19ページ目:交渉と探索開始
「や〜っと着いた〜!!」
「思いの外遠かったね。明日の朝の仕事、起きられるかなぁ...」
「寝なきゃいいんだよ。私はいつもそうしてる。」
「不健康一直線じゃん...」
「はぁっ...はぁっ...2人は、ティオはともかくノルは...なんでそんなに元気なんだ.....」
時刻としては34時くらいだろうか。 私とティオ、そしてキールは大空洞の前に立っていた。 風のうなる音がまるで猛獣の遠吠えのように聞こえるこの場所は、かつて炭鉱として活用されていたらしい。
「それじゃあ早速入ろ!」
「ダメでしょ、キールを休ませてあげてよ...水、飲める?」
「はぁ...はぁ...助かる。」
早いところ目的を果たそうと勇む私をティオは制し、持っていたバックパックから取り出した水筒をキールに差し出した。
全く、貧弱だなぁ...
ちなみに私が疲れていないのは言わずもがな、魔力操作の恩恵だ。魔力を用いて悪路における身体の負担を軽減するだけでさほどの体力がある訳でもない私でも、らくらくと山道谷道を進むことが出来る。
もちろんその分だけ魔力操作をするために精神力がゴリゴリ削れていくわけだけど、それは普段からティオに訓練されているおかげでさした消耗でもない。
そう考えると本当にティオのトレーニングメニューはよくできてるものなんだな。 改めて実感出来た。
「いや...急ぐ必要があるのは確かだからな...入るとしよう。」
「ほんとに?大丈夫?ノルの前だからってカッコつけてない?」
「まぁまぁティオ、そういうことならとっとと「ただし!」.....なに?」
息を整えつつあるキールは指を立てて得意げな顔で私の言葉を遮り、私の前に立って両手を広げた。
「ノルの熱い抱擁を所望す 「セクハラ反対!」 ふぎゃっ!」
言わせまいと顎を蹴り抜いた私の蹴りは、的確にキールの脳を揺らし、キールはこと切れたかのように地に倒れ伏した。
南無...
「それじゃあ休憩しよっか、ティオ。」
「あぁ.....うん.....」
そう言って近くの切り株に腰掛ける。
ティオは慌てたようにキールを平坦な場所に寝かせて、青い光──ティオ曰く「水」?らしい──による治療を始めた。
空を仰ぎ見るとそこには一面の星空が。しかしどうしても視界に入り込む巨大な洞窟の中には、それとはアンバランスな深淵が広がっていた。
そんな洞窟に入らないと行けないということにブルりと身をふるわせる。今回ばかりはティオ任せでなく自分でも頑張りたいという気持ちも大きい。
どうやらティオの決死の介抱によって健康状態へと戻りつつあるキールを横目に、数時間前のことに思いを馳せる。
そもそもこんなことになったのは───
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「打っちゃるよ。お前ら2人のための作品を。」
そんな言葉にパチと目を瞬かせる。
「えっと...良いんですか? そんな、僕たちオーダーメイドできるお金なんてないんですけど。」
戸惑ったようなティオの言葉に大きく頷いて同意を示した。私たちにはそんな大層な所持金はないのだ。どれだけ魔獣を狩っても絶対量が決まっているが故にたかが知れている。
その上で旅費までもを稼がないといけないのだから尚更だ。
「構ぁねぇよ。なんなら金はいらん。」
なんと...!なんていい人なんだ!
