聖域の覇者 カブ太列伝 1
随分と唐突な話さ。
今までどれ程の血が流れたのか、誰も分からねぇこの聖域大戦で、四強と言われるマザーの魔力が消えちまった。
奴は憎いが、その実力は認めざるを得ねぇ強者。
何が起きやがった。
魔力が消えたのは島の南東あたり。チンケなカニが居るくらいの場所だ。マザーがやられるとは思えねぇ。
「頭〜頭〜!大変だ!」
相変わらずフラフラと下手くそな飛び方でテボが飛んできた。
「マザーか?」
「へい!突然、魔力が消えちまったんでさぁ!」
「馬鹿野郎!そんな事は分かってんだ!何があったのか分かったのか?」
「いや、それはまだ……」
「テメェ、なにボヤッとしてやがる。さっさと行って調べてこい!」
「ヘイ!」
何だか嫌な予感がしやがる。
◇◇◇
マザーが消えてから二日目の朝、とんでもない魔力に島中が当てられた。
「アンタ、どうなってんだい。こんな魔力、ドラゴン以外に考えられないよ。」
「心配すんなカカァ。俺がいるだろう。オメェは皆と一緒に森の奥へ引っこんでろ」
「でもさ、アンタ」
「つべこべ言うな。ドラゴンが来るには早すぎる。これは別の奴だ。なぁに、オメェ達には爪一本触れさせやしねぇ」
「頼むから無理しないでおくれ」
「俺が帰ってこなかった事があるか?ねぇだろうが。心配すんな。落ち着いたらよ、気絶するまで抱いてやるからな」
「バカ言ってんじゃ無いよ。本当に……」
カカァは良い雌だ。小せぇ頃から憧れ、やっと番いになれた最高の雌だ。死なせねぇ。
「頭!俺も行くぜ」
テボは馬鹿で無鉄砲だが、命の賭けどころは間違えてねぇ。そこだけは誉めてやるか。
「よく言った。だがなオメェは次だ、テボ。順番を間違えちゃいけねぇ。俺が頭だ。オメェは皆を守れ。分かったな。」
「頭〜!」
「さっさと行け!」
「アイッ!」
森は俺達の縄張りだ。テボが守りに徹すれば、そうそうやられる事はねぇ。これで甲一族の血は繋がるだろう。
しっかし聖域とはいえ、これだけ魔力を垂れ流しにするってのは、どんだけ無尽蔵な魔力量してやがる。それにこの魔力はマザーの匂いもしやがる。どうなってんだ、本当によ。
直接、拝んでやるとするか。
◇◇◇
膨大な魔力に当てられ気が遠くなりながらも、その原因を探ってみれば人間が居やがった。
背が高く毛の薄い人間だ。
視界が歪むほどの魔力を撒き散らしながら、普通にしていやがる。
ん?糸だ。
あいつ糸を出しやがった。マザーは取り込まれたって事か。
マザーを取り込めるって事は、あいつはハナっから、マザーを上回る容量があったって事だ。
それはあり得ねぇ。
魔石を喰らって魔力を上げるってんなら分かるが、マザー程の魔力を取り込むなんて出来る訳がねぇ。
そんな存在はあり得ねぇんだ。
そんなのが突然、降って湧くなんてよ、そりゃぁまるで御伽噺の魔王じゃねぇか。
……マジか⁉︎
コイツが魔王!
本当に居やがったのか?
