まない。
吐き出しているのかと思っていたけれどこの持続だったら違うのかもしれない。 ティオが言っていた"魔術"とやらが関係しているのかしていないのか。
私には分からないけど、これをティオが止めることができるのならどれだけ長く続けることができたとしても勝機はある。
「ティオ、炎を防いだまま私に合わせて跳んで。」
「お、反撃開始?」
「ん。」
「りょーかい。」
「せー、のっ!」
掛け声とともに上に跳びあがる。
広がる炎を抜け、ようやく大亀の全貌を拝めた。それこそ遠近感が働かなくなるほど大きい。そして、同時に目的の鉱石も確認することもできた。
「あれさえ採れれば別に倒さなくてもいいんだけど...」
「あそこまで行くのがキツイよねぇ..... そら来た!」
そう言ってティオは手を下に向ける。
つられて顔をそちらに向けると、大亀はその首をぐいと大きく上に逸らし、こちらに向けて再び口を開いていた。
口内で再び円盤が光り輝く。しかし先程と違い、その色はより強く、そして鈍色のものだった。
「あ、ごめん。」
「んぇ?!」
突然謝罪の言葉を述べたティに対して呆気に取られているとその光が目を焼くほどに強くなる。そして大亀の口からは炎ではなく大きな岩石が吐き出された。
速い。
ティオはその岩石に向けて右手を振るったがその質量のせいか、あるいは硬度のせいなのか、その動作は何を起こすことも無く空振りに終わる。
それを確認したティオは空中でぐるりと軌道を変えて機動し、私を横抱きに抱えて間一髪その岩石を回避した。
ガシャりと。
岩石は大きな音を立てて後方の壁に衝突する。そして一粒の塵も出さず、大きなクレーターを作ってそれは消えてなくなった。
あれをもしまともに身体に受けていたら.....
「『火』だけじゃなくて『土』も使えるのか... 『土』は僕、消せないんだよね。完全に見誤った。」
「やっぱ私が作戦立案なのダメなんじゃない?」
「いやいや悪くなかったって。ほらつぎつぎ。」
「ううん...」
頭を使うのは苦手だ。
数日前、そんなことをポロリとこぼしたところそれをティオに聞かれてしまい、その結果次に大物と戦う時は作戦を私が立てることになってしまった。
だから今私は頭を悩ますことになってしまっているのだけれど──
「側面...後ろ...そんなわかりやすい弱点残しとくかな...」
「亀だし、知能は低いかも?」
「そうは思えないんだよね...」
少なくとも、アレは炎が聞かないと見るや否や、岩石による攻撃に変えてきた。
その時点である程度の知能は持っていると考えていいと思う。
「このまま空中で避け続けることってできる?」
「出来なくはない、けど魔力の消耗もあるしジリ貧。」
ならこのままでいるのもあまり好ましくない。
...とすれば、
「降りて、それでまっすぐ突っ込もう。」
「わかった。」
ティオは私の考えた作戦に物申すことも無く、二つ返事で頷いて高度を下げた。
大亀は様子を見るかのようにして、行動を起こさずただじっとこちらを見つめている。
「......」
ティオはそんな大亀の行動が気にかかるのか首を傾げている。そうこうしているうちに地に足が付いた。
「ティオが前。炎は防いで岩は各々で避ける。」
「えー...出来んの?」
「無理だったら即死は何とかさけるから回復よろしく。」
「...いや──...わかった。」
頷いたのを確認してティオの背中を押すと同時に駆け出す。 合図替わりの行動はしっかりと伝わってくれたみたいで、ティオはそれに合わせて前方に薄い膜を展開し、ぐんぐんと速度を上げていった。
大亀はそれを見てか否か大きく口を開け小さな炎弾を吐き出す。それらがやはりティオによって防がれていることを確認して、今度は複数の小さな石の弾を吐き飛ばした。
小さいと言っても先は鋭く、それに早い。当たれば大きく損傷を負うだろうし、当たりどころによっては命に関わるだろう。
それを紙一重で躱す──なんてことが出来れば最良なのだろうけどそんな技術を持ち合わせていない私は、大きく姿勢を崩し、転がるようにしてそれらを回避する。
最小限の減速で立ち上がり、再び加速する。
すると大亀は、面食らったかのように目を瞬かせた。
なんで、そんなに、人間みたいな、
半歩前にティオの背中が見える。
何とかくらいつけてる。
そう安堵のため息を漏らした瞬間、亀は大口を開けた。
さっきのどでかい大岩よりも、さらに長い溜め、強い光、そして───
背筋をかける、冷水をあびせられたかのような寒気。
やばい。
やばいやばいやばい。
あれが最大じゃなかったのか、あれが最速じゃなかったのか。
反応は、間に合わない。
大亀の口の円盤は強く光を放って、そして、
「!」
不釣り合いなほど大きな岩石を放った。
大亀の顔よりもはるかに大きい。こんなものをどうやって撃ったんだ、なんて考えてる暇もない。
横に走れば──無理だ、こいつ、速すぎる。
岩石が眼前に迫る。
あ、やば、死ん──────
***
***
気がつけば、目の前に大亀の足があった。
私をすり潰さんと迫り来ていた岩石は私のはるか後方にあって。
なんで?
何があった?
分からない、分からないけど、今は、
「考えてる暇ない!」
腰から剣を抜き放ち、大亀の左前脚に接近する。まずは一太刀、端っこから削っていけばいい。
「お、りゃぁあああぁあ!!」
肺の空気を言葉へ、そして力へ。
少し不格好な雄叫びをあげて、大亀の左前脚に斬りかかった。
浅い。手応えでわかる。
でもそれでいい。
再び斬りつけようと目を見開いた私の視界に、赤い鮮血がチラついた。大丈夫、ちゃんと効いてる。
大亀の腹部のその下越しに、私とは対照に右脚に斬撃を加えているティオが見えた。 このまま足元を崩していければいつかは───
待って?
赤い?
改めて大亀の切り傷、そしてそれを負わせた手元の剣を確認する。 確かに赤い。
.....だとしたら。
「「ティオ/ノル!」」
「「こいつ魔獣じゃない!」」
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