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20ページ目:採掘と謎の小穴

 腰を落とし、剣を構える。

 対するは四つ足に鋭い爪、口にはその大きさに見合わない不器用に不釣り合いな牙、身体には不格好な瘤による凹凸を携えた狼。

 全長は私よりも大きそうだ。

 剣を習ったことは無いから、イメージするのは最初に見たティオの姿。一瞬でしか無かったけれどその姿は強く記憶に残っている。

 剣は右手に、半身になって切っ先を相手に向ける。姿勢を落とし、左手は相手の行動に対応できるように肩の辺りまで緩く上げておく。


 最初に動いたのは狼だった。

 その鋭い爪を持って私の首筋を切り裂かんと走り出す。さすがこんな洞窟に住んでいるだけあって動きはそんな環境に適化されていて、壁や天井を使い立体的に空間を使っている。

 でも、遅い。

 振り下ろされた爪をトン、と左に軽く跳び躱して右手を振るう。

 手応えはあった。でも浅い。

 再び見合うと狼の右腹には確かに剣傷が付いていて、そこからは()()鮮血がぽたぽたと滴り落ちていた。


 ギャウッ!!


 痛みを感じないのだろうか。

 そんな傷を受けながらも果敢に攻め来る狼の牙を、上体を逸らして交わし、傷のある右腹を狙って左足を振り抜いた。

 ちょっと無茶な姿勢だったものだから転んでしまったが、狼には的確なダメージを与えられたようだ。

 壁に強くぶつかり、骨が折れたのか動けずに痙攣を繰り返している。

 私は立ち上がり、そんな狼に歩み寄り、


「ごめんね。」


 誰ともなくそう謝って、剣を振り下ろした。


 ***


 うん、悪くない。というか結構いいのでは?案外動けるし、案外戦える。剣が上手く使えなかったのは心残りだけど。

 そう自己分析という名の自画自賛を心に浮かべて、残されたコアを拾い上げる。


「お、そっち終わったの?」

「ん、そっちはどう──って、聞くまでもなかったか.....」


 呑気なティオの声につられてそちらを振り向く。

 するとそこにはすでに体は消滅しきっていて転がっている六つのコアと、塵となり消えかかっている4体の狼型の魔獣の死体が血に伏していた。

 おかしいな? 力を失ってるって言ってたはずなのに。


「ここら辺は立ち回りの問題だから気にしなくていいよ。実際膂力も魔力も、今の僕とノルじゃさして変わんないし。」

「それって私が戦い下手って言ってない?」

「あ、」

「あって言った! しょうがないじゃん! ちょっと前まで普通の女の子だったんだから!」

「...普通の女の子、ねぇ.....」

「?」


 どこか含みのあるようなティオの復唱に首かしげる。しかしティオはなんでもないと言って笑い、そのまま近くの岩陰まで駆けていった。


「もう出てきてもいいよ、キール。」


 ティオがそう声をかけるとひょこと赤毛が顔を出した。その顔色はどこか青白く、ブルブルと震えている。キョロキョロと辺りを見渡し、安全をその目で確認するとようやく、ほっと安心したように息をついて岩陰から身を出した。


「助かった。本当に強いんだな、ティオは。」

「あはは、ありがと。」

「...それにノルも。」

「ん、まぁね。」


 気持ち胸を張ってそう応えると胡乱げにキールは私を見つめた。


「...どうしたの?」

「いや、なぜそんな技術を身につける必要があったのかと聞きたかっただけだ。」


 .....あぁ、そっか。キールには私がセントラルを出て旅に出たいって話、してなかったっけ。


「あぁいや、今話してくれなくても構わない。」

「へ?」


 説明をしようと私が口を開くと同時に、キールは慌てたように両手を振って注釈を入れた。


「ノルにも事情があるのだろう? それならばそれでいい。今は採掘に集中するとしよう。」


 こっちだ。と先導するキールの背中を追いかける。案外、キールって分別を弁えているのかもしれない。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ガンガンと鉱石と鉄が擦れ、ぶつかり合い、そして砕け散る音が洞窟内に響き渡る。

