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12ページ目:実演と約束

「それじゃあ魔力の使い方講座を始めまーす。よろしくお願いしまーす!」

「よろしくお願いします!」

「.....」

「...いやいや、いやいやいやいやいやいや。」


 現在時刻午後3時。

 午前のうちにするべき仕事を終えた私とティオは、夜の酒場と宿の仕事の合間に魔力の練習をするために、以前大熊を倒した時にやってきた湖へとやってきていた。

 しかし湖を背に胸を張るティオの掛け声に合わせて、元気よく声を上げて深くお辞儀をしたのは私のお母さんで、そんなお母さんの隣で呆れたようにため息をついているのはサリアさんだった。


「どしたの? 御手洗行き忘れた? 一旦帰る?」

「嫌だ! ...ってそうじゃなくて、なんでお母さんとサリアさんがいるのさ!」


 ちなみに今回ここに来た方法も抱え込まれての大ジャンプだった。前回のこともあって若干のトラウマになりつつあるそれを、帰りも実行しないといけないわけで、もう既に少し憂鬱だ。

 とまあそれは余談として、何故かティオはお母さんとサリアさんも連れてここに来た。

 拉致では無い。念の為。

 今回"は"しっかりと2人ともの了承を得た上での運搬だった。...お母さんは移動方法を知らなかったせいで悲鳴を上げてたけども。


「宝玉がもうないとは言っても、今後ああいうのが来ないとも限らないし対抗策を身につけておくに越したことはないでしょ。」


 ああいうの、と言っているのはおそらくあの真白の大男のことだろう。けど、とは言っても、あれから全然音沙汰もなくただただ平和だったというのに警戒する必要があるんだろうか。


「『あれから一切アクションを起こしてこないからこの先も何も起こらない。』なんて都合が良すぎるとは思わない?」


 .....この読心術にも、もう慣れてきちゃったなぁ。


「僕の人生に都合のいいことは起こり得ない。」

「...なにそれ。」

「モットーというか、生きる上での前提条件みたいなもの、かな。」


 どこか自虐的に、そう言って一笑したティオは仕切り直すようにパンと手を叩いて鳴らした。


「とにかく、ノルに教えるんだったらまとめて教えちゃおって思ってね。」

「ううん...意図はわかったけどさぁ...」


 理解できても納得できるかはまた別の話なわけで。正直、サリアさんはともかくお母さんが居るのはやりづらいのですよ。


「ちなみにお母さんとサリアさんはなんで来ようと思ったの?」

「...私は単に興味があったから、ね。」

「興味。」

「だって面白そうでしょう?」


 まぁ否定はしないけども。私だって魔力を使えるって話を聞いて最初の感想は『面白そう!』だったわけだし。サリアさんがそんな動機で行動するっていうのは少し意外だ。


「長命種の中では、かなり『興味』という感情は行動原理になりやすいわよ?長い年月生きるわけだから刺激が欲しくなるの。」

「.....サリアさん。私ってそんなに顔に出てる?」

「ええ、あなたは昔っから考えてることが全部顔に出るわよね。」

「ほんとにそうなんだ...」


 そういえばサリアさんもよく心を読んでくる人だった。これはちょっと本格的に対策を考えるべきかもしれない。考えること全部って、あんなことやそんなことを考えてる時も表情に全部出てたかもしれないって最悪すぎる。ティオにポーカーフェイスでも教えてもらおうかな。なんかできそうだし。


「それで、お母さんは──」

「ティオ様に教えてもらえるのだから来ないわけにはいかないでしょ?」

「うわぁ.....」


 食い気味の返答に口端がひきつるのを感じる。複雑な感情なんてものは一切なく、ひたすらにドン引いてる。


 少しの間見ていてわかったのだが、どうやらお母さんはサリアさんのようにティオのことを、『英雄』のことを恨んでいるというようなことはない、どころか信仰というか、偶像崇拝めいた感情を抱いているらしいのだ。

