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16ページ目:怖いやつと会いたくない鍛冶師

「うぐぅ.....」

「そりゃそうなるでしょ。僕に頭突きしたら。」


 ケラケラと笑うその振動が痛む頭に響く。

 諸悪の根源(厳密には違うのかもしれないけれど)のくせしてあっけらかんとしているその様子に苛立ちは募るばかりだ。


「まぁ、その...ごめん。こんなことになったのは全部僕のせいだし、巻き込んじゃった。」

「それはどうでもいいよ、大体予想してたし。街ひとつ襲われる規模だとはさすがに思ってなかったけど。」

「.....! ...そっか.....よかった。」


 私の言葉にティオはびくりと身体を震わせて、どこか嬉しそうに口端を上げる。 何を笑ってるんだ。 何も良くないわ。


「もうこの際、なんでそんなことを知ってるの、とかは聞かない。」


 答えてくれるかもわかったものじゃないし、答えてもらっても理解できるかも分からないし。

 時間もないだろう。 それに、本当にそんなことが、街を襲撃されるなんて事件が起こるのであれば一番重要なのはそこじゃない。

 重要なのは──


「でも、これだけは聞かせて。あなたは、」


 ティオは、《朱の英雄》は、


「私たちの味方なの?」


 もしも、襲撃犯と仲間だとしたら? 身内でないにしても手を組んでいるのだとしたら? 今までの私たちにみせた顔が全て演技でしかなかったら?

 最悪なのはそんな場合だ。

 私たちには抵抗の余地なんてない。


「...それ、直接聞いて意味あんの? 嘘つくかもよ?」

「つかないよ、ティオは。」

「...なんでそんな信じられるのかね。そこまでいくと狂人だよ。」

「人なだけマシだよね。」


 ティオは、深くため息をついた。

 呆れとか、驚愕とか、喜色とか、あとたぶんちょっとの恐怖とか。

 おぶられて、密着してる今だからこそ、力の入れ方とかそういうので少しだけティオの感情の揺れがわかる。


「...味方だよ、僕は。人間の、ノルたちの味方だ。」


 観念したようにティオはそう言って項垂れる。

 背中には私が乗っているんだぞ。項垂れるな。傾いて怖いだろうが。


「お前、本当に怖いよ。」

「結構。」


 信じないで死ぬより、信じて死ぬほうがよっぽどいい。


「それで、どうするの? その...やばいやつ?」

「僕だけじゃ無理。だから戦力を増やしたんだ。」

「戦力を増やした... あ、」


 そういうことか。


「だから私だけじゃなくて、お母さんとサリアさんにも魔力の使い方を教え始めたんだ。」

「正解。」


 元々は教えてもらうことになっていたのは一緒に旅に出る私だけ。 だと言うのに気まぐれみたいに2人にも教え始めたのがずっと気にかかっていたけどそういうことだったのか。

 .....いや、待って。


「それお母さんとサリアさんに言ってないよね。」

「言ってないね。」

「...最っ低。」


 自分の知らぬ間に戦禍に巻き込まれてるってことになるよね、それ。

 私はいいよ? 別に。巻き込まれることは承知の上でティオと一緒にいる訳だし。 でもお母さんとサリアさんまで巻き込んで、しかも当人には何も言わないとか...

 それはさすがに引く...


「ん、まぁ...自分でも酷いやつだなとは思うけどさ、そうするのが最善だったんだ。 あの2人だったら力があるのに逃げる、なんてことしないだろうし、確実な戦力として数えられるから。」

「だからって.....」

「ちゃんと謝るよ。許してくれるまで、許してくれなくても。サリアさんなんかには、今度こそ殺されちゃうかもだけど。」

「いやそれは、...どうだろうなぁ.....」


 殺すなんて流石にそんな物騒なことは無いと信じたいが、あれだけ嫌っていた──今はどうかは分からないけど──《朱の英雄》ことティオに、知らぬ間に命をかけさせられてたなんてことを知ったらどうなるか......あんまり考えたくない。

