13ページ目:講座?と金策
そして始まった講座とやら。
その内容は思っていたよりも献身的で、正に手取り足取りと言った感じだった。出来なかったらできるまで付き添ってくれるし、出来ればしっかり褒めてくれる。
なんというか、そりゃあハードでスパルタな練習よりもずっといいのだけれど、夜には結局仕事もあるし、しかしそれはそれとして、思っていたよりも...
「普通。」
「は?何、いきなり。」
「ごめんなさい、なんでもないです。」
さすがに少し怒気のこもった声だったせいで口を噤んでしまった。態々自分から怒らせるつもりも、そんな趣味もない。ただどうしても普通では無い何か、を期待してしまっていた。
まずは基礎を反復練習。
応用はそれが終わったその次で。
できるようになるまで手取り足取り教えます。
学習塾か?
「学習塾ってこの世界にもあんの?」
「ええ、よく広告のビラなんかも張り出されてると思うのだけれど。」
「ほんとですか? 気づかなかったな...」
「ノルちゃんも昔は通ってたんですよ。最初は行きたくない〜って駄々こねちゃったりして。」
「そんなこと態々言わないでよ! ...っていうか声に出てた?」
「イントロからずっとブツブツ言ってたよ。」
「おぉう...」
気をつけてたつもりだったんだけど... まあ癖なんてそりゃ簡単に直せるはずもないのはわかってるけどさ。
「そろそろ暗くなってきたし、一度切り上げようか。僕たちも仕事しないとだし。」
「うえ? もうそんな時間?」
空を見上げると確かに日がくれてきている。にしては明るいなと周りを見渡してみると少し離れたところに小さな光球がぷかりと浮かんでいた。
あれのおかげで明るかったのか。多分ティオの仕業だな。
それにしても、今日は昨日私がやっていたようなことを繰り返しただけで終わってしまった。しかもその割に誰も成功することがなかったし。
そのくせへらりとしてるティオの態度がやけに気にかかる。何も考えてないというか、何も焦っていないというか。いやそりゃ何も急ぐことなんてないんだけど。
「仕事... そういえばあなたがお店で働いているところを見たことがないのだけれど、裏で働いているの?」
「へ? いえ、全然接客してますよ?」
「は? 接客って... ノルちゃんと新しく入ったっていう娘しかいなかったと思... まさか...!」
「あれ? 知らなかったです? あれ僕です。」
「...嘘でしょう?」
「気づかなかったんですか? じゃあ気絶させられて攫われた時の女の子は誰だと思ってたんですか。」
「気絶させられ...?」
「女、の子...? ...実はあまりその時の記憶が無いのよね... 声をかけられたのは覚えているのだけれどその後は気づいたらこの森にいて...」
「.....ごめんなさい。もしかしたら電力強すぎたかもしんないです。一応健診しましょう。後で時間ください。場合によっては責任取ります。」
「ちょっと待ってください。気絶ってなんですか? ティオ様はサリアに何をしたんですか?!」
「...あなたって少し秘密主義がすぎるんじゃないかしら。」
「言いたくないことが多いんですよ。」
お母さんとサリアさんを含めて雑談に興じているティオをぼんやりと眺める。っていうかかお母さんもサリアさんもちっとも疲れが見えないのはなんでなんだろう。
それはそうと私にはティオが何を考えているのか全く理解が出来ない。そもそもがやっぱりお母さんとサリアさんにも魔力の使い方をおしえているのが釈然としないというか...
