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カブ太 3

 魔王は頭が悪いのだろうか?

 よりにもよって、ドラゴンの巣にノコノコと入っていきやがる。

 まぁドラゴンがこの島に来るのは寒くなった頃だ。それでも、近づく者はいねぇ。


 いくら魔王とはいえ、ドラゴンは無理だ。ありゃ相手にするとか、そんなんじゃねぇんだ。もっと別の何かで、嵐とか山が火吹くのとかと同じ類いだ。


 恐ろしい。ドラゴンの巣に入るだけで、こっちは気絶しそうだぜ。


 魔王の奴は巣から帰ったと思ったら、何日も土を捏ねたり焼いたりしてやがる。

 恐らく、魔界の儀式なのだろう。

 何が起こるのかはわからねぇが、とんでも無いことを企んでやがるに違いねぇ。


◇◇◇


 魔王がまた動き始めやがった。

 森に入って行くようだ。


 何とかしてぇが、魔王は強すぎる。認めざるを得ねぇ。

 魔王を止めるどころか、魔石を割られないように、守るだけでも精一杯な状況だ。


 儀式の間に、魚の魔石を喰ってはいたが、小さすぎて今の俺にはいくらの足しにもならねぇ。

 もっと魔力量がいる。魔石を何とかしねぇとな。


 久しぶりに入った森は、一族を西へ避難させてるせいか、小蜘蛛がわんさか居やがる。

 普通なら絶ってぇ許さねぇとこだが、まぁコイツらにとっちゃ親の仇だ。見逃してやろう。


 小蜘蛛どもは魔王を恐れ、遠巻きに見てるだけでだったが、そのうち、気合の入った一匹が魔王の首筋目掛け、飛び込んで来た。


「(ブンッ)」

 小蜘蛛の生命をかけた仇討ちに、こっちも思わず武者震いしちまう。


 しかし、魔王は糸で守りを固めてやがる。

 小蜘蛛はあっさりと捕まり、簀巻きにされちまった。


「(カブ太、ありがとう。助かったよ。)」

 魔王は戦い足りなかったらしく、俺にもたっぷりと魔力を流し込んで来やがった。


「(ピコピコッ)グエグエェ」


◇◇◇


 思った通りマザーの旦那が出てきやがった。

 そりゃ敵討しねぇとな。

 マザーよりも数段落ちるとは言え、コイツも聖域の生き残りだ。

 やれるだけやってみな。


 こっちまで緊張感が伝わって、思わず力が入っちまう。


「(俺の勝ちだよ。悪いね)」


 しかし、現実は無情だ。

 旦那如きじゃ魔王とは話にならねぇ。あっさりと殺されちまいやがった。

 しゃぁねぇな。


「ブンッ(せめて俺の糧になりやがれ!)」


 マザーに旦那、小蜘蛛達の思いも全部俺が背負ってやる。俺が強くなってやらぁ!


 魔石を食い終わると、魔王は直ぐ様、呪禁を放ってきやがる。


「(ん?カブ太、なんかデカくなってない?)」

「(ピコピコッ)勘弁してくれぇ」


 しかしな、喰ってやったぞ!