 いや、お母さんだってそうか。


 むしろ、怒りの湧いてこない私が少しズレているのかもしれない。

  命がかかっているのに、街の人達が犠牲になるかもしれないのに、少しだけ、ほんの少しだけ楽しみだと感じている、私が。


 ずっと、ずっとずっと、今を変える平凡でない何かが欲しかった。 ティオとの出会いはきっと私が待ち望んだものだったから。


 だからなのだろうか。


 微塵もティオへの怒りも、苛立ちも湧いてこないのは。


「そもそも、どうして今まで話してくれなかったの?早くに言ってくれれば良かったのに。」

「...嫌われたくなかったから、心の準備ができなかったって言うのがひとつ。」


 言わない方がより敵意は強く向くと思うのだけれど...やっぱティオもどこかズレてる。

 だから落ち着くのかもしれない。 信じられるのかもしれない。 ズレたもの同士、ピッタリと噛み合うのかも。


「もうひとつは単に確証がなかった。襲撃なんて起こらないかもしれないのに、むやみに騒ぎ立てることもないだろうと 思ったんだけど...」


 ダメだった。

 端的にそう締めたティオはため息を一つつく。


「さっき、襲撃犯が現れるだろう場所に行ってみたんだけど、ハチャメチャにデカくて強い歪みがあった。多分あそこから来るんだと思う。」

「...そんなことまで分かるの?」


 だとしたら、例えば罠を仕掛けたり、あらかじめその歪み?とやらを対処する訳にはいかないんだろうか。

 っていうかさっきって...もしかして私がうさぎに悪戦苦闘してた時か? 私のことをほっといてそんなことをしてたのか?


「罠はもう仕掛けた。...けど多分効果は薄いだろうね。歪みそのものに干渉するのは.....今の僕には難しい。せめてあと2つ、出来れば3つほど宝玉を取り込めればまだ.....」


 宝玉。

 『血縁』の人たちが守ってる《英雄》達の力の塊。

 うちにあったのは一つだけだった。それだけじゃあティオのベストからは遥かに遠いようだ。


「まぁないものねだりしてもしょうがない。とにかく今はノルたちが魔力操作、魔術を一定以上習熟させるっていうのと、そこそこ使える武器を手に入れるのが目的になるかな。」


 魔術?

 どこかで聞いたことがあるような気もするけど.....


「魔術っていうのは魔力操作とは違うものなの?」

「ん〜...魔力を使ってごちゃごちゃするっていうのは一緒なんだけど...魔力と魔力に関しては、体力と運動みたいな関係かな?」

「うん...?」


 あまりピンとは来ないけれど...魔術のために魔力を使う、みたいなことだろうか?


「あんまり難しく考えなくてもいいよ。 それより今、重要なのは武器の方だ。」

「武器?」

「剣とか、斧とか、相手を攻撃するための道具。」

「それは分かってる。」


 バカにしやがって...

 にしても武器か。


「ティオにそんなの必要なの? オスロのときも大熊のときも、素手で倒してたじゃん。」

「僕はこれでも剣士なんだよ、実は。剣があった方が戦いやすいし、剣が無いと使えない技もある。」

「ほぇー...」


 言われてみればオスロに襲われた私を助けてくれたとき、ティオの手には剣が握られていた気がする。

 一振りで砕け散っていたが。


「だからノルには腕の良い鍛冶師とかを紹介してもらいたいんだけど... 心当たりある?」

「う〜ん...いな、くも、ないけど...」


 一人だけ、一家だけ、心当たりはある。

 でもなぁ、あんまり頼りたくないというか、関わりたくないんだよなぁ... 父親の方はともかく息子の方は。あれに貸しを作るのはあんまり気が進まない。


「一家って言うと...代々鍛冶師をやってる家系、みたいなこと?」

「そうそう。確か...お父さんの方が十七代目とかだったかな...?」

「いいね、腕は信用できそう。.....んで、なんでそんな不満げなわけ?」

「いや...あんま会いたいタイプの人間じゃないから...」

「...? 頑固オヤジとか?」

「ううん、息子のほう。おじさんは普通に気さくていい人だよ。」


 しかしまぁ、四の五の言っていられる場合でもないだろう。鍛冶師と言うだけならともかく、武器鍛冶をしている、しかも腕が保証されているとなれば、この街広しと言えどあそこしか思い当たるところは無い。

 依頼所で働いていて、魔獣討伐依頼を管理しているサリアさんや、宿兼酒場を経営していて情報には聡いだろうお母さんならばなにか他にも知っているかもしれないけど。


「ちなみに、お母さんとサリアさんはどうするの? 戦ってもらうんでしょ?」

「いや、あの2人にはいらないでしょ。」

「へ?」


 いらない?