またあんなやつが来た時のためにというのは嘘では無いのだろうけど、どうもそれだけでないような気がする。
力を取り戻すために世界を巡る、だなんて言っといてほとんどそのために動いていないのも気になるし... 私が魔力をある程度扱えるようになるまで待っているのだろうか。
「ノル、そろそろ帰るよ。」
「...あっ、わかった。」
思考を声に打ち切られ、顔を上げると目に入った、大きく手を振るティオの元へ駆け寄る。
今夜、もし時間があったら聞いてみればいいか。
「ジャンプと飛行、どっちがいい?」
「「「ジャンプだけは嫌だ。」」」
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「ほんとに性別を変えられるのね。」
「何回言うんですか! そんなににまじまじと見られると流石に恥ずかしいんですけど...!」
「...驚いた、ティオにもそんな感情があったんだ。」
「ノルってたまに私の事、異常者かなんかだと思ってるよね。これでもそこそこ常識人のつもりなんだけど。」
そんな冗談を言い合いながら、私の部屋に向かっているのは私と、ティオと、サリアさん。
仕事終わりに健診ついでに聞きたいこと話しておきたいことがあるとか何とかで私の部屋に行くことになったのだ。サリアさんを態々、私たちの仕事が終わる時間まで待たせてしまったから、と軽い食べ物を手にして。
「なんで私の部屋なんだろう...」
「いや、流石に私の部屋に連れてくわけにはいかないでしょ。男の一人部屋だよ?」
「男...男? ...結局ティオはどっちなの?」
「ん〜... 強いて言うなら両性、どっちもって感じかなぁ。男の時は男、女の時は女。」
「ややこい。」
「しょーがないじゃん...」
なんて言っている間に私の部屋の前に着いて、扉を開けて中に入る。椅子はひとつしかないからサリアさんにそこに座ってもらって、ティオと私はベッドの上に腰掛けた。
持ってきたサンドウィッチは部屋の真ん中の丸机に置いておく。
椅子をベッドに寄せてもらって、いつかの質問の時のように向かい合う形になった。
「さてと、とりあえず...サリアさん、両手をこう、出してもらっていいですか?」
そう言ってティオは両手を前に突き出して全ての指を広げた。サリアさんは言われた通りにおず、と広げた両手を前に伸ばすと、ティオはそれに自分の指を絡めてゆっくりと握り込む。
すると繋いだそのてが淡く青色に光り始めた。突然手を握られて、声を荒らげかけたサリアさんもその光景を見て閉口する。ポワ、と輝くそれをただ見ていた私たちに気がついたティオはくすりと笑った。
「今、どんなふうに見えてる?」
そんな質問を唐突に投げかけてきたティオの意味は図りかねて、ただ首を傾げる。
サリアさんも同様に首を傾げていて、しかし目に見えているであろうそれを述べ上げた。
「あなたが急に指を絡めて手を握っていて、その手が淡い光を発している、という感じかしら。」
「色は?」
「...青」
サリアさんが答えると、ティオはさらに笑みを深めた。
私の方を向いて、同じように見えているかと尋ねてきたティオににただ頷くと、満足そうに鼻を鳴らした。
「そこまで見えてれば重畳だね。」
「...色の何が関係あるの?」
ティオの、重畳と言ったそれの意味がまるで理解出来ない私は、思ったままの疑問を投げかける。
「魔力の動き、強さ、色が見える。っていうのは基礎で、つまるところ第一歩目なんだよ。今まで、私が力を使うときに光が見えたことがあった?」
言われて、記憶を辿る。
オスロとの戦いに始まり、今まで。言われてみれば今日のような魔力を使っているであろう場面で彼、彼女からこれに似た光が放たれているところは見たことがないような気がする。
わかりやすいのは練習の前のデモンストレーションだ。
私の目には何も無いところから突然剣が現れ、前触れもなく次々と姿を変えていたようにしか見えなかった。
「身体の魔力に触れて、その力を身近に置くことができたから、今2人の目には魔力が見えているんだ。」
これは大事なことなんだよ。
と、そうティオは続けた。
「ま、今はわかんなくてもいいけどね。それとサリアさん。」
「? 検査が終わったのかしら?」
「ああ、ごめんなさいそれはまだです。『水』は少し苦手で... それとは別に聞きたいことがありまして。」
水、という単語は気にかかるが、ティオはそんな私の疑問に関係なく聞きたいことを口にした。
「前に、おっきい熊さんを倒したじゃないですか。」
熊さん...
「それのコアを換金したら50万になったんですよ。」
「ご、50万?!」
「あら、随分大金ね。まあ、あのサイズなら危険度も相当でしょうし当然だろうけれど。」
「はい。それはまぁ良かったんですけど。」
2人とも冷静すぎやしないか?