 魔王!見下してんのも今のうちだ。

 そうやって、俺がいくら魔石を喰おうと、無駄だと言いテェんだろうがよう、登ってれば届かねぇ蜜はねぇんだ。


◇◇◇


 魔王はしばらく大人しくしていたが、また森に向かいやがった。久しぶりの森は蜂どもが繁殖してやがる。

 コイツら数が多いから面倒なんだよなぁ。


 まぁそれでも魔石の質は、魚よりよっぽどいい。


 斥候蜂か。取り敢えず喰うか。

 臭いを出されねぇように、一撃で殺さねぇとな。


 そう思い突っ込んだが、魔王の糸が邪魔でスピードがイマイチでねぇ。

 バッチリ仲間を呼ばれちまった。


「(何?カブ太、この蜂って危ないの?)」

「(ピコピコッ)ギャッッ!」


 クソッ、悪かったって。テメェの糸が無けりゃ、臭いなんか出させなかったんだ。

 逃げねぇとヤベェ。


 急いでその場を離れるが、魔王の奴は逃げながらも、俺に魔力を流してきやがる。蜂を呼んだ罰なんだろうが、ちと厳しすぎる。


「(カブ太、万事休すかな……でも、やるだけやってみましょうかね)」

「(ピコピコッ)ウボェ!」


 ヤバいな。いつもより呪禁が長ぇ。もう魔石が持たねぇ。


「(カブ太、参ったね。とりあえず、刺される事は無いだろうけど、動けないよ)」

「(ブンッブンッ)アガァッ!ヒビが!」


 ダメだ、ヒビが入っちまった。

 こんなところで死ぬわけにはいかねぇ。魔石だ。一個でも多く、魔石を喰わねぇと……


 必死で蜂を殺し、魔王の出した糸の隙間から、魔石に貪りつく。


「(カブ太、気持ち悪い。ちょっと休むね)」

「(ブンッブンッ)ガハッ!」


 魔王め、俺の魔石にヒビ入れて、魔力量をきっかりゼロにしやがった。ここまで命を弄びやがんのかよ!なんて残酷なんだ。

 確かに蜂を呼んだのは俺だ。命を賭けて蜂どもを始末するしかねぇ。


 そうして、魔石を喰い、喰った魔力で次の蜂を殺す、ギリギリの戦いが始まった。

 一匹でも仕留め損ねれば、そこでアウトだ。


 クソ!死んでたまるか。

 やってやらぁ!


 どれだけ殺ったかわからねぇが、ようやく、ようやく長い戦いが一段落し、魔石も何とか応急処置が出来た。

 ギリギリだった。本当に危ねぇ戦いだったぜ。

 

「(カブ太、何処?)」

「(コトコトッ)グェェェ……」


◇◇◇


 起きてみれば、まだ命があった。


 一族の頭として、気持ちだけはどんな奴にも負けねぇと生きてきたが、本当に死の淵を彷徨えば、さすがの俺も理解するぜ。


 魔王には勝てねぇ。俺の負けだ。


 動かねぇ身体でそんな事を考えていれば、目の前には蜂どもの死骸が何百何千って目で、こっちを恨めしそうに見てやがる。


 あぁそうだな。オメェ達の命を奪ったのは俺だな。


 諦めるわけにはいかねぇか。


 魔石が残ってる蜂を探し喰い続けた。もう魔力が溢れ、魔石がキリキリと悲鳴をあげても喰い続けた。

 これは弔いだ。そして誓いだ。


 残った蜂は、魔王が魔石だけ取り出したようだ。

 死して魔石を晒されるなど、屈辱の極み。

 蜂達よぉ、今は無理だが、待ってろや。確かにオメェ達の怨みも俺が背負ったぜ。


◇◇◇


 あれから暫く魔王が大人しくしていると思ったら、何やら新しい武器を作ってやがる。

 あの糸で魔王の全身を覆いやがった。

 恐ろしい。常に糸を纏い、触れた瞬間に魔力を流すつもりか。


 そんな恐怖からか、俺の魔力感知は鈍ってやがったんだ。

 いつもならもっと遠くで感知できるってのによ。


 島に重厚で巨大な魔力が近づいてくる。これに比べりゃ、魔王の魔力ですら微々たるもんだ。


 今年もこの時期が来たか。


「(カブ太?どうした?危ないの?)」

「(ピコピコッピコッピコピコ)グエェッ!呪禁唱えてる場合じゃねぇだろう!早く避難すんだよ!」


「(シェルターに戻った方が良いの?)」

「(ピコ、ピコピコッ、ピコピコ)オェッ!いや、マジでそんな場合じゃねぇって!ドラゴンだよ!」


 魔王は俺達に匹敵する魔力感知を持ってるはずだ。

 なのに、やけにのんびりしてやがる。どういう事だ?

 この魔力を感じてねぇ訳ねぇだろう。穴蔵でも何でも良いから、早く逃げねぇと魔力に当てられるだけでも死んじまうかも知んねぇんだぞ。


「(カブ太、あれドラゴンだ……)」

「(ピコピコッ)グボッ。頼むぜ、逃げようぜ。」

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