序章 トンネルを抜けたら?
『トンネルを抜けたら、そこは・・・・・・』
まあ、今回は長~い洞窟ですが。
突然、こんな訳の分からん世界に放り出され、理不尽極まりない仕打ちを受け。
それでも。
それでもまあ、何とかなるかなってそう思った矢先。
「グフッツ!!」
暗闇を抜けて、全体的にごっつい岩に囲まれた肌寒くて真っ暗な洞窟から脱出し、もうすぐお天道様のポカポカとした暖かい日差しの中に・・・・・・って、目の前にまばゆい光が立ち込めてきた、まさにそんな時にバッドタイミングは起こるわけで。
腹部にやってきた、突然の激しい痛み。
何かが激しくぶつかったような衝撃で、思わず反射的に後ろへと重心が傾き、臀部と尾てい骨に激しい衝撃が襲う。
何故に?!
もしかして私、ここから出られない?
っていうか、一生出してもらえないのか?!
ずっとこの暗闇の中で、身を潜め声を出さずに大人しくしとけってこと?!
冗談じゃない!!
私は、私のしたいようにするの!
誰の指図もうけないもんね! そう決めたもんね!
なんて、勝手に憤っていると、
「ごめんなさい。大丈夫ですか?」
「え?」
この声。
これがアレか?!
小説とか漫画とかいろんなところでいわれている、いわゆる“鈴の音のなるような声”ってやつ?
そしてまず99.9%の確率にて、美少女設定・・・・・・・。
そう思いながら、声のする自分の胸元へとそっと視線を向けてみれば。
「ゲッ!! マジ?!」
想像以上の、金髪に青い目をしたまさに“美少女”が、そこにいらっしゃいました。
日本人男性平均身長ありの、人生半世紀を終え、いろんな部分のお肉が重力に勝利を収めることができなくなった私なんかとは対照的に、ハリツヤプリっぷりの瑞々しいそれでいて陶器のように白い肌に、男性だったら例外なく全員が守ってあげたくなるであろう、儚げな細身の小さい体。
やっぱあれだよね、女の子はデカいよりも小さいほうが断然いいんだろうなあ。
なんてボーーーーーーーッと、その美しさを眺めていると。
「あの・・・・・、大丈夫ですか?」
図体のデカい私の中に、すっぽりと隠れてしまうように小さくうずくまってプルプルと小刻みに震えつつも、涙に潤んだ美しい青い瞳を私へと向け、心配そうに眉をひそめながら私をまっすぐに見つめ、消え入りそうな小さな声で問いかけてくる。
「え? はあ・・・・・・、まあ、大丈夫ですよ」
お尻は痛いですが。
確か前回健康診断で、オプションで測ってもらった骨密度検査は、医者もびっくりの20代レベルだったから、きっと骨折はしていないはず! ドーナツクッションのお世話にはならないでいいはず!
そう自分に言い聞かせ、美少女を安心させるために、微笑んで見せる私。
っていうか、なんで美少女相手に、カッコつけなきゃいけないの?
私は阿呆ですか?!
その前に、この子、ダレ!
どっから湧いて出てきたの?
確かここは、危険指定魔物がうじゃうじゃ湯水のように湧いて出ていると有名らしい、とある森の中の中心地だって聞いたような。
だから、人っ子一人見当たらないはずって聞いたはずなんだけど。
なのに。
なんでこんなか弱い、武器なんて重くて持てませんって感じの美少女がここにいるわけ?
「んん?」
にしては。
お高そうなアンティークっぽい、中世のお姫様が身に着けていたような(フリルたっぷりの一見ゴージャスそうな感じなのに、彼女の美しさを全く理解していない張りぼての安っぽい感じのする)ドレスをお召でいらっしゃるようですが。
そのドレスも、ところどころ破れて泥で汚れた部分あり。
そしてドレス姿には似合わない、泥沼に漬かったかのように汚れた素足!!
え?
こんなところに、素足で来たの?
危なくない?
しかも、足のあちこちには小さな擦り傷いっぱいで、血がにじんでいらっしゃいますが。
“大丈夫?”
その痛々しい姿に、思わずそう声を掛けようとしたその時。
「良かったです! お願いです!! 私を助けてください!! 邪龍様!!」
といいつつ、美少女はその大きくて澄んだ瞳から大粒の涙をいくつもこぼしながらも、私にしがみついてきた。
「はいぃぃぃぃ~~~?!」
何その、中二病設定!!
突然、思ってもみない言葉を投げかけられました。
この美少女、何やら精神を病んでいらっしゃる!!
やだわ、きっと耐えがたい苦痛を味わいすぎて、現実逃避をしているのね?
まだお若いのに、なんてかわいそうな。
だってそうでしょう?
白馬の騎士的なイケメンでなく、一瞬で消え去る雑魚キャラ的ポジションにしか見えない、私なんかに抱き着いて助けを求めるとか。
50過ぎのオバさん見て、“邪龍様”とか・・・・・・。
ん? アレ? “邪龍・・・・・・”
「どっかで聞いたことあるような・・・・・・」
無意識に首を左に傾け、シナプス細胞が崩壊しつつある自分の脳細胞全集中して、懸命に記憶なるものを探ってみる。
眉間に深いしわを刻み、ウンウンうなりながら必死に思い出そうとしていたその時。
「おや? このようなところでうずくまって、どうしたんじゃ? もしかして転んだのかのう」
背後から、私の大好きな声優そっくりの優しい声が、響いてきたのであった。