 私とキールは魔獣が寄って来ないかと戦々恐々としているというのに、ティオは平然と作業を続けているあたりは、さすがの器だと言うべきだろうか。


 私たちはキールが用意してくれていたツルハシを持って、採掘へと勤しんでいた。

 先程、狼との戦闘を繰り広げた坑道をさらに突き進み続けた先にあった広場。そこには多くの細道が繋がっていて、私たちが作業しているのはその中の一本。その突き当りだ。

 最初は全員で別の細道に入った方が効率がいいということで手分けをするつもりだったのだが、そこは公正に多数決を取り、結果として全員で固まって動くことになった。


「お、キール、これは?」

「それは...うむ、鉱石だな。メイナフ鉱石というものだ。」

「剣作れる?」

「いや、残念ながら武器には向かん。が、加工しやすくアクセサリーの土台に多く使われるものだ。需要はあるだろう。」

「つまり?」

「金になる。」

「よしっ!」


 掘り当てた鉱石がいいものだったらしいティオはガッツポーズを決めると、鼻歌とともに再び採掘作業に着いた。

 キールは過剰とも言えるほどに鉱石についての知識が深く、見た目、手触り、あとは匂い?なんかで種類を判別できるらしい。

 私なんかじゃ普通の石と鉱石の違いなんて全く分からないから、それらしきものがあればキールに見せ、お金になりそうなもの、あるいは武器の原料になりそうなものであればバックパックにしまう。という工程を繰り返している。

 しかし...


「剣を作るための鉱石が微塵も見つからないんだけど。」


 これは大問題だ。

 なんせ武器が手に入らないということになる。

 迫り来る一ヶ月後の襲撃に備えなければいけないというのに、もしも武器が手に入らなければ、私たちは素手で応戦しないといけないわけだ。

 これは非常にまずい。

 ティオに言わせればエクストラハードらしい。

 その言葉の意味は知らないけどやばいということはよくわかる。

 その場合もはや旅なんて言ってる場合じゃない。だから最低限、戦力として一番大きいティオの分の武器だけでも作れるだけの素材が必要なのに。


「そもそもが3人でするものじゃないからな、効率が悪いのは仕方がないだろう。」

「それは分かってるけどさぁ〜...」

「ノルってばもうお疲れ? せっかくだんだん楽しくなってきたとこなのに。」


 腹立つ。

 仕方がないだろう。時間が無い状況下で果てのない作業を強いられているのだから、そりゃ文句の一つも言いたくなる。


「なるほど! ならば俺熱い接吻をもってノルの疲労を癒して「黙れ。」」


 キールは良くも悪くも、悪くも悪くも変わらない。早速さっきの評価を撤回したい気分だ。


「ならさ、こういう話はどう?」


 そんな時、おもむろに口を開いたティオはツルハシを置き、大袈裟な姿をとって話し出した。


「道中、めっっちゃ魔獣がいたじゃん?」

「うん? まぁ、そうだったね。」


 実はティオの持っているバックパックは全てコアで埋まってしまっている。よって鉱石はキールには誤魔化してバックパックに入れる振りをしつつ、ティオが別の場所に収納して事なきを得ていた。

 そう、それほど大量に魔獣がいたのだ。

 狼型を始めとして、コウモリ型、カエル型、一番最悪だったのはナメクジ型だった。

 キモイって、あれは。

 人間大の大きさのナメクジは、ちょっとだけ心の傷になりつつある。


「でも、ここを掘り始めてから全く出会ってないよね?」

「そういえば...」


 掘り始めてから、どころか考えてみればこの細道を進み始めた時から、一切の魔獣と遭遇することもなかった。


「こっからは推測になるんだけど、」


 そう念頭に置いて、ティオは話し続ける。その顔は、楽しみを隠しきれない子供のように緩んでいた。


「思うにあの魔獣たち、避難してたんじゃないのかな?」

「「避難?」」


 私とキールの声が重なる。息ぴったりだな!と言わんばかりのウィンクを無視して、ティオの話の内容に思いを馳せる。

 避難する。魔獣が? 斬られても怯むことなく臆することなく果敢に挑んできたあの生き物たちが?


「魔獣の発生理由って謎なんだよね。胎生でも卵生でもなく、幼体が観測されたこともないらしいじゃん。ってことはなにか不可思議な要素で、成長過程もなく発生するものなのかもしれない。」


 難しいが、多少は理解出来る。

 要は魔獣はなにかきっかけがあるのか、ないのか、虚空にポンッと湧いてでるのではないか、ということだろう。


「それで洞窟に湧き出たとして、その魔獣は洞窟という環境に相応しい性能であるはず。」


 適応、というやつだろうか。

 曲がりにも生き物が、自分の身体に適さない場所で誕生するわけがないと。


「だって言うのにこんなにも住みやすそうな細穴はガン無視。間違いなく荒らされるだろう入口近辺が一番数も種類も多かった。」


 まぁ、その辺は生態の違いもあるのだろうけれど。魔獣と普通の生き物をどこまで比べていいものか悩ましいところだけど、コウモリ型なんかはこっちの方が生息地としては適している気もする。


「魔獣が湧き出たとして、そこに何かがあった、またはいたとして、普通なら逃げ出すでしょ? 見る限り、魔獣達も生物的な本能は持ち合わせてるっぽいし。」

「だから何かから避難してきたんじゃないかってこと?」

「そうそう。」


 それは、ちょっと発想が飛躍しすぎている気もするけど...


