カブ太 4
マズイ!マズイ!マズイ!
相変わらず、魔王の奴が何考えてんのかわかんねぇ!
ドラゴンが来たってぇのに潜りもしねぇで、地上に寝てやがる。
ドラゴンが島にいるんだよ!
俺の忠告は完全に無視された。
死ぬならテメェ一人で死ねってんだ。この忌々しい糸を放しやがれ!
そして翌朝には最悪の事態だ。
ドラゴンが近くに降りてきやがった。
辺りは重厚にへばり付く魔力に満たされて、息もできねぇほどだ。
このままじゃ、俺の魔石なんざいくらも持たねぇ。
やりたく無かったが、やるしかねぇか。
一か八か、全魔力を一気に放出し魔石を覆ってしまう。案の定、朦朧としてきやがった。
しかし、上手く仮死状態に入れれば、生き残れるかもしれねぇ。
ドラゴンに目をつけられた魔王は死ぬしかねぇだろう。
魔王とこんな決着は望んじゃういなかったが、仕方ねぇ。
俺の意識はそこで途絶えちまった。
◇◇◇
「(カブ太、助かったな)」
最悪の目覚めだ。未だかつて、こんな酷い朝を迎えたこたぁねぇ。
綺麗な森で死んだ婆ちゃんと話してたらよ、ドカンと魔石に大魔力だ。
「(カブ太!大丈夫か?)」
ウゥ、魔王、生き延びたってぇのか。
どうなったのか分からねぇが、俺も魔王も生きてやがる。
助かったってのか。
魔王が俺を仮死状態から起こしたってのか?
ひでぇショック療法もあったもんだ。
いつもみたいに身体は動かねぇが、まぁ問題ねぇ。
「(いやー怖かったな。助かって良かったよ)」
「(ピコピコ)グハッ!マジ死ぬって!」
なんなんだ、魔王って奴は。
俺を生かしテェのか、殺しテェのか、どっちなんだよ。
◇◇◇
魔王は随分と長い間、大人しくしていたが、何やら怪しげに準備を始めた。
コイツとの付き合いも随分長い。こりゃぁ何かやらかすつもりだ。
予想は大当たり。魔王は次のターゲットを地龍に決めたようだ。
次の日、俺を肩に乗せ地龍の巣に潜って行く。
地龍は何でも喰っちまう。その食道を歩くなんざ正気の沙汰とは思えねぇが、まぁ魔王だ。
平気な面してズンズン奥へ入って行きやがる。
しっかし、魔王はどうやってあの地龍を殺るつもりなんだ?
あいつに通用する攻撃なんざ、全く思いつかねぇ。
いくら魔王の魔力が強かろうが、地龍の外皮をどうにか出来るとは思えねぇ。
暫く地龍の食道を歩けば、スライムどもが隙間なく洞窟内を埋めてやがった。
コイツら、何処から出て来んのかと思ってたが、地龍の巣を間借りしてやがんのか。
地龍はさらに奥か。
流石の魔王も引き返すしかねぇだろうな、なんて考えてたらよ、相変わらず魔王のやる事は信じられねぇ。
スライムに火、点けやがった。
良いか、ここは平原でも、森の中でもねぇ。
逃げ場の無い、洞窟だぜ。
そんな事する奴は、自殺してぇ奴くらいしかいねぇだろう。
しかし、奴はやりやがった。
直ぐに黒煙が上がり、俺達も火に巻かれる。
慌てて地龍の巣から上がってきたが、この魔王にはいつか分からせてやりたい。
死ぬ時は俺を巻き込むなってんだ。
◇◇◇
魔王はスライムに火をつけると、数日かけて地龍を丸焼きにしやがった。
まぁ火に当たらなくとも、逃げ場無しの洞窟であの煙に巻かれりゃ、いくら地龍でも持たねぇな。
地龍をどうやって殺るのかと思っていたが、こんな殺り方とはなぁ。相変わらず、エゲつねぇなぁ。
手も足もでねぇまま、戦わずして死ぬしかねぇなんて同情するぜ。
さぞ、無念だろうよ。
◇◇◇
数日が経って、魔王と地龍の巣に戻ってきた。
地龍の野郎はだらしなく、横たわってやがった。
クソッ!魔王め。
あんまりだ。
勝てば良いのかよ!
俺たちは聖域を求めて、さんざん殺し合ってきたが、それは一族としての強さを示す戦いでもあんだよ!
こんな、襲われた事すら知らねぇ内に、殺されるなんてよ。
俺は地龍に怨みがねぇ訳じゃねぇ。
だが、そんな俺でもよ、同情しか浮かばねぇよ。
地龍よ。俺に魔石を寄越せ。
俺が喰ってやるよ。
「(カブ太〜。どうにかなりそう?)」
邪魔すんじゃねぇよ。
クソッ、クソッ、地龍よ。俺に魔石を寄越せよ。
オメェの魔力も使って、俺が魔王をぶっ殺すからよ!
全力で外皮を破ろうとしたが、死んでも地龍。
俺の力じゃ魔石を喰うことは出来なかった。
クソッ、目にゴミが入っちまった。やけに視界が滲みやがる。
◇◇◇
魔王は数日、ゴソゴソしてやがったが、俺を乗せ地龍の巣に戻って行く。
今頃、地龍はスライムに飲まれちまってるだろうに、何なんだ?