とは、さすがにならない。さすがになれない。
言うじゃないか。
タダより高いものはないって。
確かにおじさんは顔見知りではあるけれど、それでも無条件で信頼できるほど深い仲じゃない。
ティオも同様に考えたようで、不安そうに不審そうに眉を顰めている。そんな私たちを見たおじさんは可笑しそうに、くはと笑った。
「そんなに警戒しなさんなって、別に詐欺にかけようってんじゃねぇよ。」
くく、と笑いの冷めやらない様子のおじさんは喉を鳴らして、おもむろに歩き始める。
そして火床のそばに置かれた箱の中からいくつかの鉱石を取り出し、それを私たちに投げ寄こした。
「そいつらぁ得物を打つのに必要ななんだが諸事情あってほとんど使い切っちまってな。そいつの採掘を頼みてぇんだ。」
言われて、手に収まる程度のサイズの鉱石達を眺めみる。特段、鉱物に詳しい訳でもないから名前なんかは分からないが、色とりどりの石々を素直に綺麗だと思った。
「ちょうどキールに頼んでてなぁ。ちょうどいいから一緒に行ってやってくれ。あいつぁ鍛冶の腕はオレに次ぐが腕っ節はからきしだからなぁ、魔獣に襲われたら一発でお陀仏だろうから守ってやってくれや。」
なんなら、
と、おじさんはニヤリと笑う。
見透かすように。
「量と種類によっちゃぁ相応の金をくれてやってもいい。必要だろ?」
「.....!」
それはもちろん願ったり叶ったりだ。
金策を考える必要があったこのタイミングで、お金を払わずに武器を打ってくれる上に報酬まで貰えるなんて。
まさに渡りに船と言っていいだろう。
だけど、
それはあまりにも、都合がよすぎる。
「...正直、あまり信用できませんね。あまりにも僕達にとって都合がよすぎる。」
「そうか? 行ってもらう採掘場はなかなか曲者だぜ?」
「だとしても、です。」
「....そうかぁ。」
おじさんはぼやくようにそう呟いて、ボリボリと頭を掻きむしる。少し考え込むように眉間を指で揉みこんで、ため息と共にドカと床に座り込んだ。
「...あんたの剣と、会ったことがある。つったらどうだ?」
「...っ!」
「...?」
ティオの、剣?
会ったことがある?
「頼み込まれちまったからなぁ、仕方なく協力してやってんのよ。 こんなもんでどうだ?」
「.....分かりました。依頼を受けさせていただきます。」
あいよと、
そう笑うおじさんの声を背中に受けてティオは戸に手をかける。 話は終わりらしい。そのまま、何も言わずにティオは工房を後にした。
「ノル、おめぇも大変だなぁ。相棒があんなんだと。」
「相棒って.....」
相棒なんてそんないいもんじゃない。私はあくまでもティオにくっついているだけだ。ティオの力の恩恵を受けようと取り入っているだけだ。
相棒なんて、
そんな対等な関係じゃない。
「キールとっ捕まえて『二番の炭鉱に一緒に行くことになった』とでも伝えといてくれ。 伝わるはずだ。」
「わかった。何から何までありがとう。」
「なぁに、鉱石採ってきてくれりゃあオレだって助かるんだ。旅は道ずれってな。」
「その言葉ってその後が大事なんじゃないの?」
おじさんに軽く手を振って、ティオを追うために戸に手をかける。キールを探して伝言を伝えて、そして採掘場へ。この後の段取りを頭の中で組み立てながら戸を開くと、
「あ、ノル。...これ、どうしたらいいと思う?」
困ったような顔をしたティオと、工房側の壁に顔を擦り寄せながら眠りこけるキールがいた。
「何こいつ、なにしてんの...?」
「たぶん気になって会話を聞こうとしたんじゃないかな?それで...」
「そのまま眠っちゃったってこと?.....はぁ。」
こんなアホを連れていかなければいけないという事実に、痛む頭を抱えることしか出来なかった。
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なんてことがあって、そんで叩き起したキールにおじさんからの伝言を伝え、共に件の採掘場へやってきたわけだ。
『グレイゴルド採掘場』
ここは私たちの街から30キロメートルほど離れた場所に位置している。
