エビフライの最上級
僕らが中学生のころはスマホなんてなかった。
「エビフリャーって、エビフライの比較級だよな?」
「そんなわけあるか」
僕らは教室の片隅で英語の補習を受けていて、原級、比較級、最上級と変化する英単語の書き取りをやらされていた。先生がタバコを吸いに教室を離れてしまい、くだらないことに意識が奪われていた。
「エビフリャーっていうのは、名古屋でのエビフライの呼び方だ」
「いや、名古屋でもエビフライはエビフライらしいぞ」
「そうなの?」
「名古屋に遊びにいった親戚がいってた」
「じゃあエビフリャーってなに?」
「だからエビフライの比較級じゃないの?」
「いやいや、エビフライは名詞だろ? そういう変化するのは形容詞とか副詞じゃないのか?」
「形容詞的用法とか」
「聞いたことがある言葉だが、それじゃない感じがすごいぞ?」
答えを知る術をもたない僕らには、どんどんアホになる道しか残されていない。なぜか自信を抱きはじめた友人と、すでに押され始めている僕がいた。そもそもエビフライは英単語じゃないと否定しても、フライは英語じゃないかと言い返される始末。そんなはずないと否定しつつも、もしかして自分が間違っているのではないかとブレーキがかかる。
「エビフライは形容詞として使えるのかもしれない」
「だとしても、修飾語として使うなら、その意味はなんだ?」
「ぷりぷりしている、とかじゃないか?」
「食感じゃねーか」
「じゃあお前、ぷりぷりしているって英語でどういうのか知ってるのかよ」
「いや知らないけれども」
調子にのった友人はアクセル全開で僕を置き去りにした。
ぷりっとした尻のことを英語ではエビフライヒップという。アキナ先生のヒップはショーコさんのヒップよりもエビフリャーである。マユリ先生のヒップはアキナ先生のヒップよりもエビフリャーである。
「つまり、マユリ先生のヒップは、学内のベストエビフライである」
「いやそこは変化させとけよ!? なんだよベストエビフライって、ただの一番をおいしいエビフライじゃねーか!」
「エビフライの最上級ってなによ?」
「知るかっ! せめてベストエビフライヒップにしておけ! いやなんだよベストエビフライヒップって!?」
友人の勢いに巻きこまれ、自分にツッコミをいれるほどアホになっていた僕は、エビフライ、エビフリャー、???という文字をノートの隅に書いていた。
「先生! エビフライの最上級ってなんですか!」
なぜか強固な自信を抱いていた友人は、タバコ休憩を終えて教室にもどってきたマユリ先生により、その自尊心を木っ端微塵に打ち砕かれた。流れ弾をくらって僕もそれなりの傷を負ったが、友人の傷はトラウマものであったのだろう。
「お~の~れ~、タモ○!!」
エビフリャーの由来を知った友人は、大物芸能人に恨みのこもった怒りを燃やしていた。そんな彼が結成した芸人コンビ「みっくすフライ」が、笑いの祭典、そのファイナルステージの舞台に立とうとしている。