「(ごめんね、カブ太。魔石取れなかったよ)」
「(ピコ)グハッ!」
何だよ!地龍の亡骸の前でわざわざ呪禁かよ。
歯向かえば、俺もスライムの餌にするって事かよ。
クソッ、服従はしねぇぞ。ここまで、オメェの魔力に耐え忍び生き残ってきたんだ。
負けてたまるか。服従すれば、それはもう俺じゃねぇんだよ。
生きてやる。俺は生き延びてやる!
◇◇◇
幾日が過ぎたのか、満月を何度も見た。
魔王は俺を飼い殺しにしながら、毎日、飽きもせずゴソゴソと何かやってやがる。
今度こそダメかも知れねぇ。
毎日の呪禁で魔石がまた割れそうだ。
生きてるだけで精一杯だ。
最近、よく考えちまうんだ。
こんなに辛いんなら死んじまった方が楽かもってな。
ビクビクと、いつ来るかわからない呪禁に怯え、怨敵魔王から僅かな魔石を与えられ命を繋ぐ日々。
甲一族の誇りもあったもんじゃねぇ。
カカァよぉ。俺は思ったより弱ぇんだな。
もう疲れちまったよ。
「(カブ太、久しぶりに大物釣りやろうか?負けっぱなしは気に食わないもんね)」
「(ピコピコッ)アァァァッ!勘弁してくれ!」
魔王は盛大に呪禁を俺に放ち、怪しげな気配を放ち始めた。
こりゃぁ、また何かやりだすぞ。
肩に乗せられ、向かった先は海竜の棲家から目と鼻の先だ。
ついにおっ始める気だ。魔王は四強全てを倒さねぇと気がすまねェようだ。
そして魔王は餌を糸で操り、海竜の棲家付近で遊ばせ始めた。
なるほどな。海竜は食い意地が張ってるからな。
あんだけ餌にウロチョロされりゃ、怪しいと思っても、喰いつかねぇ訳がねぇ。
おおっ、海竜の野郎、巣から出てきやがった。
オメェも終いだな。魔王の罠だよ。
「(カブ太!見た?ヤバいって。超デカかった。アレ何だよ!丸呑みだよ!丸呑み!)」
「(ピコピコ!ピコピコ!)ウガァァァ!俺も纏めて始末する気かよ。クソッ!」
ついに魔石にヒビが入っちまった。身体中が痙攣しやがる!
「(カブ太!あれ!)」
「(ピコピコッ!)オヴォェッ!ゲハッッ!」
終わった。魔石が砕ける寸前だ。
海に海竜が浮かんでやがる。オメェも死んじまったか。
もう、無理だ。
今まで好き勝手に生きてきたが、ここで終わりか……
最後にカカァに会いてぇなぁ。
羽よ。俺の羽よ。
あとちょっとで良いんだ。
最後に動いてくれよ。
魔石が砕け始めたのもお構い無しに、魔力も体力も生命力も、何が何だか分からない身体中のありったけを込めて羽ばたく。
「ブォォォーン!」
良し!
動くじゃねぇか。
良いぞ。これで最後だ。
「(行くの⁉︎)」
「(ビコビコッ!)ガハッ!」
魔石が砕けるのが先か、海竜に辿り着くのが先か。
「(死ぬなよ!)」
最後の一撃で、俺の魔石は確かに砕けちまった。
胸の中でポロポロと崩れ、魔力と違う、俺の命が漏れ出ていくのがはっきり分かる。
そっからは不思議だが、見えてるもんが、こうゆっくりでよ。
海竜の鱗を突き破り、馬鹿でかい魔石が目の前に来るまで、随分長かったような、あっという間のような、変な時間だった。
海竜の魔石に喰らいつくと、身体中がバラバラになったと思った。いや、本当にバラバラになっちまったのかも知れねぇ。
ツノの先から足の先まで、余す事なく激痛みたいな衝撃が走ったと思ったらよ、俺は生まれ変わったんだ。
「(カブ太?色が…というか、デカくなってるよね!)」
「(ピコピコッ!)グッ、クッ!」
わかってたぜ魔王!直ぐに呪禁が来ることくらいな!
だがな、今までの俺じゃねぇんだよ。
フハハハハッ!すげぇぞ!
これが進化ってやつか。
魔力が桁違いじゃねぇか。魔王の呪禁すら、上手くいなせば耐えられねぇ事はねぇ。変わらずツノは動いちまうがな。
「(魔石食べれた?)」
「(ピコピコッ)グッ、ハッ!」
おおっと、危ねぇ。ちょっとくらっちまったが、まぁ大丈夫だ。
こんなに気分が良いのは久しぶりだぜ!
魔王!
今に見ていろ!
テメェをぶっ殺すのも、そう遠かねぇぞ。
「(カブ太、一緒に居てくれてありがとうね。これからもよろしく)」
「(ピコピコッ)クッ、グッ、ぐえッッ」
クソッ!長ぇんだよ!
いなせねぇと、しっかりダメージ食らうのは変わりねぇか。
しっかし、進化してみてわかったが、本当に魔王は規格外な奴だ。
強くなって初めてコイツの強さが分かったかも知れねぇ。
クソッ!それでもよぉ、やるしかねぇよな!