キール曰く、元は近くの村の領主が権利を有していた場所だったが、突如魔獣が大量発生したためにその権利を放棄。
法律上、権利を放棄された土地はその後一年間は個人のものとして扱われるらしく、そのためにここ一年間は手付かずだったそうだ。
「いつ、誰が再びこの採掘場を買っちまうかわかんねぇからなぁ、個人のものじゃ無くなるその瞬間を狙って侵入、そのままガッポリと鉱石をぶんどっちまえばいい。」
キールが言われた、おじさんの言葉らしい。
盗みをしてるみたいで少しだけ気が引けるけども、まぁ合法ならばいいだろう。
「ん〜...こんなとこにキールが一人で来たら間違いなく死んじゃうと思うだけどなぁ...」
「二番って言ってたんなら元は違う場所に採りに行かせようとしてたんじゃないの? もしくは単に買いに行かせようとしてたか。」
「あぁ、なるほど。」
独り言に反応したティオの言葉に納得して頷き返す。おじさんがキールに頼んでいたって言っていたものだから不思議だったけれど、それだったら納得だ。
「魔獣もどっさりいるらしいし、稼ぎ時だね。」
「ん、でも僕がいるからって油断しないでね。今回はそこそこちゃんとした武器もあるんだからノルも戦ってよ。」
「はいはーい。」
そう、私たちには今回れっきとした私たちの剣がある。鍛冶屋を出る際おじさんに投げ渡された(抜き身のまま。絶対許さない。)それは、おじさん曰く
「ちゃんと入れ込めなかった所謂なまくらだ。が、まぁそこら辺の木っ端名剣よりもずっと使えるだろうこたぁ保証する。餞別に持ってっとけ。」
との事。
そこらへんの木っ端名刀という、おじさんの自信に満ち溢れた言葉に軽くドン引きつつも軽く振ってみると、確かにそれは手に馴染むものだった。
そんな私を見て、「ノルが戦うくらいなら俺がやる!」と騒ぎ出したものだから気絶させてそれを沈め、意識が朦朧としたままのキールを連れてセントラルを出たのが24時くらいの話。
それから足の遅いキールに合わせて、10時間かけてここにたどり着いたのだった。
「キールまだ起きないの?」
「もう問題ないから多分あと数分もあれば起きると思う。ほんとは安静にした方がいいんだけどねぇ...」
「でもキールがいないとどれが使える鉱石かなんて分からないし。」
私たちでは鉱石の種類や、価値の高い鉱石なんてのは分からない。その点においてはキールの力が必須だ。
「ぅうん...」
「あ、起きた。」
「ほんと?」
「ここは.....」
やっと目が覚めたキールはキョロキョロと辺りを見渡して、パチンと手を打った。
「そうだった、グレイゴルドに来ていたんだったな。...だとしたら俺はなぜ寝ていたんだ?」
どうやら衝撃で少し記憶が飛んでいたようだ。
ティオが信じられないものを見るかのような目で、侮蔑をこちらに向けてくるのを感じる。記憶まで飛ぶほど強く蹴ったつもりは無いんだけど...
「おっと、すまないな。どうやら手を煩わせてしまっていたらしい。」
「あぁ、いや、こっちこそごめん...」
「? 何をノルが謝る必要がある。さぁ、時間が惜しい。早いところ潜り込むとしよう。」
.....悪いやつじゃないんだよなぁ。
未知の状況で真っ先に私や見知らぬティオではなく、自分の不手際を疑う辺りにその善性が伺える。一部奇行さえなければなるほど確かに学校に置いての偶像としてこの上なく相応しいだろう。
そんなキールの言動は私の罪悪感を刺激するには十分すぎるものだった。
「ねぇキール。今度ご飯奢るね。」
「うん? ...おぉそうか!デートの誘「それは違う。」」
これさえなければ。
「むぅそうか...まぁひとまずそれはいい。ティオ、ライトを貰ってもいいか。」
「んっと...これ?」
「ああそれだ。ありがとう。さぁ、入ろう。」
そう言って手招きをし、揚々と暗闇の中を進んで行くキールの背中を追いかける。
大丈夫、気は抜かない。
気を引き締め直して、私は暗闇の中に一歩を踏み入れた。
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