とも思ったけど、この2人は普段からあまり騒ぐようなタイプでもなかった。こうなるとお母さんの反応が欲しくなる。今はキッチンで明日の仕込みをしているのだろうか。
漠然とお母さんがいるであろう方向の床を見つめた。
「それでですね。世界を巡る旅に出たいのでそのためのお金を貯めたいんですよ。ひとまず250万ほど。」
──ところでの、ティオの言葉に、心臓が跳ねた。
その言葉を投げた対象は私じゃなくて、何も知らないはずのサリアさんだと言うのに、まるで図星をつかれたような、そんな気分だ。
「ふぅん...旅、それに250万、ね。」
「あれ? あんまり驚いてないですね。寂しがることはないにしてももっと大きな反応があると思ってたんですけど。」
「だって大してあなたと親しくないもの。そういうのはニアに望みなさい。きっとあの子は泣いてくれるわよ。」
「いや、それはちょっと重いかなぁ...」
世間話をするかのように談笑を交わす2人。
そのさなかで、サリアさんの視線がほんの一瞬だけ私に向けられて、そしてスっとその目を細めた。しかし、彼女は何も言わずに再びその目をティオに向ける。
私は、どんな顔をしていたんだろうか。
「そうね...かなり厳しい、と言わざるを得ないでしょうね。」
サリアさんはティオの疑問に先回りするようにそう答えた。
「と、言いますと?」
「まず第一にあんな大物、そうそう現れないわ。あのレベルの魔獣があと4匹もいたら軍が動く規模だもの。」
本来、魔獣というのは生態系に適さない害獣程度の認識のものだから、例えばうさぎ型の魔獣とか、リス型の魔獣とか、大きくてもイノシシ程度のものが最大級だったりするそうで。
それだって多少の危険があるから、ハンターと呼ばれる人達が出張るようなものらしい。
先日ティオが倒した、人の生活そのものに大きく影響を与えられるアレは規格外と言っていいそれだったようだ。
サリアさんのそんな解説に、相槌を打ちながら耳を傾ける。
「そしてそんな小型の魔獣はそんな規格外と違って単価がかなり安いの。とは言っても1匹、1万〜2万程度はするでしょうけど、残念ながらこの辺りの魔獣全てを狩っても、100〜200匹には遠く及ばないわ。」
「んぇ? 魔獣ってそんなに少ないの?」
「年に一度くらい、軍がいろんな場所を回って魔獣を掃討していくんだよ。だから異常事態でもなければ魔獣は大した数が残らないの。」
「へぇ、手間かかってるなぁ。」
「まぁ、そのための税もあるくらいだから、それくらいしてもらわないと困るのだけれどね。」
それでも決して絶滅はしないのだけれど。
なんて、忌々しそうにサリアさんが呟いて、そして数瞬の沈黙が生まれた。そんな沈黙のうちにどうやら健診は終わったようで、青い光はその姿を潜め、繋がれていた2人の手は離された。
「終わりました、問題はなさそうです。記憶障害は...まぁ、経過観察ってことで。」
二パッと笑ってサリアさんにそう告げたティオは、そのままばたりとベッドに倒れ込んだ。
「良かった良かった。治すのは苦手なんで問題あったらどうしようかと思ってましたよ。」
さて、と仕切り直すように言葉を挟んで、座り直したティオは表情を真面目なそれへと張り替える。顎に手を当て、少し考え込んでいるティオにサリアさんが声をかけた。
「それでもあなたなら着実に稼げるでしょうけど.....それは早い方がいいのかしら?」
「いえ、最低でも2ヶ月はこの街にいるつもりなんですけど、まぁ、できるならその後すぐにここを出発できるくらいには早い方がいい、って感じですね。」
ふむ、
とサリアさんは息を着く。自分とは関係の無いことにここまで真剣に悩んでくれる(しかも空いては自分で嫌いだと言い切ったティオだし。)サリアさんはやっぱり親切な人だなぁなんて、すこし的外れな感想が頭をよぎって、瞬間サリアさんに睨みつけられてしまったものだからブンブンと頭を振って思考を切り替える。
...2ヶ月。
よく考えて見れば私はその話を聞いていない。
私のわがままで、1人でも問題ないティオに無理について行くわけだから、もちろん文句は言わないけれども、予定を伝えるぐらいはして欲しかったな...
まぁそれはいいとして。
なんで2ヶ月なんだろうか。何かイベントがあるわけでもないし... ただの基準、というだけか?
そうだとしても2ヶ月で200万を稼ぐ手段なんてあるのだろうか? 少なくとも私には思いつかない...いや、何個かは思いつかなくもないけど、どれも考えたくもないくらいの酷い手段だ。
「ちなみに現在確認されている魔獣は、猪型が五体、兎型が12体といったところね。」
「全部倒して、コアを売り払って、だいたいいくらですか?」
「およそ25万。」
「...凄いですね。全部覚えてるんですか?」
「これくらいは普通よ。」
利用されることの少ない魔獣依頼の金額を全て把握してるのは普通ではないと思うけどそれはそれとして。
結局私たちは100万以上を何らかの手段で稼がないといけないわけだ。
「どっちにしろ旅の中でも収入けは必要だし、ここはよくある旧世界の知識を活かした商売でも始めてみるべきかな.....」
「よくある?」
「私の世界ではあるあるだったんだよ。」
「それがあるあるだったの...?」
いまいちイメージがつかない。
こういう新世界と旧世界のギャップを修正しようだなんてずっとティオも私も思ってはいれど実行してなかったのだけど、そろそろ始めるべきかもしれない。
それこそ一緒に旅に出るんだったら──
「そうね、ノルちゃんはよく食べるから。食費を普通に計算してたらいくらあっても足りないものね。」
「やだなぁサリアさん。私だって我慢と節制するくらいできますよ。」
「あ、バカ!」
「へ?」
なんか変なこと言った?
「ふぅん.....」
慌てたように私を制するティオに対し、首を傾げていると。ザリアさんが得心がいったかのような声を上げていた。
それはそれは低い。地鳴りのような声だった。
「やっぱりあなたもついて行こうとしてたのね?」
「.....あ。」
そういえば私、誰にもこのこと行ってなかった。
.....
やっば。
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