「少し強引じゃないか? 魔獣の発生理由がその理論で仮に当たっていたとしても、単に入口付近に多く発生しただけの可能性だってある。」

「洞窟の中腹辺りで鉢合わせたやつらは僕たちを認識する前から洞窟の入口を目指して走ってた。その理由は、なんだと思う?」


 ジョークのような話を、もっともらしく自信ありげに話すその姿を見ているとどこか本当にそうなんじゃないかという気もしてくる。

 思いつきのような、意味すらなさそうな話なのに。


「そのとんでもない何かが、もしかしたらとっても面白いものかもしれない。」


 ティオはふふんと得意げに鼻を鳴らして、無邪気な笑顔で笑う。


「コウモリ型のやつらがね、右から十番目の穴からすごいたっくさん出てきたのが見えたんだよね。」


 つまり、そこに、何かがあるかもしれないと?


「行ってみない?」


 私もキールも、なぜだか拒否する気はまるで起きなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 私たちは、ティオが言っていた通りに右から十番目の細道を進んで行った。

 そこは他よりも狭く、私が屈んでようやく通れる程度の、道というよりは横穴とでも言うべきものだった。下りの勾配がきつく、足を滑らせればそのまま下まで落ちきってしまうだろうことは想像に容易い。

 キールの手にあるライトの明かりを手がかりに、一歩ずつ慎重に踏み出していく。そんな私たちを尻目に、ティオはするすると進んで行った。なんでそんなに素早く進めるのかと聞いてみれば本人曰く「夜目が効くから」との事だ。

 魔力を使っているのだろうか?そう推察してみるが残念ながら私にはそれを実践してみる魔力は残っていない。

 ティオが言うには、魔力は体力みたいなもの、らしい。要は消耗するし消耗すれば回復する。

 精神力も削られて、その上魔力そのものまで減ってしまうのだから、全く効率の悪い力だなと思ったのは内緒の話。

 ともかく、もう燃料切れ寸前の私は、ティオほど器用には動けないというわけだ。

 ティオと私の間に、さしたる魔力量の差はないのにも関わらず、ここまで違いが出るのはなんでなんだろうか。


 それはさておき。

 下へ下へと進んで行ったことでようやく平坦な大地が見えてきた。地下深くのここを大地と呼んでいいのかは疑問が残るがともかく。

 なんとか平坦な道へ辿り着いた私たちは疲れからか同時に座り込んだ。狭い道ながら、安心して座れるというだけでかなり気分が違う。

 ライトを中心に立て、水を飲み携帯食を食べと、そうやって休憩しているところでキールがあることに気がついた。


「...? 洞窟の奥が、明るくないか?」

「「え?」」


 そういうと同時にキールがライトを覆って光を隠す。

 一秒、二秒、三秒、

 次第に暗闇にも目が慣れてきた頃、確かに見えた。

 平坦な地が続く方、私たちがこの先行く道。薄く、ぼんやりとだが、確かに光が揺れている。


「この先に、例えば地上からこの空洞まで続く大穴が空いてるとか?」

「私はそんなのしらないけど... キールは聞いたことある?」

「いや...そもそもこの時間帯、日はまだ出ていないだろう。月明かりがここまで届くとは思えん。」


 だとしたら、あれはなんだろうか。


「光石?」

「他の人とか。」

「俺たち以外がここまで来ている可能性は低いだろう。なんせ犯罪スレスレの上に危険度が高すぎる。俺だってお前たちがいなければきていない。」


 ならば光石か? どこでも手に入るあれのことだ、ここらにあっても不思議では無いが...

 それにしては随分と光が鈍いような気がする。


「...人魂とか?」

「ひぃっ?!」

「魔獣が巣食うようになってから、確かに数人犠牲者が出たらしいが...」

「ちょっとやめてよ!」


 私の悲鳴が、空洞でこだまする。

 それが何をすることも無く、変わらずその光は遠くでただ揺らめいていた。


「揺らいでるってことは、風があるのか何かいるのか、とにかく何かが動いてるってことだ。」


 ただティオはそう言って立ち上がる。そして数歩歩いて振り向くと、にひと笑って、


「それじゃあ、行ってみよう!」


 私とキールの手を引いた。


 .....最悪だ。

ブックマーク等々、よろしくお願いします。

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