 サリアさん曰く、昔から英雄の、それも朱の英雄の伝承なんかを聞く度に目を輝かせていたとか。思えばティオが土下座した時も、1番慌ててたのはお母さんだったなぁ。

 私としては本当に勘弁して欲しいところだ。

 目の前で母親が自分と同じくらいの年齢の男の子にハートを飛ばしている状況というのは見ていて辛いものがある。いたたまれないというかなんというか。

 ティオが歯牙にもかけていないのがよりいたましさを増している。


「まあ使い方、って言ってもまずは簡単な操作方法からだけどね。」


 そう言ってティオは手招きした。こちらで行われていたやり取りの一切を気にしていないみたいだ。

 言われるがままに近づくとティオはおもむろに私とお母さんの手を握った。途端、お母さんはガチンッと全身を硬直させてしまった。


「...ティオ、わざとやってるでしょ。」

「んー? 何が?」

「お母さん死んじゃうよ。」

「あはは! だってちょっと面白くない?」

「娘としては恥ずかしいだけなんだよね。」


 私の文句も何処吹く風、ティオは続いてサリアさんに私とお母さんの手を握るように言った。サリアさんは少し逡巡して言われた通りに私とお母さんの手を取る。

 手を繋いで円を作るように繋がった私たちを見回してティオは満足そうに頷いた。


「今から僕が直接3人の中の魔力を操作する。それをもって自分の中の魔力という存在を認識してほしい。」

「存在を認識?」

「どこにあるか。どんな形なのか。魔力を動かすとどう感じるのか。そんな感じ。」


 いくよ。

 まだ聞きたいことはあったのだが、それはティオの掛け声によって中断せざるを得なかった。

 ティオは薄く目を瞑って、それと同時に私の手を先程よりも強く握りしめる。


「.....」


 ほんの数秒、音のない時間が訪れた。

 風が吹いて、葉が擦れる音が体の中で響くようなそんな錯覚を覚えるほどに静かで。何も起こらない現状にやや拍子抜けして、詰まっていた息を吐き出した瞬間、手のひらから伝わるティオの体温が大きく増し、その鼓動が大きく鳴り響くのを感じた。


「.....っ!?」


 突然襲いかかってきた不快感にも似た感触に思わず身をよじる。お腹の内側から生えてきた手が、内臓の表面をなぞり歩いているようなそんな感覚。

 そしてその手が私の中にある何かに触れた。


 ドックン


 心臓が跳ねる。

 血流と共に、触れられた何かから液体のような、あるいは気体のようなものが溢れ出し、そして体の内側を満たしていくのを感じた。

 温かなそれは流れを作り体の中を規則正しく巡り、まさしく血液のように循環していく。それはまるでぬるま湯のようで、そんな心地良さに浸っていると、突然隣からくすりと笑う声が聞こえた。


「...?」


 薄く目を開いてそちらの方を見やってみれば、そこには僅かに口端を上げて笑うティオがいて、視線に気づくと口を開いた。


「昔、同じことをしたことがあったんだ。だからなんとなく懐かしくて。」


 そうとだけ言って繋いでいた手を離して、軽く後ろに跳び退がった。

 それと同時にスっと熱が引き、先程まで私の身体に訪れていた不快感も心地良さもきれいさっぱり感じ取れなくなる。


「今、身体を巡ってたであろうそれが魔力。僕らが主に扱っている力だよ。」


 そう言うとティオは顔の前でパチンと指を鳴らした。すると瞬く間にその指先には小さな火が灯る。火の灯ったその指で火を囲うようにくるりと円を書くと今度はその火は小さな水球となり、ふわふわと浮かぶそれを両手でパチンと挟み込んで両手を広げると今度は、そこには1本の剣が創り出されていた。


「やりようによっては質量保存の法則とか、物理法則すら改変できてしまう、非常に便利で、危険な力だ。」


 呆気に取られたままの私たちの目の前で、ティオはその剣を手に取る。途端、瞬く間にその剣は姿を変えていった。

 長槍、薙刀、弓矢、一風変わって狼の人形、小さな立方体。

 そこでティオはその立方体を指先で軽くつついた。

 指先の触れた箇所から立方体はみるみるとその色を質を、輝かしい金色へと変化させていく。

 そうして出来上がったのは、誰が見ても明らかな "黄金" だった。


「だからこれを悪用しないって、それだけ()()してほしい。」


 約束、と彼が強調して言うのだからきっとそれは、口約束とかそんな単純なものではないのだと思う。

 それでも、


「わかった。」


 私にはそれを断る理由なんてまるでなかった。

 私は、力を手に入れて外の世界を見に行く(夢を叶える)んだから。

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