 武器がいらないってこと?


「まさか武器を持たせずに戦場に行かせるつもり?!」


 そりゃあ2人とも怒ったら鬼のように怖いし、たまに角が見える時もある気がするくらいのものだけど、それでもあくまでも鬼じゃなくて人間とエルフだ。

 その上で女性だと言うのに...やっぱり《英雄》っていうのはどこかイカれてるのかもしれない。


「なぁにを勘違いしてんのか知らないけど、『いらない』ってのは『必要ない』ってことだからね?」

「? だから武器も渡さないで戦わせるってことじゃないの?」


 私の言葉に、ティオはこれみよがしにため息をついた。


「あの2人は『血縁』ってやつなんだよね。」

「うん? そうらしいね。それで言うなら私もそうらしいけど。」

「サリアさんが言ってたでしょ、「『血縁』は伝えられている特殊な訓練を行う」って。」

「.....あぁ、言ってた、ような...?」


 大熊を倒したその日だったろうか?確かにそんなことを言っていた気がする。

 特殊な訓練をやらされてた。やらざるを得なかった。

 朱い宝玉を護るために。


「そんでオスロに抗戦してた時、ニアさん足技使ってたよね?」

「うん、それは覚えてる。」


 いつもはぼんやりしてるお母さんがあんなことをできるなんて思ってもみなかったから正直驚いた。だから記憶に新しいのかもしれない。

 その技の悉くはオスロの皮膚装甲のせいで意味をなさなかったのだけれど、あの動きは確かに素人目に見ても鋭いものだった。


「...ん?そん時ティオいなかったよね?なんで知ってんの?」

「あっ...」

「あっ、って何?!」


 それはともかく、と仕切り直すように咳払いを入れるティオ。

 絶対に忘れないからな...


「あれ、見てる限り多分『血縁』の家系では戦闘訓練もされてると思うんだよ。」

「ん、なるほど...?」


 朱い宝玉を護るために『英雄』のうちの一人が作ったシステムが『血縁』だということらしいし、戦闘を想定してその訓練法を伝えていた。

 ティオはそう考えているようだ。


「ニアさんは足技で、サリアさんは分からないけど多分弓術。だったら鍛冶屋に連れて行っても作ってもらうものがないでしょ。...足甲とかは、ちょっとわかんないけど。」

「ちょっと待った、なんでサリアさんが弓術だって思うの?」

「エルフって言ったら弓でしょ。」


 .....

 そうなのか?

 はっきり言って私にはそのイメージは全く分からない。多分旧世界ではあるあるなんだろうけど...


「それに手の形と重心の位置とか、他にも色々。十中八九、弓を使う人だと思う。」

「んぅ...まぁ、ならいっか。」


 説得力のある根拠があるなら先に言えばいいと思う。

 全く...


「それじゃあいつ行く?明日は魔力操作の練習でしょ。」

「明後日にしよう。昼の休み時間。早い方がいい。」

「りょーかい。」


 ようやく大きな話が終わって、まだ何も解決自体はしていないのだけどその達成感からか、それともティオの背中に揺られているせいか、少し眠くなってきた。


「...眠い?」

「ちょっと、いや、かなり...」


 ふふっ、と吹き出すようにティオが笑う。


「まぁ今日は頑張ってたしね。夜の仕事まで時間あるし、まだ街にもつかないし、少し寝たら?」

「ん、そうする...」


 くすくすと笑いのやまない様子のティオの肩に顎を乗せ、薄くを目を瞑る。

 どうやら随分と、思っていたよりも私のからだは疲れていたみたいで、私の意識はすぐさままどろみに包まれていった。


「おやすみ。」















「ありがとう。」


 そう聞こえたのは夢か現か。

ブックマーク等々よろしくお願いします。

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