上等じゃねぇか。
聖域を手に入れるのは一族の悲願。
どれだけ仲間が死んでいったと思ってんだ。
どんな奴が来ようとな、後には引けねぇんだよ。
マザーが魔王に変わっただけじゃねぇか。
しかし、何も正面から突き合う必要はねぇ。
しばらく様子を見るか。
◇◇◇
不味いな。
マザーより糸を使いこなしてやがる。
カニ野郎があっさりと殺られちまった。
まだ崖下から出て来ねぇようだが、あんだけ糸を使われると森でも分が悪いかもしれんな。
どうすっかな……
◇◇◇
やべぇな。ついに浜から出て来やがった。
まだ森には入ってこねぇが、時間の問題かもしれん。
スライムの奴らがちょっかい掛けたみてぇだが、大して効いちゃいねぇようだ。
あいつらは一度取り憑かれると厄介なんだがなぁ。
魔王の方が上手って事か。
◇◇◇
不味い、不味い。
ついに森に入って来やがった。
「テボ、返事をしろ!」
「はい!頭!」
「良いか、この森は捨てるぞ。お前達は、西に移動するんだ!」
「しかし、西はドラゴンとかち合うかも知れませんぜ」
「んなこたぁ分かってんだよ。仕方ねぇんだ。まだドラゴンが来るには時間があらぁ。オメェが頼りだ。」
「分かりました!姉さんにはなんて言えば」
「俺に万が一があったらよ、好きに生きろと、そう伝えてくれや」
「頭!俺、信じてますから!絶対に死なねぇで下さい!」
「ヘッ、死ぬ気で行くが、死にてぇ訳じゃねぇ。伊達に甲族の頭を張ってんじゃねぇ。今までもこれからも俺は死なねぇよ!」
頼んだぞテボ。オメェ達は逃げるんだ。
まだ土から上がって来てねぇ子供達がこの森には居るんだ。
せめて頭として、動けねぇ子等は守ってやらねぇとな。
◇◇◇
魔王は俺達の森を狙ってんのかと思ったが、通り過ぎて豚野郎のテリトリーでわざわざ寝ちまいやがった。
ここまで挑発されりゃ、豚野郎も黙っちゃいねぇだろう。
案の定、ノコノコ出てきやがった。
豚野郎は今直ぐにでも俺がぶっ殺してやりてぇが、今は我慢するしかねぇ。
豚野郎、マザーが居なくなったこの隙に、魔王を食らって、一気に成り上がる気か?
それとも、魔王の魔力に当てられて、やけっぱちになってやがんのか?
豚野郎が魔王とやるんなら、俺もやるしかねぇ。
腹を括って、一触即発の空気にジリジリと身を焼かれたが、結局豚野郎は様子を伺うだけで、何も仕掛けなかった。
不思議なのは魔王も動かなかった事だ。もしかしたら、魔王は夜目が効かねぇのかも知れねぇな。
豚野郎も役に立つ時があるじゃねぇか。
◇◇◇
やっちまった!
あの豚野郎が夜中にウロウロしやがるもんだから、寝不足だったんだ。
気づいたら魔王が目の前に居やがる。
ここは仕切り直しだ。一旦、逃げるんだ。
ウガァァァ!
エゲツねぇ、糸を巻いて直接大魔力をぶち込んできやがる!なんて攻撃だ。
ダメだ!ここから剥がされる訳にはいかねぇ!
ウガァァァアァァァッ!
足の一本一本にまで、大魔力かよ!
ダメだ!
流石、魔王だ。魔力の桁が違い過ぎる。
カカァ、俺はここでお終いみてぇだ。奴がでっけぇ眼でコッチを見てやがる。喰われちまう。
「(なぁ、お前、一緒に来るか?)」
「(ピコピコッ)ウグァーアァァァッ!」
なんだ!なんの攻撃だ!
魔王の奴が何か唱えると、全身の魔力を掻き乱され、ツノが痙攣しやがる!
一思いには殺さねぇって事か?
舐めんなよ。
これでも甲族の頭だ!一族の場所は教えねぇよ。
「(俺さ、一人で海岸に住んでるから。エサは準備してやるからさ、色々島の事教えて欲しいんだけど)」
「(ピコピコッ)ウガァァァアァァァアァァァッ!」
効くぜ、この野郎。ハァハァ。
「(良いね、お前。話し通じてるんじゃないの?)」
「(ピコピコッ)オォオォオォォ!」
ヤバい、意識が朦朧としてきやがった。
「(じゃ、お前の名前決めてやるよ。あれだな。カブ太な)」
「(ピコ)グェ」
それから、魔王に捉えられた俺の地獄が始まった。
御伽噺の方がまだマシさ。現実の魔王は容赦がねぇ。
一族の情報を吐かない俺に、飽きることも無く常に糸から大魔力をぶち込んできやがる。
魔王が呪禁を唱えるたびに、俺の魔石が悲鳴を上げ、ツノが痙攣しちまう。
死よりも恐ろしい、こんな地獄があるなんて。
起きてる時はよ、まだマシなんだ。
心構えが出来てるからよ。
魔石に魔力を纏わせて、何とか耐えるんだ。
しかし魔王は恐ろしいぜ。
こっちが寝ようものなら、朝に夜に毎日、呪禁をぶち込んで来やがる。
魔力を纏ってない時のダイレクトはヤバいぜ。一撃で魔石が砕けちまうかもって衝撃だ。
なぶり殺しだ。
しかしよ、俺は頭だ。
カカァや子供達。そして仲間は売らねぇ。
殺ってみろよ、魔王。
耐えてやるよ。死んでたまるか。
魔石だ、魔石がいる。
魔石喰いまくって、魔力量を上げねぇと、このままじゃ俺の魔石が持たねぇ。




